第12話 ブルセラ子

 いよいよの明日になったので次なる目的地を目指して遠出することになりました




 今の拠点にしている村にももちろん道具屋や武器防具屋はある。

 道具屋では、薬草ハーブはもちろん、キメラの翼的な――使えばワープできる――役割を果たす転移石トランストーンを念のために買って置く。これはあらかじめ目的地が登録されており、決まった場所にしか行けないが、転移魔法エレポートを覚えるまでのつなぎとして、万一の備えとして重宝する。


 しかしながら、初期装備に毛が生えた程度の攻撃力、防御力しかない武器防具のたぐいはまだ購入しないでおく。

 次の街では値段は高くなるがもう少し使える武器防具を売っているのでそれを目標にしたほうが出費や効率面の上でベターなのである。


 あとゲームでは気にすることがなかったが、遠出するなら食事も必要だ。

 夜までには次の街に着くとして昼食を用意しておかなければならないが、これは宿屋に頼んだら3人分作っておいてくれた。


「これは、お気遣い、ありがたいコボで。

 わざわざあっしの分まで用意していただかなくとも、その辺の木の皮でもしがんでおくコボに!」


「わたしも、その辺のコケでもちぎって食べてても全然平気ぷるよ、お兄ちゃん」


「いや、そういうわけにもいかんだろ……」


 ということで、出発である。


 村から近い場所ではグリーンスライムやコボルトが出現する。

 俺のレベルが3でグリスラ子とコボル子が4にまでなっているので、無傷で勝利とはまではいかないが、かなり楽に戦える。


 だが、目的は距離を稼ぐことなので、どうしても戦わないといけないモンスターだけを倒してずんずんと進んでいく。


 少し村から離れるとマミーがちらほら現れるようになる。

 何匹倒しても、「ううぅぅぅううう」とうめき声しか漏らさないどうしようもない奴らなので、素材やら経験値玉やらに変えてしまって、ぐんぐんと進んでいく。


「ここらから、次の区画エリアだな……」


 ちょうど草原から、木がまばらに生えた密度の低い林のような場所に辿り着いた。


 ゲームでは上空から眺める2Dマップでわかりやすかったが、実際に歩いてみると印象は全く違う。(当然といえば当然だが)


 だが、ゲームでの地形を踏襲しているのは宿屋などで聞いた情報からもわかっていたし、ここまで歩いた感じでは確かなようだ。


「ええっとぷる、お兄ちゃん。ここを迂回して行けばモンスターとの遭遇率が低くて……」


「まだマミー程度しか現れないってことコボな」


「ああ、普通は迂回していくんだろうけど、新しい種族とも戦ってみたいし、突っ切ったほうが早いからな。なに、薬草ハーブは沢山買い込んできたんだ。

 林のほうを行くぞ」


「承知コボ」「わかったプル~」


 というわけで、林の中へ。

 木々がまばらなのでそれほど薄暗いわけでもなく、剣を振り回すだけのスペースが十分にあるようだ。


 ふいにモンスターの気配がする。


「ブルースライムだな」


 見ればブルースライムが二匹こちらに近寄ってきているところだった。明らかに攻撃の意思がある。


「グリスラ子先輩の色違い……ってわけじゃないコボね!」


 基本的に、スライム系は雑魚であり、グラフィックは統一されている。

 幼女の姿(に見えるが、実は18歳以上)に、粘液を纏っているのだ。その粘液が緑――グリーンスライム――だったり、オレンジだったり(べス的な)するのだが、ブルースライムだけは、ちょっと特殊な外観を与えられている。


 青いブルマーに、体操着というなんとまあ、小学校の体育の時間という衣装なのだ。

 どこにスライム要素があるねんっ! っと突っ込みたくなるが、ブルースライム、略してブルスラとブルセラをかけたダジャレなんだろうなとユーザーの中では見解が一致している。要は製作者の自己満足兼遊び心なのであろう。寒かろうがなんだろうが。


 とにかく。

 ブルースライムとの戦闘に突入する。

 地域的には初めの村のエリアではなく、次の街周辺に該当するのでワンランク上の強さを持ったスライムなのだが、特に危険というわけではない。


「こいつらは一応回復魔法が使えるからな。

 下手に戦うと戦闘が長引きかねない。

 だから、一匹ずつ倒すぞ。俺に続け!」


 と、作戦を指示して、狙いを一匹に絞る。


 やはりこの面子では敵味方含めて俺が一番素早さが高いようで、攻撃権が回ってくる。

「えいっ!」

「セラぁ~!!」


 体操服が7割ぐらいはじけ飛び、ブルマーにもほつれが生じる。


 続いて、グリスラ子の攻撃だ。相変わらずの体当たりである。


「ぷるぷる~!!」

「セラセラ~!!」


 ブルースライムの悲鳴とともに、体操着が全てはじけ飛んだ。小さな胸が露わになる。貧乳とよぶのもどうかと思われる発達途上の(とみせかけて、発達途上っぽい18歳以上の胸)ふくらみと薄いピンクの突起。


「行くコボ~!!」


 続けざまにコボル子が幼女パンチを繰り出す。


「せ~~ら~~~~!!」


 甲高い悲鳴を上げたのと同時にブルマーもはじけ飛び、全裸の幼女がその場に横たわった。


 かなりギリギリだったかもしれないが、1ターンで一匹仕留めることに成功したようだ。


「せ、せら~?」


 残ったブルースライムはきょどっている。おっ、運がいい。攻撃をしてこないようだ。俗にいう様子を見ているという意味のないターン、行動権の消費である。


 俺にターンが回ってきたので、そのまま剣を振り上げ、ブルースライムに叩きつける。


「セラ~!!」


 その後グリスラ子、コボル子と続いて、2匹目も1ターンで仕留めることができた。

 ちゃんとレベルを上げた成果である。

 運が良かったというのもあるが、わずか2ターン、しかもノーダメージで戦闘を終わらせることができた。


『ブルースライムが仲間になりそうにこちらを見ている』


 2匹ともが顔を上げて、こっちを見てきた。この辺がゲームとの差異でゲームではそもそも一回の戦闘では一匹しか仲間にできない。

 さらにいえばパーティに空がなければ、仲間にすることができない。空がないときは既にいるパーティメンバーと入れ替えもできるのだが、それを嫌って3人パーティを続けるというプレイスタイルも推奨されているくらいだったりするのだ。


 しかしながら。

 この世界では戦闘に参加できるメンバーこそ4人までのようだが、引き連れて歩く分には制限がない。パーティメンバーの入れ替えも自由なようである。


 なので。

 2匹とも一応仲間に入れてやる。キープするブルースライムは一匹でよいが、性格を見てから決めたいというのが一つと、レベル1ではMPが少ないから回復魔法エキュアは一度しか使えないブルースライムだが、倒して回復魔法を使わせてから経験値なり合成素材に変えるという手順を踏めば、薬草ハーブを節約できるかもしれないというアイデアが浮かんだからだ。


「わっちを仲間にするとはお目が高いセラじゃー」

「それを言うならわっちのほうが有益じゃセラ」


「なんかお前ら面倒くせえ」


「それを言うなのじゃセラ」

「そうセラじゃー」


 のじゃロリで体操着といういかんとも節操のないキャラのようである。語尾もぶれぶれだ。


 適当に『ブルセラ子』と『ブルセラ子2』と名付ける。これもデフォルトの名前である。


 ブルセラ子は、青い髪のショートカット。ブルセラ子2も青い髪のショートカット。つまりは微妙に顔が異なる――まあまあ似てない姉妹くらい――以外は特に差異がないようだ。

 回復役はパーティに必須とはいえ、ブルースライムはどれだけ育てたところで、たいしてMPが増えず、さして役に立たない。

 序盤は火力で押し切るほうが効率が良かったりもする。一匹は適当に残して、あとは使い捨てにしてやろう。


「じゃあ、行くぞ。しばらくはブルースライムばかりだろうが、もう少し進めば違うモンスターも出てくるだろうかなら」


「はーいぷる~」


 とグリスラ子が俺のすぐ後ろへと着いてきたところで、


「ちょっと待つセラのじゃー」

「待つセラのじゃー」


 と二匹同時に待ったがかかる。


「どうした?」


「先へ進む前にわっちから話があるセラのじゃー」

「わっちは特にないセラのじゃー」


 なにやら、ブルセラ子には伝えておきたいことがあるらしい。

 そういえばゲームでもブルースライムはある種特殊な扱いを受けているモンスターだったな。

 それと関連するのかどうかはわからないが、とにかく話を聞いてやろう。

 

 

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