その後の大軍師初音さま その3


 私は今、玉縄城に住んでるけど思えば感慨深い。

 その昔、城跡萌えを発症した私は、各地の城跡を巡った。

 城壁や石垣がなくても、遺構があればテンションマックスになれた。


 ある時私は、難攻不落と呼ばれる玉縄城の城跡をどうしても見たくなり、アタックをかけた。


 でも、どうしても難攻不落不落の城は落ちない。

 私は思いあまって密かに城跡に侵入した。


 ばっちり捕まったよ……


 ちなみに玉縄城の現在は……清泉女学院中学高等学校。


 いまは女子校になってる。

 まさに難攻不落。恐ろしい……


 先生に二時間くらい説教されたよ。

 大人になって説教されるって辛いもんだね。

 先生には「子供か!」って怒られたけど。


 今でも猪牙ノ助の爺さんや侍女のまつや胃の腑Jr.におんなじように怒られてるよ……





 ◆



 はやきことかぜのごとく……


 しずかなることはやしのごとく……


 しんりゃくすることひのごとく……


 うごかざること、やまのごとし!


 ちゃっちゃらーちゃららーらららーらー!



 実は私、武田!

 総州は真里谷武田家のお姫様だから! エルフだけど!


 甲斐の武田からの別れだよ! ご先祖様は武田信長様!



 ・ ・ ・


 おやすみなさいっ!

 荒次郎、寝るんだよ! お前が期待してることはなにひとつ起こらないよ!





 ◆



 こちら初音ーク。暇をもて余す。指示をくれ。


 玉縄城なう。



 ※状況を三行で。


 荒次郎は鎌倉公方とさしで話に行った。

 猪牙ノ助の爺さんは江戸太田の義兄さんと相談。

 扇谷上杉の方は炸裂弾過ぎて直接介入不能。



 真里谷のお兄ちゃんには爺さんの案で「介入しないでお願い♡」って手紙を送った。

 効果のほどは不明。


 いろいろ動いてるけど、武田征伐までに成果を上げるのはたぶん無理。初動の遅れが祟った感じ。

 伊勢の連中は基本三浦と同調。でも新参だし扇谷上杉の問題には手を出しにくそう。


 というわけで、今わたしに出来ることはない。

 なので冒頭に戻る感じ。


 とりあえず、まつさんを尾行してみる。


 まつさんは、わたしの侍女。

 最近幼さの抜けて来て、嬉しいやらさみしいやら、微妙な気持ち。


 ……別に変な意味じゃないぞ。


 まつさんは私とおなじく、真里谷家の出で、私が子供産めなかったとき、家と家の関係が切れちゃわないための、いわばストック? リリーフ? そんな感じ。

 だからさみしいってのは変な意味じゃなくて、ああ、この子も近々荒次郎に手を出されるんだな、って感情。


 私はロリコンじゃない。子供は好きだけど。

 最近、この子に手を出されるんならいっそ私が犠牲に、って感情が無くもない。


 というか荒次郎はもげるべき。


 ともあれ、尾行だ。

 この時間、まつさんは風呂だ。

 私が入れって言ってる。私たちが入るついでだ。

 城の人達からすると、私たちの風呂キチはヤバイレベルらしい。

 でも正直風呂に入れない日があるってのは、私としてはあり得ない。



 コソコソ



 潜入に成功した。

 まつさんは入浴中。

 繰り返す。まつさんは入浴中。


 どうしよう。

 まつさんが自分の胸を揉んでる……



「どうです。まつの胸も、最近はなかなかのもんじゃないですか」



 ペタペタと揉みながら、自画自賛してる……


 だめだ。これ見ちゃダメなアレだ。



「なんで御当主様は手を出してくださらないんですかねえ」



 それは荒次郎がロリコンじゃないからです。



「お姫さまに遠慮してらっしゃるのかな? お姫さまは相変わらず残念だし、そろそろ考えていただいてもよろしいのに……」



 誰が残念か。この大軍師初音さまをとらえて。



「まあ、いつ求められてもいいなよう、お肌を磨いておきま」



 ま?



 あ、ヤバイ。見つかった! まつさんこっち見てる!



「……お・ひ・い・さ・ま?」



 ここに修羅が居るよ……


 こちら初音ーク。敵に見つかった。

 これから私は長い説教を受けることになる。諸君らの健闘を祈る。オーバー。





 ◆



 玉縄城なう。三浦家戦略会議なう。


 状況推移。荒次郎側。

 鎌倉公方の翻意ならず。

 三浦家の甲州征伐参戦も不可。

 ただし鎌倉公方に荒次郎排斥の意思なし。



「前にも言ったはずだ。我が信頼は三浦家にある。たとえ此度を機会に扇谷上杉朝興が三浦の排斥に動こうとも、全力で守ってやるぞ! がはははは!」



 とのこと。ありがたいね。


 猪牙ノ助の爺さんは「荒次郎くんは道理を通し、常に鎌倉公方をたてて来た。その姿勢が、鎌倉公方の信頼を勝ち得たのであろうよ」って頷いてる。



「鎌倉公方は絶対に信じられるお方だ」



 荒次郎。お前は鎌倉公方が好きすぎる。

 知ってるぞ。お前が公方から丸太とかもらってること。


 第一、鎌倉公方って、史実の小弓公方おゆみくぼうなんだよなあ。

 あの人史実では国府台合戦こうのだいかっせんで敵に突撃して射殺されてるんだよね。


 今回の戦じゃ止めれる人材居ないし、不安だなあ……


 荒次郎は今回の征伐で、留守番の予定だったけど、特に頼み込んで、甲斐との国境近くの津久井城で後方を固めることになった。


 負けた時の保険みたいなものだ。

 正直貧乏くじ。まあ最悪を想定してことに当たるのは基本だし負けた場合、相模が武田の脅威に晒されるんだから、仕方がないんだけど。


 次に、状況推移。猪牙ノ助の爺さん側。

 扇谷上杉家内の空気は最悪。

 これは現当主、朝興さまに反対する前当主朝良さまサイドの大物、曽我の裏切りが明らかになったから。

 朝良さま側がパニック気味に江戸太田に使者を寄越して来てた。


 でも、これは無理。

 この手を握っちゃうと、扇谷上杉を真っ二つに割る大乱一直線だ。

 そうなると、「関東の新たな秩序」の名の下まとまっている鎌倉公方体制自体を否定することになる。


 結局、貧乏くじ&冷や飯食い一直線と承知しながら、朝興さまを支持していくしかない……当面は。



「カカッ。朝興殿の見込みは甘過ぎるっ!」



 爺さんが笑い飛ばした。



「いくら元執事、重臣といっても、所詮汚れ仕事でその地位を確保しようという小者。そんな奴が荒次郎くんのような本物の英雄を引きずり下ろして、 反感を買わぬはずがあるまい! すぐに反感を持つ武蔵の諸衆をまとめ、多数派工作でその座から引きずり下ろしてやるわっ!」



 じ、爺さんが頼もしい!


 まあ、三浦家自体、あんまり好かれてはないんだけどね。

 それでも黒すぎる曽我よりはマシ。


 と、いうわけで、三浦家の方針は二つ。

 まず、甲州征伐は動かせないから、貧乏くじは承知で、可能な限りこれをサポートする。

 つぎに、遠征後の政治体制を見越して、武蔵諸衆の取り込み工作を全力でやる。


 こんな感じか。

 今回爺さんが超頼もしい。

 見せてもらおうか。元国会議員の政治力とやらを!


 と、いうわけで、会議もひと段落したところで、二人とも餅を食うノデス。美味しいデスヨ?


 風呂?

 風呂はいいから餅を食え。

 というか荒次郎、お前風呂に誘いすぎ。





 ◆



 今回はスタンダードに焼き餅だ。

 炭火であぶってぷっくりと膨れた餅を、醤油に浸す。

 外パリパリ中はモチモチだ。醤油が本当にいい仕事してる!

 焼きたての餅ってなんでこんなにおいしいんだろうな! 思わず顔が緩んじゃうくらいおいしい!


 旨味ーっ!


 なあ、荒次郎。餅って美味しいよな!

 バリエーションも豊富だし!



「ああ。うまいな。そういえば東北にずんだーー」



 ――何か言ったか荒次郎。



 荒次郎。いま君はとても軽率なことを言ったよ。

 信じられないおバカさんですね。この私の前で、その悪魔の食べ物の名を出すなんて……



 お仕置きデス。ああ、説教デス。

 今日は一晩中お前に餅の美味さ素晴らしさ、そして口にするのもはばかられるかの堕天使的食べ物について教育してやるデス。



「一晩中?」



 そこに反応するのかよ。



「一晩中、エルフさんに教えてもらえるのか……」



 おいやめろ。

 私がヘンなこと教えるみたいに言うな。

 そんな事態は決して起こらない!



「お姫さま、好機です!」


「奥方様、頑張ってくださいまし!」



 おい、まつさんに冴さん、いつから覗いてた。



「御当主様の命ですでに風呂の準備は整っております胃の腑が痛いです」



 胃の腑Jr.ーっ!?

 ごめんね大変な時に荒次郎が無理言って!



「目下心痛の種はお二人の奇行を除けば、奥方様に御子がない事ですが」



 (´・ω・`)



「さあ、風呂に入るか。エルフさん、説教ならいくらでも受けるから、つき合ってくれ」



 やめろ荒次郎。この流れで風呂に誘うんじゃない! せめてまつさんと冴さんも一緒に!



「お邪魔しては申し訳ありませんし」


「我慢します。頑張ってください! そしてはやくまつの番に!」



  (´・ω・`)



 \(´・ω・`)/

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