その後の大軍師初音さま その6(完)



 てってれーてれれーれれれーれー



 船上なう。


 三浦半島の突端、三崎城に進行中。

 夜目の利く大軍師初音さまあっての行動だな。


 荒次郎は鎌倉へお出かけ中。

 ふざけたことしてくれた関東管領 上杉朝興さまに、いっつりべんじなうなのだ


 玉縄城から船で一直線。月も明るいし、安全に行けそうだ。


 荒井城を横目に進路を南へー。

 城ヶ島が見えてきたなー。


 城ヶ島は三崎城を半包囲するかっこうの島。昔から水軍拠点として活躍してた。

 風光明媚な土地で、北条早雲もここを訪れてる。直後に死んじゃったけど(史実話)


 ……変な呪いとかないよね?

 いや、三浦一族にとってはむしろイイ感じな土地なのか。


 三崎城に到着!

 出口茂忠でぐちしげたださんが出迎えに来てくれたよ!


 冴さんのパパで丸太郎のおじいちゃん!

 何かにつけて私をたててくれるいい人だよ!


 でも、なんでか最近は胃の腑の人と同じような表情してるよ!

 なんでだろうね!


 顔を合わせると、子供はまだですか? って急かされるよ!



 ・ ・ ・



 さて……

 用事も済ませたしリターンなう!


 一路、鎌倉へ!

 事情は向かいながらちゃんと説明しますよー。



 三行で。


 荒次郎の目論見は鎌倉公方体制のまき直し。

 そのために必要なものは全部揃った。

 だからとにかく協力しろ。



 って感じで。

 では、鎌倉向かって全速前進だーっ!





 ◆



 こちら初音ーク。

 若宮御所への潜入に成功した。


 若宮御所は、鎌倉にある、鎌倉公方の御所だ。

 現在の主は、今は亡き義明さまの息子の龍王丸くん(幼児)。後見人は義明さまの弟、基頼もとよりさま。


 そしてそれを支えるのは三浦、伊勢を筆頭に相模勢、太田、大石をはじめとした武蔵勢。


 爺さん怖い。荒次郎怖い。


 留め置いてた武蔵勢を鎌倉に引き込んで扇谷上杉朝興さまをハブにしやがった……

 真里谷のお兄ちゃんには猪牙ノ助の爺さんが交渉に行ってる。

 怒るぞきっと。いや、褒められるかもしれないけど……まったく、あの危険思想兄。


 まあ、ともあれ、私がお出かけ中に、かなりの進展があった。帰ってからも、だけど。

 義明さまの葬儀諸々からハブられた朝興さま、むっちゃ怒ってるに違いない。正直ざまあだけど。


 たぶんそろそろ怒って駆けつけてくると思ってこっそり潜入なうなのだ。

 荒次郎は呆れてたけど。


 と、足音。来たかな?



「三浦介ぇっ!!」



 超キレてる……



「どうされた」


「どうもこうもないわ! 三浦介(荒次郎)! 貴様、どういうつもりでわしを蔑ろにっ!!」



 すごい剣幕の朝興さまにも、荒次郎は平然としたものだ。

 まあ実際、体格的にも武力的にも荒次郎の方がはるかに上なんだけど。


 というか、朝興さま、この状況でよく荒次郎を面罵できるな。

 広間には相模や武蔵の有力豪族が揃ってるんだけど、彼らの冷たい視線に気づいてないんだろうか。



「どうもこうも……ちょうど良い機会です」



 荒次郎は、いつもの無表情で言う。


 自身について、朝興さまはどう考えてるんだろう。

 関東管領って身分に酔っ払っちゃって忘れちゃったんだろうか。



「朝興さま。貴方には御家の当主の座を退いていただく」


「バカなっ!? そのようなこと、貴様ごときが……」



 その時、口を開いたのは太田資康義兄さん。



「江戸、岩付の両太田はこれを支持してるぜ。島村や難波田、他にも扇谷上杉家臣一同、いや、ここに居る鎌倉公方旗下の全員が同心だ」


「なにを、貴様ら!」



 朝興さまは眩まされてたんだ。関東管領って虚名に。

 しょせん扇谷上杉家なんて、直轄地で言えば、大名ですらない白井長尾なんかよりはるかに矮小な家なんだ。

 それが、数万規模の軍を率いられているのは、ひとえに家格と名声があったからに他ならない。


 それを、朝興さまは自分から捨てたんだ。

 主である鎌倉公方の死に動揺する戦場で、我先に逃げ帰り、鎌倉公方体制の維持なぞかけらも考えず、まっさきに義父の朝良さまを暗殺したことで。


 かつて扇谷上杉家が太田道灌でやった失敗の繰り返しだ。



「貴様ら、なんの権あって」


「むろん余も、龍王丸さまにかわって上杉朝興、貴様に隠居を勧めるぞ」



 足利基頼さまが、厳かに言った。

 この人は、はちゃめちゃな兄に振り回されてきただけあって、兄とは逆に、穏当実直な人だ。そこはかとなく胃の腑の人と同じスメルを感じる。



「馬鹿なっ! わしを引退させて、誰を跡に据えるつもりだっ!」



 朝興さまは顔色を変えて叫ぶ。



「まさか三浦介! 貴様がっ!?」


「まさか。俺は父(道寸)と違ってそんな家筋も意思もない」



 荒次郎がかぶりを振った。

 扇谷上杉から三浦に養子入りした道寸パパと違って、その二代目だからね。荒次郎が当主ってのはちょっと無理筋。



「ならば……」


「後継者は他に居る。他ならぬ貴方自身が決めた、後継者が」



 よっし。出番だ! れっつごー!



「まさか、まさかっ!?」



 私が連れてきた人物に、朝興さまは蒼白になった。

 なぜかというと。



義父ちちうえ……」



 それは、彼が刺客を放った。

 行方不明になっていたはずの、自身の養子、藤王丸だからだ。



「義兄上(太田資康)の乱破(忍者)がお救いしていたのだ」



 荒次郎が言った。


 太田家の忍者マジ優秀。

 さすが諜報戦じゃ風魔とガチで張り合うだけのことはある。


 助けられた藤王丸さまは江戸から海路で三崎城へ。

 そこから私が保護して速攻で鎌倉まで運んだ、というわけ。



「貴様は……」



 大軍師初音さまだ!

 って言いたいところだけど、自重自重。



「よくご存じでしょう? 房総管領、真里谷信勝がむすめにして、三浦介義意(荒次郎)が室、初音にございます」



 朝興さまの顔色、真っ白だ。



「つまり、この件に関しては、真里谷も承知だということか……」


 たぶん。今ごろは。

 猪牙ノ助の爺さんがなんとかしてくれてると信じてる。

 荒次郎にしては珍しい空中プレイだけど、ここで真里谷の介入を許せばもっとヤバいことになるのは目に見えてるからなあ。


 でも、なんだかなあ。

 荒次郎って爺さん信頼しすぎじゃないかなー。

 武蔵勢の調略も、真里谷との交渉も。みーんな爺さんにフリーハンドで任せちゃってるし。


 私はお使いみたいなことしかしてないのに。と、拗ねてみたり。


 いや、爺さんもバッチリ成果出してるんだけどね。

 調略に関しては、武田の侵攻を孤軍よく防いだ荒次郎の英雄的武勲と相まって、今回の政略にどハマりで決まっちゃった感じだし。


 うわー。爺さんがカカッて笑いながら自慢げに胸張ってる姿が目に浮かぶ! ハラ立つ!



「ばかな……」



 あ、考えてるうちに、朝興さまが地に膝をついちゃった。


 一件落着、かな?

 朝興さまはどこかに強制蟄居って感じだろう。

 まあ、あとは荒次郎の仕事ってことで……


 じゃあ龍王丸さまに藤王丸さま、お部屋に戻ってましょうねー。





 ◆



 藤王丸さまは3つほど上。

 龍王丸さまはひとつくらいしか変わらないんだよね。

 うちの丸ちゃん(丸太郎)と仲良くなってくれないかなー。


 奥方様にお二人を預けて、よしっと。


 でも、今回ヤバかった。

 鎌倉公方と関東管領のダブル後継者問題で、一歩間違えたら関東大戦再びだったけど、無理押しでも早期解決に持って行けそうでよかった。


 荒次郎はしばらく鎌倉詰めだなぁ。

 玉縄城代、大軍師初音さまな日々が続きそうだ。


 別に寂しいとか思ってないけど。

 というか、寂しいって言えば、信頼感に置いて明らかに爺さん>大軍師初音さまな状況の方が寂しいっていうか……いや、寂しくないけど。


 プリーズ軍功を得る機会。

 軍を率いさせたらこの大軍師初音さまは大変なものですよ?


 あとは……内政だな。

 荒次郎さえ認めてくれたら……


 ん?

 ひょっとして、さっきから荒次郎の事しか考えてない!?


 いやいや……

 いやいや……


 はははそんなばかな。判断基準が荒次郎の役に立つかどうかになってるだなんて……


 嫁さん根性がしみついてる?

 そんなばかな……


 そうだ、素数を、素数を数えるんだ。

 よしよし落ち着け。私は大丈夫だ。私は正気のはずだ。



 ※大軍師初音さま動揺中。



「エルフさん」



 ぎゃあああああっ!

 あっ、あらじろーっ!

 いきなり後ろから声かけるなよ心臓飛び出るかと思ったよっ!!



「いや、何度か声をかけたはずだが……」



 そんなことは聞いていない!


 はあっ、はあっ……



「大丈夫かエルフさん?」



 大丈夫だよ。あとエルフ言うな。



「ありがとうございます」



 ええい。妙な掛け合いはどうでもいい。

 荒次郎、ちゃんと始末はついたのか。



「ああ。朝興は隠居させて押し込めた」



 曽我裕重は? 朝良さま殺害の実行犯だけど。



「証拠がない。それに、今回の件、裕重は自分がすべて引っ被って蟄居。息子は最終的にこっちの支持に回っている」



 つまり、これ以上は追求するべきじゃないってことか。



「そういうことだ」



 いまいちすっきりしないけど、これでリベンジできたってことか……



「そうだな。今回はエルフさんに助けられた」



 えっ?



「風魔を津久井城に寄越してくれたこと、敗走してきた武蔵勢を砥上の渡しで留め置いていてくれたこと、そして、怒りに我を失っていた俺の暴走を止めてくれたこと……エルフさんが居なければ、この結果には行きつけなかった」



 え、ええ?



「エルフさん。心から、礼を言わせてもらう。ありがとう」



 え、ええ?

 えへへ……えへへへ……なんだよ荒次郎。

 なんだよ改まっちゃって照れるじゃないかもー。


 そんな、初音さんマジ大軍師だなんて。



「そんなことは言っていない」



 (´・ω・`)



「だが、エルフさん。俺は、エルフさんに感謝している。その心に偽りはない」



 えへへー……ありがとう荒次郎。なんかすっごい嬉しいよ。



「カカッ! 仲がよろしくて結構結構! この調子で子作りも励んでもらいたいものであるなっ!」



 くぁwせdrftgyふじこlp!!?


 ちょ、ちょきのすけの爺さんっ!?

 帰ってきてたの!?



「応とも! お邪魔して悪かったな荒次郎くんに残念娘!」



 残念じゃないしお邪魔じゃないし惜しくもないよっ!!



「かっかっか。真里谷と交渉して不干渉と新公方の支持を勝ち取ってきたぞ!」


「ふむ……猪牙ノ助さん。条件は?」


「うむ。真里谷に与えられた権限への不干渉。残念娘が関宿城に居る兄、真里谷信保に面会に行くこと」



 おい勝手になんて条件呑んでやがる。あからさまにお兄ちゃんの私情だろそれ。



「そしてーー」



 無視かよ。



「ーー今回の鎌倉公方の死に乗じて、敵対的な動きのあった勢力を討伐する許可」



 …………………………おい。



 爺さんっ! 爺さんっ!

 ナニき○がいに刃物与えちゃってるの!?

 ヤバすぎるにもほどがあるっ!!



「かっかっか」



 誤魔化すなよ!



「ま、そこはそれ、三人で知恵を合わせて対策を練ればよろしかろう」



 ぶん投げかよ!?



「そう怒るな、エルフさん。真里谷とて、利根川近隣の支配に手こずっている現状、そう大胆に動けるものではない」



 荒次郎、それは楽観しすぎじゃ……



「だから、対策を練ろう。いつも通り、三人で、な」


「カカッ! その通り!」



 荒次郎、爺さん……

 わかった! 今さら言っても仕方ない!

 これまでも、無数の困難を、私たちは三人で解決してきたじゃないかっ!


 さあっ! やるぞっ! 三浦家戦略会議ーっ!!









 その後の大軍師初音さま、完結っ!!

 ありがとうございましたっ!!

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影武者/エルフ/マルティスト -丸太で戦う戦国記- 寛喜堂秀介 @kangidou

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