第13話《Bパート》

「ドロー、チャージ、ドロー!」

 翔太とななつの第一試合が始まり、互いにデッキからカードをチャージゾーンに一枚置いた。

「パーティコール、『炎の狼ファイヤ・ガルル』!」

 第一ラウンド。翔太の宣言と共に、ショウの隣に炎を纏った小さな狼が現れる。

「私は『裁きの天使ラヴィール』をパーティコールします」

 ななつもパーティゾーンにカードを置き、リリエルの隣に薄い水色の髪の天使ラヴィールをコールした。ラヴィールの手には、金色の天秤が握られている。

「アクション。おれは、『ファイヤ・ガルル』でアタック」

「私も『ラヴィール』でアタックします」

 翔太とななつがアクションを宣言するとファイヤ・ガルルがラヴィールに飛びかかる。しかしラヴィールが持っていた天秤が黄金に輝き、ファイヤ・ガルルはその光に包まれて消滅した。アタックポイントは、ラヴィールの方が勝っていた。翔太のBフォンに映しだされた残りのライフは8になっていた。

「『リリエル』のアルター効果『癒しの羽ばたき』で、自分のパーティがアクション成功したとき、自分のライフを一つ増やすことができます」

 そう言って、ななつは自分のBフォンの画面を翔太に見せる。確かにそこに映しだされるななつのライフは11になっていた。

「ライフが増える……そんなカードもあるんだ……」

「次のラウンド、お願いします。ドロー、チャージ、ドロー……。私は『清き魂アストラル・テイン』をパーティコールします」

 翔太がカードの効果に驚いている間に、ななつはパーティゾーンにカードを置いていた。

「あっ、おれは『勇者の剣シルバーソード』をパーティコール」

「アクション。私は、『アストラル・テイン』でアタック」

「おれも『シルバーソード』でアタックします!」

 ショウは使い慣れた銀色の剣を手にして、銀色に煌めく長杖を握るリリエルに向かって駆ける。

[行くぞ!]

「『ショウ』のアルター効果『剣の加護』、剣と名の付くカードのアタックポイントをアップさせます」

 翔太の宣言と同時にシルバーソードがきらりと輝く。ショウが振りかぶった剣をリリエルは銀色のアストラル・テインで受け止めたが、そのままシルバーソードがアストラル・テインを真っ二つに斬った。

「すごい……ダメージが3も……」

 ななつは自分のライフポイントが8になったことを確認しながら、ホログラフに映るショウを見つめた。

「さあ、次のラウンドをどうぞ」

 真澄に促され、翔太とななつはカードをドローしてチャージし、さらにもう一枚ドローした。

「おれは『獄炎の剣士レン』をパーティコール!」

「私は『守護する者アル・セヴン』をパーティコールします」

 ショウの隣に、赤茶色の髪の大剣を携えた青年――レンが現れる。一方のリリエルの隣には大きな盾を構えた銀の鎧を身にまとった戦士――アル・セヴンが現れた。

[へえ、相手にとっちゃ不足ないな]

 レンがにやりと笑いながら大剣を悠々と構える。そんなレンの反応を見て、翔太とショウは苦い表情を浮かべていた。

「私は『アル・セヴン』でディフェンスです」

「おれは『レン』のエフェクトを発動させます。『炎の補佐』の効果で、チャージを一つ増やします」

 アクションが成功したのは翔太の方。しかし、アルターゾーンにいるショウが震えあがっているのを見て、翔太は素直に喜べなかった。

[……テメェ、俺を戦わせる気ィねェのか]

「え、ええと……」

 パーティゾーンから受けるレンの鋭い視線から逃れようとするように翔太は手札に視線を落とす。もちろんそんなことで納得しないレンはショウをぎろりと睨む。

[……おい、ショウ。テメェわかってんだろうな]

[ち、力を貸していただいたので、ぜ、絶対に勝ちます……]

 震える声でショウが言えば、レンはふんと鼻で大きく一息ついて大剣を地面に突き立てて炎を上げさせた。そして、翔太がチャージゾーンにカードを置くとレンは炎に包まれて姿を消した。

[……翔太、そろそろレンさん戦わせたらどうなんだよ……]

「だ、だってエフェクト効果でチャージ増やすの大切だし……」

 ぼそぼそとした小声でショウとやりとりをする翔太にななつが首を傾げる。

「あの、翔太さん?」

「はっ、はい! すみません! つ、次のラウンド!」

 翔太は手元を確認する。ライフは8のままで、チャージは4に増えている。一方のななつもライフは同じく8だがチャージは3。

「パーティコール、おれは『剣の翼ブレイド・ロック』でアタック!」

「私は『守護する者アル・セヴン』でディフェンスです」

 翔太がコールした鋭い刃のような翼を持つフクロウ、ブレイド・ロックをコールしたが、リリエルの前に立ちふさがったアル・セヴンの前にその翼を散らして消えてしまった。

「『リリエル』のアルター効果で私のライフは一つ増えます」

 ななつのBフォンに映しだされたライフは9になっていた。

「またライフが増えた……」

[まだ一つしか差はないだろ? 大丈夫だ]

 ぼそりと不安げに呟いた翔太に、ショウが振り返って声をかける。頼もしいアルターの姿を見て、翔太はこくりと頷いた。

「そうだね。……パーティコール、おれは『双剣ロインズ・ソード』をコールします」

 翔太が宣言すると、ショウの目の前に緑色に輝く剣ロインズ・ソードが現れる。ショウは緑の剣を右手で掴んだ。

「私は『聖なる灯サンクティ・フランマ』をパーティコール」

 ななつもパーティコールするとリリエルの前に炎が灯った杖サンクティ・フランマが現れ、リリエルはそっと両手でその杖を握った。

「私は『サンクティ・フランマ』でアタックします」

「おれも『ロインズ・ソード』でアタック!」

 ななつが宣言するとリリエルはふわりと跳躍し、炎が上がっている杖をショウに向けた。杖の先から大きな炎の球が形成され、ショウに向かって放たれた。

「『ロインズ・ソード』とショウさんのアルター効果でも、『サンクティ・フランマ』のアタックポイントは超えられないはず……!」

 ななつはきゅっと拳を握りながらリリエルが放った炎を見つめていた。しかし。

「『ロインズ・ソード』のアタック時効果、『呼び合う運命』でデッキから『双剣カイムズ・ソード』をパーティコール!」

 翔太が宣言してパーティゾーンにもう一枚のカード――『カイムズ・ソード』を置く。それと連動するように炎に包まれていた翔太のアルターゾーンに黒い一線が走り、炎が消えた。そして、炎が消えた中から現れたショウの右手には緑に輝くロインズ・ソード、左手には真っ黒な剣カイムズ・ソードが握られていた。二本の剣を構え、ショウは再びリリエルに向かって走る。

「二つの剣のカードにより、ショウのアタックポイントはさらに追加される!」

「えっ!」

 ななつが驚きの声を上げると、リリエルの閉ざされた瞼も動揺でわずかに揺れた。

[はあっ!]

 ショウは勇ましい声を上げてリリエルに向かって跳躍し、二本の剣でリリエルが防御するように構えた杖を斬る。

「『ロインズ・ソード』と『カイムズ・ソード』の二本で、相手にダメージ1を与える!」

「うっ……」

 ななつのBフォンに振動が走り、画面にはライフ8が表示された。それを見た七つは苦い表情を浮かべる。

「やっぱり、ライフを守り切れない……」

 すでに五ラウンド目、ななつの表情の端に焦りが映り始める。一方の翔太は確実に相手にダメージを与えられることに安堵していたが、リリエルの姿を見てやはり苦い表情を浮かべる。

「今のところおれのアクションが上手く行ってるからいいけど、もしも相手のアクションが成功したらまたライフが増えちゃう……」

[そうだな……一気に攻めたいところだが、焦れば相手に防がれるどころか余計に相手に有利になるかもしれないな]

 翔太が思う不安は、ショウも同様に感じていたところだった。ショウは腕を組み、相手のアルターゾーンにいるリリエルを見つめた。

[ただ綺麗な天使、ってワケじゃないな……案外、手ごわいかもしれない]

「うん……。だからこそ……」

 翔太はちら、とチャージゾーンに視線を向ける。溜まっているチャージは現時点で6だった。

「ドロー、チャージ、ドロー。おれは『新米剣士ロード』をパーティコール」

「私は『未来の剣ミスミルティン』をコールします」

 ショウの隣に、赤い髪の少年が現れる。少年――ロードは半透明な黒い刃の剣を構えていた。

[頼むぜ、ロード]

 ショウが声をかけると、ロードはにっと歯を見せて笑った。

 一方のリリエルの前にはきらきらと輝く硝子で出来た美しい剣が現れ、リリエルはそっと剣を握った。

「私は『ミスミルティン』でエフェクトです」

「おれは『ロード』でアタック!」

 翔太の宣言と同時にロードがリリエルに向かって走る。リリエルの手に握られていたミスミルティンは淡い光を灯し始めた。

[俺の魔法を食らえ!]

 しかし、ロードが叫ぶとリリエルの足元に黒い魔法陣が現れ、ミスミルティンにひびが入って光が消えた。リリエルがミスミルティンを手放すと、完全に硝子が割れて剣の姿は失われてしまった。

[行くぜ! おらぁっ!!]

 ロードはリリエルに黒い剣を振り下ろした。リリエルの身体がふらりと揺れて傾く。

「『ロード』の打撃力は2です」

「リリエル……!」

 ライフが6まで減ったことをBフォンで確認したななつは、視線をアルターゾーンに向ける。苦渋の表情を浮かべるななつが名前を呼ぶと、リリエルも眉を歪ませながらもななつの方に顔を向けた。

「……ショウさん、すごく強い……。リリエル、私、勝てるかな……」

 ショウの耳に、不安げなななつの声が聞こえた。震えるななつに、リリエルは先ほどまでの苦渋の表情を消し、穏やかな表情を向ける。

[ななつ……あなたは、強い人。だから、顔を上げてください……]

 そう言って、リリエルはショウに向き合う。

[ななつが私を守る力が、私の強さになる。だから、私はあなたと戦うことができます]

[ああ……あなたも、ブレイバーも強い。おれだって、翔太の力があるから全力で戦える!]

 リリエルの言葉に、ショウも剣を構えながら返す。ショウの笑みを見て、リリエルも穏やかな笑みのままこくりと頷いた。そんな二人のやり取りが届いていないはずのななつだったが、リリエルの言葉に応じるように顔を上げた。

「まだ、バトルは終わってません」

「はい! ななつさん!」

 ななつの言葉に翔太は強く頷く。そして二人はカードをバトルゾーンに置く。

「俺は『誓いの剣士シュヴァリエ』をパーティコール!」

「私は『預言者カグナ』をパーティコールします!」

 ショウの隣には赤茶色の長い髪を一つに束ねた青年騎士が、リリエルの隣には巫女のような和装をした少女が現れた。

「『シュヴァリエ』でディフェンス!」

「私は『カグナ』でエフェクトです。『カグナ』のエフェクト『導く月光』で私はライフを二つ増やします」

 ななつの発言にはっと翔太が目を開く。同時にリリエルの隣に立つカグナが両手を天に向ける。その両手の間から満月のような丸い光が現れ、光がリリエルを包む。

「さらに、『リリエル』のアルター効果でライフが一つ増えます」

「一気にライフが三つ増える……?!」

 ななつのライフは6から9に増え、逆転されてしまった。戦況に翔太が苦い表情を浮かべる。

 一方、二人の試合を見ていた忍は小さく息を吐きだした。

「やりにくそうだな」

「ライフ温存系のデッキかあ……ま、白デッキならそっちに走るのもアリだろうな」

 忍の隣で要が苦い笑みを浮かべながら言う。そんな要を見上げながら譲が首を傾げる。

「でも兄ちゃんのデッキだって白じゃん? なんかタイプが全然違うよな?」

「白デッキは防御特化か攻撃特化のどちらかに分かれることが多い。あの天使デッキは防御や回復に特化したタイプだな」

「なるほどー、じゃあ兄ちゃんのデッキは攻撃特化?」

「いや、俺の場合は攻撃も防御もバランスよくって感じだな。すげーだろ」

 忍の解説を聞いた譲に、要がにやりと笑いながら言う。しかし、忍は白けた目で要を見ていた。

「何度も言うがお前のデッキの場合、決定的な攻撃力が足りない」

「あー! うるせーな忍! すーぐ説教しやがって!」

「五月蝿いのはどっちだ」

「それはいいけど! 師匠、そんな防御に強いデッキだったら翔太やりにくいんじゃないの?」

 要と忍のやり取りを遮り、譲が話を切り替える。翔太は手札を見ながら苦い表情を浮かべているままだった。

「そうだな……だが、あいつも考えがあるんだろう」

 忍は翔太のバトルゾーンを見た後、静かに呟いた。その意図が読めず、譲はぱちぱちと瞬きをして忍を見上げた。

[翔太]

 ショウに呼ばれて翔太は視線をアルターゾーンに向ける。

「ショウ……」

[おれはお前を信じてる。だから、お前もおれを信じろ。絶対に勝てるって]

「……うん」

 ショウの言葉にこくりと頷き、翔太はデッキからカードを引く。手元にやってきたカードを見て翔太は眉間に小さな皺を寄せる。

「……大丈夫、きっと……」

 そして翔太とななつはチャージを増やし、パーティゾーンにカードを置いた。

「私は『宝座の天使スローネ』をパーティコールします」

「おれは『勇者の剣レッドソード』をパーティコール」

 二人はパーティゾーンのカードを表に返す。ショウは目の前に現れた赤い刃の剣を掴んで構える。一方リリエルの隣には金髪の長い髪を揺らした天使、スローネが現れた。色とりどりな宝石がついたドレスを身にまとうスローネは金色の瞳をすうと細めてショウを見つめていた。

「『レッドソード』でアタックします!」

「『スローネ』でディフェンスです。『スローネ』のディフェンス効果『守るべき宝玉』が発動します」

 ホログラフのショウがレッドソードでスローネに斬りかかるが、スローネの周りに輝く宝石が現れ強い光を放った。

[うわっ?!]

 その光から生じた衝撃で、ショウの身体は高く吹き飛ばされる。手にしていたレッドソードも光に包まれて消えてしまった。

「ディフェンス効果で、相手にダメージ2を与えます」

「反撃効果……!」

「さらに、『リリエル』のアルター効果でライフを一つ追加します」

 ななつのBフォンに表示されているライフが9から10に切り替わる。翔太とななつのバトルを見ていた観客たちがななつのライフの変動に思わず声を漏らした。

「まさかライフ10まで戻すとはな」

「打撃系のデッキだとやりにくそうだ」

「翔太……」

 周りの声を聞きながら、譲は不安げに翔太の様子を見ていた。

「ななつさん、すごいな……」

 翔太は自分のBフォンでライフを確認する。ななつが10までライフを戻したのに対し、翔太のライフは6まで減らされていた。そして、翔太はバトルテーブルに設置されているラウンドをカウントしているパネルを見た。

「残りのラウンド二つ……」

 現在第八ラウンドまで終了している。残り2ラウンドで翔太がななつのライフを削らなければ、このバトルは翔太の敗北になってしまう。

「……大丈夫。おれも、ショウを信じてる。それに……」

 翔太は自分のデッキをじっと見つめる。

「ドロー、チャージ、ドロー!」

 9ラウンド目、翔太は手元に来たカードをじっと見つめた。それから視線をチャージゾーンに向けた。翔太のチャージゾーンには九枚のカードがある。

「私は『見習い天使ユート』をパーティコールします」

 ななつが宣言してパーティゾーンにカードを置く。リリエルの隣に水色の髪の少年天使が現れた。が、先ほどまでの天使たちと違ってどこかやる気のない表情を浮かべて、おまけにあくびまでしていた。

「おれは『剣の導き手ケンイチロウ』をパーティコール」

 そして翔太も先ほど引き当てたカードをパーティゾーンに置く。それに連動して、ホログラフ上には剣道着姿の中年男性、ケンイチロウが現れる。厳格さを帯びた鋭い瞳がショウの方に向けられる。

[……よ、よろしくお願いします]

[うむ]

 ショウが小さく頭を下げるとケンイチロウは腕を組んで深く頷いた。

「私は『ユート』でディフェンスします!」

「おれは『ケンイチロウ』でエフェクト! 『新たなる剣の道』の効果で、デッキから一枚カードをドローします」

 翔太の宣言を受けて、ケンイチロウが木刀を振る。一方のユートは大きなあくびをしてリリエルに寄りかかっていた。

[……ユート、戦いの最中ですよ]

[えー、でも俺することねーじゃん。じゃ、帰るわー]

 ふあ、ともう一つあくびをしてユートは光に包まれて姿を消す。それと同じようにケンイチロウも光に包まれて姿を消した。

 そして、翔太はデッキから一枚のカードを引く。

「よし……」

 手元にやってきたカードを見た翔太は、アルターゾーンのショウに視線を送る。その視線に気付いたショウが振り向く。

[翔太]

「うん」

 短いやりとりだったが、ショウは翔太がしっかりと頷いたのを見て口元を上げた。そして剣を大きく振ってリリエルに刃を向けて構えた。

「ドロー、チャージ、ドロー」

 ななつと翔太はカードをドローしてチャージゾーンに置く。翔太のチャージゾーンには十枚、ななつのチャージゾーンには九枚のカード。そして、ライフはななつが10、翔太が6だった。

「これが最終ラウンドです」

 バトルテーブルのそばに立っていた真澄が静かに言う。ラウンドを表示するパネルにも『10』の表示が映しだされていた。

「カードをレイズ」

「……おれは、チャージゾーンからカードを6枚レイズします」

 ななつと翔太、それぞれバトルゾーンにカードを置く。そして、二人は同時にカードを表に返した。

「私は『大天使アーク・エンジェル』でアタック!」

 リリエルの隣に鮮やかな赤い髪をなびかせる四枚の翼を持つ天使アーク・エンジェルが現れた。

「ブレイク!」

 ななつの宣言の直後、翔太がはっきりと宣言する。ななつははっと目を見開いた。

「おれは『ソードズ・レイン』を発動させます!」

 翔太が言うと、ホログラフのショウの周りに光に包まれた剣がいくつも現れる。

「『ソードズ・レイン』はバトルフィールドにある『剣』と名の付くカードの分だけ相手にダメージを与えることができます」

「それじゃあ……」

「ドロップゾーンにある『剣』と名の付くカードは九枚!」

 翔太の言葉に呼応するようにショウの周りにレン、ブレイド・ロック、ロード、シュヴァリエ、そしてケンイチロウの姿が現れた。それぞれ、先ほどショウが使ったロインズ・ソード、カイムズ・ソード、レッドソードを構えている。

「そして、おれのアルターゾーンにいる『剣の勇者ショウ』と合わせて、十枚!」

「ダメージは……十?!」

 ななつが言うと同時に、レンたちが一斉にリリエルに向かって走り出した。

[リリエル様!]

 リリエルを庇うようにアーク・エンジェルが前に出る。剣士たちの攻撃を受けたアーク・エンジェルは光に包まれてその場から消える。

[アーク・エンジェル……!]

[行くぞ、リリエル!]

 ショウの声を聞いてリリエルは顔を上げる。ゆっくりと目を開き、美しい金色の瞳でショウを見つめた。

[ソードズ・レイン!!]

 ショウが叫び、強い光を放つ剣でリリエルに横一線を入れる。抵抗することなく最後の一撃を受けたリリエルは光に包まれながらその場に倒れた。

「……私のライフは、ゼロ、です」

 倒れたリリエルに視線を向けた後、ななつは自身のBフォンを翔太に見せる。そこに映しだされているななつのライフは0になっていた。

「勝者、SHOU!」

 真澄が言うと、観客から拍手が起きる。翔太は改めて自分のBフォンを見て、それからホログラフのショウに視線を向けた。ショウも同じように翔太を見つめていて、ふっと微笑んだ。

[やったな、翔太]

「……うん!」

 一方のななつはアルターゾーンに置いていたリリエルのカードをそっと手に取って、抱き寄せるように胸元に当てた。

「ごめんなさい、リリエル……私が、弱いから……」

「ち、違います!」

 ななつの小さな言葉を聞き逃さなかった翔太がはっきりと否定する。ななつは驚いたように翔太を見る。

「翔太、さん……?」

「あの、えっと……ななつさんも、リリエルもすごかったです! このバトルも、すごくドキドキしながらできたし……ライフを増やすのとか、すごくて、えっと……」

 翔太なりにななつに伝えようとするが言葉が上手く出せずに途切れ途切れなものになってしまう。けれど、翔太の思いが伝わったななつはふっと穏やかに微笑んだ。

「ありがとうございます、翔太さん。また、私とバトルしてください」

「はい!」

 翔太とななつは握手を交わす。その光景に観客たちは暖かな拍手を送った。

「翔太!」

 そして翔太は選手控え用のテーブル近くにいた譲の元に向かった。翔太の姿を認めた譲が大きく名前を呼んで、手を振る。

「すごかったぜ、翔太! どうなることかってヒヤヒヤしたけど、最後めっちゃすごかった!」

「ありがとう、譲! 次は譲の試合だね!」

「おう! 絶対勝ってやるからなー!」

 翔太の言葉に譲はにんまりと歯を見せて笑って見せた。自分の試合前とは全然違うな、と翔太が思った時だった。第二試合が行われているバトルテーブルの周りが盛り上がりを見せていた。

「あれって……」

 白いヘルメットのヒーロースーツ姿の青年が天に拳を突き上げていた。

「勝者、ジャスティス・S!」

 弘明の宣言を受けて、周りに集まっていた観客たちが拍手を送る。翔太は視線をヒーロースーツのジャスティス・Sから対戦相手の方に向ける。バトルテーブルにぐったりと倒れ込んでいる青年――Sinに二人の少年が駆け寄っていた。

「ん? あの二人、って……」

 背が高い痩せた少年と、背の低いふくよかな体格の少年。――かつて、ダイゴの取り巻きだったはずの中岡と小山だった。二人はおろおろとした表情でSinに近づいた後、人ごみの中をかき分けて店内から出て行ってしまった。

「どうしたんだ、翔太?」

 そんなタイミングで翔太に声をかけてきたのはダイゴだった。翔太はダイゴを見上げて、「あの」と声をかける。

「さっき、中岡さんと小山さんがいて……」

「……中岡? 小山?」

 翔太が出した名前に心当たりがない、と言うようにダイゴは眉を歪める。その反応を見て翔太も怪訝な表情を浮かべ、今度は譲に声をかけた。

「ねえ、譲は覚えてない? ダイゴさんのそばにいた、中岡さんと小山さんって二人」

「ん? そんなヤツいたっけ?」

「……え?」

 やはり譲もダイゴと同じような反応をして首を傾げた。そんなことがあるだろうか、と思いながら翔太はすでに人ごみの方に視線を向ける。すでに二人の姿は見えなくなっていた。

「ううっ……俺は一体何を……」

「大丈夫か、青年」

 頭を抱えているSinにジャスティス・Sが穏やかな声色で声をかける。

「君は随分と乱暴なバトルをしていたようだ……だが、それは君の本心ではないだろう?」

「……へ?」

 声をかけられたSinはきょとんとした表情を浮かべる。そんなSinの様子を気に留めることなく、ジャスティス・Sは話を進めた。

「だが安心したまえ! 君の悪しき心はこのジャスティス・Sが打ち消した! さあ、これからは清らかな心でブレバトをしようではないか!」

「は、はあ……ありがとうございます……」

 よく理解できていないような返事をしながらもSinはジャスティス・Sから差し出された手を握り返した。こうして、第二試合も穏やかな拍手の中で終了した。

「……ねえ、譲。やっぱりあのジャスティス・Sって人の声、どっかで聞いたことない?」

「え? そうかー?」

 拍手の中、翔太は譲の耳元でひそひそと声をかける。譲はよくわからない、と言うように返していたが、翔太はやはりジャスティス・Sの声に聞き覚えしかなかった。

「もしかして……?」

 翔太の中で、小さな確信が一つ芽生えていた。


「く、くそー! また作戦が失敗しちまったじゃねぇか!」

「し、仕方ないだろ! まさかこんな最初に負けるなんて思わねえだろ!」

 シャインから飛び出した小山と中岡は商店街の裏路地に駆けこんでいた。

「前のあの、ダイゴってガキの時も最初こそ順調だったのに……!」

「もう二度も失敗しちまった……合わせる顔がねえ……」

 二人は壁に寄りかかりながらずるずると地面に座り込む。はあ、と大きなため息を吐いて、二人そろって俯いてしまった。

[あらぁ? 誰に合わせる顔がないですってぇ?]

「そりゃリディック様……って?!」

 聞こえてきた声に律儀に返事をした中岡が顔を上げる。同じように小山も顔を上げると、そこには向こう側の壁が透けて見える半透明なリディックの姿があった。相変わらずの筋肉質な身体を露出した服で、リディックは中岡と小山を見下ろしていた。

[んふっ、どうしたのかしら二人とも? 随分しょぼくれた顔しちゃってるじゃないの?]

 わざとらしい裏返した声でからかうようにリディックが言うと、中岡と小山は身体を寄せ合って、震えながらリディックを見上げていた。

「いっ、いえ! その、あの!!」

「お、オレたち……!」

[あらぁ、もしかして、失敗しちゃったのかしら? それも、二、度、も?]

 口角を上げながらリディックが言う。中岡と小山の顔が真っ青に染まり、二人は身体を離して頭を地面に擦り付けながら叫んだ。

「申し訳ございません! リディック様!!」

「次こそ、次こそは必ず成功させます!!」

[んー、それって、前も聞かなかったかしらぁ?]

 リディックは唇を人差し指でとんとんと軽く叩きながら土下座をする二人を見下す。それから小さく息を吐きだした。

[まあいいわ。とりあえず二人とも、戻ってきなさい]

 リディックが指を鳴らすと、中岡と小山の背後に黒いオーラを纏った穴が生じた。それを見て二人はほっと安堵した表情を浮かべて穴の中に入った。二人の姿が暗闇の中に消えたのを見てリディックはくすりと笑う。

[ま、戻ってからお仕置きはたっぷりしてあげるわよ]

 その言葉と共に、リディックの姿もその場から消えた。


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Break×Battle! 桃月ユイ @pirch_yui

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