その後の大軍師初音さま その2
おはようございます。
昨日はよく寝たなー。
ねむねむ……
荒次郎は朝から丸太を振り回してるよ。元気だなー。
丸ちゃん見たい。丸ちゃんに会いたい。
冴さーん。
・ ・ ・
冴さんはかわいなあ。
丸ちゃんもかわいいなあ。
「奥方さまも、早くお世継ぎをお産みになってくださいまし……この子のためにも」
冴さんの目が本気だ。
◆
ふふーんふふーん。
ふふふふふふふふーんふふーん。
・ ・ ・
離脱して廊下を歩いてたら猪牙ノ助の爺さんに会ったよ。
爺さんが私を残念そうに見るなんていつものことだから気にしないよ。
荒次郎は朝から鎌倉へお出かけだ。
お出かけというか、普通に出仕だけど。
今朝がた、伊勢氏綱さんの一行が鎌倉のほうに行くのを見たよ。
あの人真面目だよ。
そういえば、鎌倉公方の足利義明さま、荒次郎はすっごいいい人だって絶賛してる。
でも私は知っている。
荒次郎のやつが、鎌倉公方から丸太をもらっいることを。
珍しく早馬で手紙を届けて来たと思ったら、テンション高く、公方に丸太をもらったよ! やったぜ! みたいなことが書いてあったんだ。
あの丸太マニア、完全に懐柔されてるな……
ともあれ、今日の私は玉縄城代兼三浦家当主代行なのである。
城の中で一番偉いのである。だからもっと敬え猪牙ノ助の爺さん。ほれほれ。
「カカッ。では偉い偉い奥方さまには、荒次郎くんのかわりに丸太衆の訓練をお任せしましょうかのう」
ごめんなさい。私アレ怖い。
元は一門とか主だった家臣の子弟がメインになってるはずなのに、みんなガチムチマッチョになって来てるんだもん。
いつも丸太を抱えて工作演習に勤しんでいるよ。
あれは荒次郎以外が使うのはキツイ。
丸太衆の束ね役の大森越後さん家の長男なら、一時的な指揮を預けられるけど、って感じ。
ともあれ、真面目に政務に勤しんでこよう。
なにせ三浦家当主代行さまだからな!
では、行って来まーす。
◆
政務なう。
なんか空気が変。
南東の方が騒がしい感じ。
鎌倉でなにかあった?
物見ーごー!
荒次郎大丈夫かな……
べっ、べつに心配してるわけじゃないんだからねっ!
荒次郎が死ぬわけないしっ! どんな状況に陥っても、ちゃんと解決してくれるって信じてるだけなんだからっ!
……いまいちツンデレっぽくないな。なんでだろう?
は? 爺さん、なんだって?
私がデレデレだからだって?
ははは、なにをばかなことを……
私が荒次郎にデレたことなんて一度もない……はず。
とにかく……ご飯だ!
一日三食。三浦家ではそう決まっている。
でも時々餅が食べたくなる。餅は至高の食べ物ナノデス。
臨死体験してから無意識に何かつぶやくことがある気がする。
教祖様、元気にしてるかなあ。
脳を休めるため、昼寝だ。胃の腑Jr.。物見の人が帰ってきたら叩き起こしてー。
◆
zzz……残念娘って言うな……zzz。
起きた。夢見が悪かったよ(´・ω・`)
夢って言うか、ただのフラッシュバックだったかも。
物見の人遅いなー。
鎌倉の方は、相変わらず騒がしい気配がするなあ。
ま、それはさておき仕事だ。
業務おーん!
・ ・ ・
物見の人帰ってきた!
え? マジ?
ちょっと意味がわからないんですけど……
鎌倉公方が?
自ら軍を率いて?
武田討伐?
意味わかんない!
この時期にそれやる意味あるの!?
第一武田大人しくしてんじゃん!
元凶の伊勢宗瑞が死んで、伊勢家がこっちに従ってるいま、無理やり喧嘩売る必要ないじゃん!
言い出しっぺは……扇谷上杉の大将!?
ちょっと待って、三浦家に内示回って来てないぞ!
江戸の太田は?
とりあえずは動くな。
江戸太田とはまだ繋がってる。
真里谷は今回不干渉。公方は中立?
とにかく爺さんたちに報告! あとは荒次郎が帰ってくるのを待つんだ!
◆
うろうろ
うろうろ……
当主代行がオロオロすんなって爺さんに怒られた……
シャキーン!
とりあえず落ち着いて構えるよ!
胃の腑Jr.が辛そうに胃の上を抑えているよ。
今回は私は悪くないです。
荒次郎まだかな……と、いくらなんでも戦絡みの会議がそんなに早く終わらないか。夕方か、夜には帰って来てくれたらいいんだけど……
待ってよう。
とりあえず臨戦モードに移行出来るように準備すべし。
道路工事費も停止停止停止だ!
爺さんの悲鳴が気がするが気にしないっ!
むしろ爺さんの悲鳴が気持ちいいっ!
政務にかこつけて復讐したみたいに見えるけど、戦になったら、荒次郎もさすがに工事は止めさせるから!
権力の恣意的な運用はしていないっ!
だいたい爺さんが京都から取り寄せた
ふう。言いたいこと言ってスッキリした。
まあ茶碗の件に関しては、爺さんにも考えがあるみたいだから、別にいいんだけどね。
爺さんがちょっとしょんぼりしてる……言い過ぎたかも。
「老い先短い身じゃ。老後の楽しみも潰えたとなれば……」
あわわ! あわわ!
どどどどうしよう! 爺さん死んじゃう!
悪かったから!
ちゃんと戦の目処がついたら道路工事再開していいから! 私も協力するから!
「本当じゃな?」
当たり前だよ! 大軍師初音さまに二言はないっ!
とたんに爺さんがニヤリと笑ったよ。
騙された……
やっぱり敵だこのジジイ。
◆
ちょっと休憩。
侍女のまつさんに癒されてくるよ。
最近説教しかされてないけど。
まつさんその冷たい目はちょっと。
・ ・ ・
荒次郎帰ってきた! 飛んで行くよ!
荒次郎!
なにが起こったんだ!?
・ ・ ・
なんだこれ。ややこしすぎる……
まず、武田攻めは扇谷上杉朝興さまの提案。
そ の根本的な原因は、関東の四分の一以上を影響下に収めた大勢力となった関東管領扇谷上杉家の後継者問題。
現当主は朝興さまだ。
でもこれって、あの関東全部を巻き込んだ関東大戦のドサクサに行われたことなんだよね。
朝興さまは先代
つまり、朝興さまは非常事態ゆえに「いつでも首を切れるリリーフ」として立てられた当主だった。
でも、想定外にうまく行き過ぎた。
扇谷上杉家は山内上杉家を破り、名実ともに関東管領の職位を自家のものにしてしまった。
ここまでくれば、朝興さまの大勝利だ。嫡子を挿げ替えようがなにをしようが文句は言わせない。
と、なるはずだった。
でも、朝興さまは、関東大戦でなにもしなさ過ぎた。
いや、本来政治的な功績も武功も十分立ててる。
でも、房総管領代、真里谷信保。
相模守護代、三浦義意(荒次郎)。
この二人の功績が、あまりにもデカ過ぎた。
鎌倉公方方は、ほとんどこの二人で勝利したと言っていい。
その、不備とも言えない不備を突いて、朝興さまに隠居を迫る圧力がある。
先代朝良さま周りの人たちだね。
で、朝興さまも、とっとと武功なりなんなり立てて、養子ごと朝良勢力を一掃したい。
その結果が、今回の武田攻めってわけだ。
でも、朝興さまは今回、そのために重臣であり、一蓮托生だった江戸太田と相州三浦をハブにしてる。
理由は簡単で、関東大戦で神がかった武功を立てた荒次郎たちを排除しないと、朝興の武勲を吹聴できないから。
本来朝興さまは、そんなことしなくても、朝良勢力を排除出来る腕力を持ってる。三浦と太田が支えてるんだからね。
でも、朝興様の不安を突いた奴がいる。荒次郎が気づいた。
それが、
かの
策の主は当主の
こいつが朝興さまを煽って、武田攻めを決心させた。
報酬は、曽我家の重用。
朝良さま引退以後、一線から外れていた曽我家を関東管領家の執事に、ってとこだろう。
元々朝興さま自身、江戸の義兄さん(太田資康)や荒次郎のこと嫌ってたらしいし、そこを突かれたんだろうな。
で、なんでよりによってあの武田を攻めるかってのは、まあわからんでもない。
攻める大義名分があり、当主が若く、また先の戦の時、自ら甲斐より攻め込んだにもかかわらず、さしたる戦果もなく撤退している。
要するに手頃な相手って思われたんだ。あの武田信虎なのに。
知らないって怖いよな。あの撤退の判断の速さ、戦慄モノだってのに。
で、荒次郎からの伝言に戻る、と。
これ、鎌倉公方の鶴の一声、というわけにも、いかないんだろうなあ。
客観的に見て、房総の真里谷が勢力を伸ばしすぎまくってる。
扇谷上杉の方にもテコ入れを、ってほど積極的じゃなくても、今回の外征くらいは認めてやりたいとこなんだろう。
第一、あの公方自身、関東大戦の最後は負け戦だったし、上書きしたい気持ちもある、と。
考えれば考えるほど、止める理由が見つからない。
荒次郎がさんざん反対しても、止められなかったはずだよ。
でも、知ってる。
こんな戦に限って、思いもしない被害が出るんだ。
でも、三浦も太田も、たぶん今回は留守居役になる。なにもできない。
なにも起こらなきゃいいけど……
と、そんなことを言ってても仕方がない!
というわけで、ひっさしぶりの、三浦家戦略会議ーっ!!
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