第6話

【此岸征旅】が何をしようとしているのか。それについてはだいたいの見当が付いた。さっそく明日にでも行動を開始しようと思う。


 だから明日まではこの場所でのんびりとしたい。


 現時刻は午後五時一五分頃。


 そろそろ橘花と小樟が帰ってくる時間帯なんじゃないかと思う。


 今日の晩御飯は何だろうか? 俺は考える。


 暑いのだし涼しいものが食べたいところだ。まあ、小樟が作ってくれるのなら何でも美味いとは思うけど。


 リビングでソファに座ってテレビを点けて、テレビを観ながら俺は橘花たちの帰宅を待つ。


 テレビでは地元の情報番組が流れていて、今日地元であった微笑ましいニュースを報道している。学生によるボランティア活動で学生たちが子供たちと触れ合いましたってやつだった。大して興味はなかった。


 でも、どのチャンネルも同じような番組をやっている。テレビを観る以外にやることもないので、俺はテレビを観続けることにした。


 テレビを観ていたら、玄関の扉がガチャンと開く音がした。その音が少し乱暴に聞こえたけど、俺はそんなことには気を留めず「あ、あいつら帰ってきたんだな」と思う。


 でも、ドンドンドンという力強い足音を聞いて「ん?」と首を傾げた。


 まるで何か急いでいるように聞こえる足音はこちらに近づいて来る。


 俺はリビングの扉の方を見遣る。


 矢庭に。


 その扉はバン! と勢いよく開かれる。もうね。扉が壊れるんじゃないかってくらいに勢いがよかった。


 扉が開かれ、扉の向こう側にいた者が露わになる。そこにいたのは誰かと言えば、そこにいたのは橘花であった。橘花だけであった。


 ぜぇぜぇと肩を上下させる橘花。彼女は俺を険しい目で見てくる。ただならぬ空気がその場を瞬間的に侵略していく。


「あ、おかえり橘花。どうしたんだ? そんなに息を荒らげて。つーか小樟は?」


 橘花は俺の方に近づいて来て、俺の眼前に立つ。そして彼女は俺の手を取り、


「来て」


 と端的に言った。


「は、はあ?」


 何がどうなっている? 何をそんなに急いでいる? わからない。とりあえずわけを話してくれないか。


「いいから来て!」


 疑問だらけで状況を把握できずにあたふたしている俺を橘花がそう怒鳴りつけ、強引に俺の手をただひたすらに引っ張る。有無を言わせる気がないらしい。いや、有無を言わせる暇がないのか。


 これが女の子の力かってくらいに橘花は俺を引っ張るので、俺はそれに従う形となった。


 俺は橘花に為されるがまま小樟楠夏の自宅を飛び出した。

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