第21話 サラサ再び

 オーククイーンを討伐してじじいも逃がし、街に戻りました




「はあ、どうりでねえ」


 酒場で俺を出迎えたサラサさんが、ため息をつく。


「なにか険のあるいいかたですわね」


 とフェアリ子が食ってかかりそうになる。


「お兄ちゃん?」


 グリスラ子が心配そうな表情で俺を見つめる。


 パタパタとフェアリ子がサラサさんの顔の目前まで飛んでいく。


「いいたいことがおありならはっきりおっしゃったらどうですか?」


 とフェアリ子がサラサさんに向って言う。


「別に、人の趣味に文句つけるつもりはないさ。

 逆に安心したぐらい。

 どうしてこの坊やがあたいの誘惑になびかなかったのか。

 その理由が……」


 と、サラサさんはそこで言葉を切り、フェアリ子、グリスラ子、タマを順に見回した。


「ロリコンだったなんてねえ。

 まあ、勇者がロリコンなのはこの世界の定めみたいだし。

 それより、わざわざやってきてくれたってことは、そういうことなんだろう?」


「ああ、ピンクスライムゼリーだ。

 しばらくの間持つぐらいの量はとってきてある」


「ありがとうね。一応お礼をいっておくよ」


「じゃあ、橋の工事は任せたぞ」


「簡単には請け負えないけど、多分明日にはやる気になってるだろうね。

 これだけの量を貰ったら、しばらくは持つだろうけど……。

 洞窟の中はどうなってるんだい?」


 その質問にはグリスラ子が答えた。


「今はピンクスライムが沢山いるぷる。

 でも、入り口付近にケルベロスが居座ってるから中には入れないぷるよ」


「あのおじいちゃんに止められるにゃ」


「なるほどね。まあ、これを使いきったらその時はその時でまた考える必要がありそうだね」


「ああ、力になれるか、そもそもタイミングよく会いに来れるかわからないが、機会があればまたなにか手伝えるかもしれない」


「期待はしないで待っとくよ。せいぜい大事に使わせてもらうことにするさ」


 と、あとは事務的な話になる。

 サラサさんが明日から工事に復帰すること。

 そのための連絡を今から各所に伝えに行くこと。

 仮の橋が架かって渡れるようになるのは早くて明々後日しあさってぐらいだということなどを聞いて俺達はサラサさんと別れた。




「明々後日ということは、結構時間が余ってしまいましたわね」


「そう急ぐ旅でもないからそれはいいんだが」


「でもその間どうするぷるか?」


「必死にレベルアップする必要もあまり感じないしな。

 ここらで、牧場のモンスターを充実させておくか。

 幸いにして資金には余裕があるし、転移石トランストーンでなんどか往復するぐらいで今までの出現モンスターは集められるだろうしな」


「さしあたってこの辺りに出現する、ラミアとマッドゴーレムあたりでしょうか?」


「そうだな。

 転移石トランストーンで移動できるのは俺も含めて4人までだから、それにブルースライムを加えて3匹いっぺんに連れていくのが理想ではある。

 レベル上げも兼ねてコツコツ戦ってれば明日の午前中には集められるだろう。

 そのついでに俺だけ初めの村付近でマミーを仲間にできたらとりあえず今までのモンスターは一通り集められることになる。

 明後日のことはまたそれから考えよう」


「にしても明日からの話だにゃ。

 お腹すいたにゃ」


「もうぷる。タマったらすぐにご飯の話ばかりぷるね」


「仕方ないにゃ。お腹が減るのは野生の摂理にゃ」


「飼い猫がよくいいますわ」


「おにいたまに飼われても、野生の心は捨てないのにゃ。

 それが猫の矜持なのにゃ」


「まあいいさ。

 今日はいろいろあって疲れただろう。

 ちょっと豪勢な食事でも食べることにしよう」


「御祝いだにゃ!」


「兄様……、それはいいのですが……」


「あの、わたしも……できたらでいいぷるが……」


 なにやら言いたげなフェアリ子とグリスラ子である。


「どうした?」


「ご飯は食べたいぷるが、お肉……特に豚肉は……」


「今日は遠慮したい気分ですわ」


「ならお魚にするのがいいにゃ!」


 言われてみれば確かに納得の意見である。

 あの光景――思い出したくもない――は三者三様、俺も含めて四者四様にトラウマを残しているのである。

 豚肉といえばオーク、オークといえば……。食欲が減衰するのも無理はないか。


「わかった。ちょっとそこらで魚のメニューにこだわった店が無いか聞くとしよう」




◇秋月の子ヤギ亭




「いらっしゃいませぇ~」


 やってきたのは幼女だ。


「四人……うちモンスターが三匹、うちちっこいのが一匹なのだが空いてるか?」


「ええ、すぐに案内できますよぉ」


 好みのタイプの幼女だ。

 とはいえ……。

 この幼女はリアル幼女である。

 そもそもゲームには出てこなかったキャラである。

『秋月の子ヤギ亭』なんて食堂は、そこらの通行人に突撃取材を繰り返し、値段はそこそこだが、味は確かでこの街では有名な食堂だという意見を複数集め、他の店と吟味した挙句に辿り着いた店なのである。


 したがって、ゲーム内でこんな食堂を訪れる機会はなかったし、そもそも存在すらしていなかった店なのだろう。


 たまたま幼女が家の手伝いをしてウェイトレスをしているのであろう。


「お兄様、鼻の下が伸びてませんか?」


「いや、そんなことはない」


 デレデレしてると、おまわりさんこっちです、通報しますたなどと書き込まれかねないので、俺はできるだけ幼女を見ないようにして、席に案内された。


 四人掛けのテーブルに、俺が座り、向かいの二席にグリスラ子とタマが座る。

 フェアリ子は俺の隣の席というかテーブルの上にちょこんと乗っかってしゃがみこんだ。

 テーブルに座るなんて行儀が悪いが、フェアリ子のサイズでは仕方ないことだ。


「こちらがメニューになりますぅ」


「おすすめはなんですの?」


「そうですねぇ、日替わり川魚の香草包み焼きなんかが人気ですぅ。

 それと茸のポタージュとかぁ。

 お肉料理ならぁ」


「いや、肉はいい……」


「そうですかぁ。お魚料理で他のでしたらぁ、フライにしたのとかぁ、あと煮込み料理もありますねぇ」


「どうする?」


「わたしはお兄ちゃんと同じのにするぷる」


「タマは、なんでもいいにゃ! 任せるにゃ!」


「そうですわね。わたくしは、お兄様とは別のメニューにして半分個いたしません?」


「フェアリ子は一人前は食べられないだろ?

 みんなで少しずつ取り分けてやるからそれで我慢しろ」


「結局……そういう扱いなのですね……」


「仕方ないぷる」


「フェアリ子は小食だからにゃ。

 でも、タマは二人前ぐらいペロリといけるにゃ。

 せっかくだからフェアリ子にも料理を頼んであげるといいにゃ」


 などと、だらだらと話して結局、包み焼きを二つとフライと煮込みをそれぞれ頼むことになった。


 料理が運ばれてくるまでの間、食前酒代わりのジュースを飲みながら談笑していると、


「お兄ちゃんはぁ、勇者さまぁ?」


 と、さっきの幼女がとことことやってきて尋ねる。


「ああ」


 できるだけ幼女を見ないようにしながら答えた。


 俺はモンスターを連れており、それができるのは勇者だけだという設定なのでまあばれるだろう。

 恩着せがましくいろいろと面倒なことを言い出されないように他の店ではそれに触れないことが多いとかいうよくわからない理屈を聞いたところであるが、この幼女は幼女だからか、元々の性格なのかずばっと切り込んできた。


「そうなのです。お嬢ちゃん。お兄様は勇者。

 それでもって、今も大事な話をしているのです。

 世界の未来がかかっているのです。

 なので、あっちへいってらっしゃい」


 と露骨に幼女を冷たくあしらおうとするフェアリ子だ。


「ちょ、そんな言い方しなくても……」


 と思わずとっさに突発的に幼女の擁護に回ってしまった。


「お話……だめぇ?」


 幼女(に見える掛け値なしの幼女)が見つめてくる。見つめられると弱い。


「なにか相談事でもあるのなら聞いてやろう」


「もう、お兄様ったら……」


 とフェアリ子は拗ねてしまう。


「まあまあ、困っている人がいるのにゃら助けるのがお兄たまのいいところにゃ」


 最近仲間になったばかりの癖にタマが知った風な口を聞くのを聞き流し、再び幼女に目をやった。


「ほんとぉ! あのねぇ……」


 と幼女(見た目≒年齢)が語り始めた。

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