第4話 牧場

 牧場に着きました


「おや、モンスターテイムの才能があるようだね」


 目ざとくこちらを見つけた牧場の管理人が声をかけてくる。

 その顔立ちはゲームと同じ。じじいともばばあとも判別がつかないしわくちゃの老人だ。

 ゲームでは音声がなかったNPCノンプレーヤーキャラクターの一人だったので性別がわからなかったが、声を実際に聞いて、リアルな顔面を見たところで何故かじじいだかばばあだかわからなかった。


「ひょひょひょひょひょ」


 そうそう、このじじいかばばあ、うっとおしい笑いを頻繁に入れてきてむかつくんだよな。いっそ笑い声をカットする機能が欲しいと思ったくらいだ。ゲームだといちいちクリックしないと続きのメッセージが聞けなかったし。もちろんこの世界ではじっと待っていれば勝手に話が進む。


「そう警戒しなさんな。ひょひょひょひょひょ。

 こっちはね、そりゃあモンスター管理を商売にはしてるがね。

 わかるんだよ。あんたみたいなのはこの世界に重要な人物だってね。

 だから、お代は戴かないよ。まあ世界の平和に貢献するためにね」


 じじいかばばあの言うことは真実ではある。基本的にはこの牧場は無料で利用できるサービスなのだ。あくまで基本的には……だが。


「こいつらを預かって欲しいんだが」


「ひょひょひょひょひょ。

 これはこれはまた沢山連れて来たね。

 心配しなさんな。まとめて面倒みてやるよ。

 さて、どのモンスターを預けるんだい。

 うちに預けられるのは20体までだよ」


 あっ……。

 そういえば……。

 ゲームがすすむにつれて牧場は拡張できてかなりの数のモンスターを預けられることになっているから、すっかり忘れていたが……。


 初期段階では、20体という若干少なめの制限があるのだった。

 拡張するには結構な金額のお金やら、特別なアイテムやらが必要でこの世界に来たばかりの俺にはそのどちらも無かった。


 20体か……、若干余ってしまうな……。

 もともとグリスラ子は何人か宿に連れて帰って(自主規制)などを(自主規制)しようと思っていたから、今晩はいいとして。明日になったら新しいモンスターも増えることだろうし、キャパオーバーが確実だ。

 かといって……、経験値玉化や素材化するのもこのタイミングでというのは少々厳しいものがある。そもそも、それができないから牧場に連れてきたわけだし。


 アゴに手をやり考えていると……。


「あの、お兄ちゃん。ちょっとお話があるぷる~」


 とグリスラ子が俺の手を引き、グリスラ子集団と牧場管理人から少し離れたところまで引っ張って行った。


「あのぷるね、グリスラ子、牧場に預けてくれていいぷるよ」


「えっ? そうなのか?

 お前は一緒に宿に行こうと思ってたんだけど」


 もちろん(自主規制)のことは言わない。


「グリスラ子が言うのもおかしいぷるけど、お兄ちゃん、グリスラ子たちを大事にしてくれてるのはわかって嬉しいぷるけど、グリスラ子達ちゃんとわかってるぷるよ」


 グリスラ子の表情は明るい。

 だが、その奥にはなんとなく哀愁というか切なさが、愛しさはまだそこまでではないけれどないことはないので愛しさと切なさが滲んでいて心強さとかも少し見え隠れしている。


「な、なにを言ってるんだ……」


 心当たりはありありだが、一応念のために聞いてみる。あくまで平静を装ってだ。


「お兄ちゃんには大きな使命があるのわかってるぷる。

 だから……、グリスラ子達のこと……自由にしていいんだよ」


 じ、自由……と聞いて浮かぶのは(自主規制)やあんなことやこんなことだが、この文脈とグリスラ子の決意からはもちろんそういうことを言っているのではないというのがわかる。


「…………」


 返答に困っていると、


「中には、まだ覚悟ができてないこも居るかもしれないぷる。

 でも、そういうこにはちゃんとグリスラ子が責任を持って説明するぷる。

 だから、グリスラ子を牧場に預けて欲しいぷるよ、お兄ちゃん」


「グリスラ子……」


 もちろん、グリスラ子には愛着があるし、牧場は全モンスターをコンプすればご褒美がもらえたりするので、グリスラ子達のなかから一匹はキープ(牧場で飼い殺し)することは確実で、それはグリスラ子に半ば決めているのだが、その選択は間違ってなかったことを確信する。

 こいつは頼れるグリーンスライムだ。雑魚だけど。


「心配しないでぷる、お兄ちゃん。

 グリスラ子たちは、お兄ちゃんに出会えて幸せだったぷるから」


 いや、お前は残すしそんな別れの台詞みたいなのを聞くとちょっと目頭が熱くなるじゃないか……。


「すまんな。任せるよ。

 ついでに、牧場に入りきらないグリスラ子達のなかから宿に連れていくメンバーも人選してくれるか?」


「もちろんぷる!

 グリスラ子に任せるぷるよ!」


 とびっきりの笑顔(その奥には少しの切なさと、中くらいの愛しさと、大くらいの心強さが現れていた)で応えるグリスラ子。


 というわけで、グリスラ子セレクトのグリスラ子を残し、後は牧場の管理人に預けることになった。


「ひょひょひょひょひょ。

 責任を持ってお預かりするからな。

 会いたくなったり、心変わりが生じたらいつでも引き取りにくるんじゃぞ」


 会いたくなったらというのはいいとして心変わりというのはつまりはそういうことだ。

 明日にはそれを実行することになるんだろう。


 管理人のじじいかばばあに別れを告げ、

 グリスラ子11とグリスラ子15を連れて宿に行くことになった。どうしてこの人選なのかはよくわからんが。


 まあ、グリスラ子はメンバーが増えるたびに話しかけていたし、最古参(といっても数時間だが)だし、頼ったのはこっちなんだし信頼してしまっていいだろう。


 いろいろ残ってしこりが解決してさっぱりした気分だ。

 

 さっぱりしたところで、気持ちをリセットする。

 宿屋に向おう。

 お楽しみの夜が待っているのだとかなんとか興奮してきたりなんだったり。

 幼女(というのは見た目だけで中身は18歳以上)とお泊りだ。しかも複数。

 期待しかっ!!

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