神の全身全霊

 再び、ごみ箱より闇が溢れて来た時に戻る。


「な、なにが……」


 狼狽る『真の神』。その代わりに行動したのは管理マシーン――パソコン内にある多元世界を管理する機能――だった。

 基準以上の脅威を検出したことにより緊急防衛システムが作動し、転移の術を使う。

 あふれ出た闇とゴミ箱を部屋の外に転移させた。


「管理マシーン。詳細を表示しなさい」


 ノートパソコンを見る。

 画面に表示されていたことを見て絶句する。


「どうしてあれほどの力を持つ『神』がごみ箱の中になんていたのよ! 守りを突破したというの!? テレポートなステルスに対する防備も完璧のはずなのに!」


 彼女の問いに管理マシーンは予測を表示する。それは突然、顕現した神の正体がセーラであるということだった。


「くっ、ごみ箱の中に逃げたってことね。邪魔なごみらしいわね。そしてあの後、『あれ』が神の力を授けたということかしら。でも、どうしてあれほどの力を持っているの!? たかが一か月であれほどの世界を生み出せるわけがないわ!」


 画面に評された観測結果には神になったセーラの支配領域の推定があった。

 その支配する世界の数――およそ300超、つまり自らの世界とほとんど同数だった。

 『真の神』の問いに管理マシーンは文章で答える。

 それを朗読した。


「廃棄空間の中にあった世界を自分の物にした模様。廃棄空間の中は停滞の術の対象外であり64倍の時間差があり、64か月近くの時をかけて世界を成長させたと推測。また世界を成長させるのに神様より奪った魔力を燃料に用いた可能性が高い、ですって!」


 彼女の怒りは管理マシーンに向く。


「どうして気づかなかったのよ! ……『コストの無駄だからごみ箱の中は探査範囲から外しなさいと神様が命令しました。また対象が廃棄空間に移動したことはセキリュティレポートで30日前に表示しました』。うるさいわよ! あの時は疲れていて無意識にレポートを消しちゃったのよ。そんな大事なことなら何度も表示しなさい! ……繰り返しの告知を3年前に私が禁じさせたって、融通が利かないマシーンね!」


 画面を思い切り叩く。


「はあ、はあ。もういい、あんたの設定変更は後よ。これより神になったあの悪役の迎撃を始めるわ。とりえあえず故障はしていないようだし、管理マシーンはバックアップをしなさい」


 外に放り出した新たなる神に宣言する。


「前とは違うわよ。今度は全身全霊、全世界の力で叩き潰してやる」


 ○


 さて、ここで世界の形について解説を挟ませていただきます。

 皆様はこの神が世界を内と外で形を変えていたことを気付いていましたでしょうか。

 物語の中という『内』では、人々の暮らす普通の世界という形でした。

 ですが外、この神が部屋という『外』から見ると世界は本やゲームソフト等の形になっていました。

 少し想像しづらいかもしれませんね。例えを挙げるならば、VRMMOのように仮想現実の空間を想像してみてください。

 プレイヤーにとっては現実に似た世界ですが、外から見るとデータがあるサーバがVRMMOという空間の形になります。

 もう少し古いゲームでたとえれば、2Dのゲームのキャラクターにとって自分の世界は3次元的だと作中でも考えていますが、本当の3次元に存在するプレイヤーからすれば、ゲームの世界とは、やはりゲームソフトになるでしょう。

 神の用いた原理を説明するには長大な文章を用いらなければならず、ここではすべきことではありません。

 ですのでここでは神という存在にとって、世界の形を変えることはたやすいというだけを覚えてください。

 詳しいことはいずれ他の本で取り上げるかもしれません。


 ○


 部屋の外にある、重力のない暗き空間。

 そこに一つの巨大な、二十万キロの身長を持つ巨大な人の形をした像があった。

 それは『真の神』が居た数多の物語という世界が存在する部屋を外から見た姿であり三百超の世界の集合体――宇宙そのものであった。

 その像はあらゆる時代や世界の要素を持つ華美な服や鎧を着ており、細く長身な容姿に加えあらゆる物語のヒーローである男性を超次元に融合した顔を持つ姿は、超絶的な秀麗さと例えるべきものだろう。

 まさしく『真の神』が望む理想の男性の姿であり、それが反映された宇宙の形だった。

 優男と形容されるかもしれない。だがこの像は、外宇宙の神を撃退するための戦闘用の宇宙という形でもある。

 その秀麗な男性の像という宇宙に対峙するのは、廃棄空間より現れた、同規模の宇宙。


「醜いわね」


 像より『真の神』の声が響く。

 その感想は的を射ていた。百人に聞けば百人とも同じ答えになるだろう。

 セーラの支配する宇宙の形――同じ人型ながらその形は酷く醜悪だった。

 闇より暗い黒にさらに深き闇を加えたような暗黒に、濁った血のような穢らわしい赤が混じった色。

 セーラを巨大化し極限に暗くしたような姿を基本にしながら、陽炎が揺れるがごとく常に姿を変化しする曖昧な物だった。


『殺す』


 セーラの声。いやセーラだけではない。そこに幾重に積み重なった人の声がある。それはいずれも憎しみを抱える人々が発した声だった。

 宇宙と宇宙。

 特大規模の戦いがここに始まった。

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宇宙崩壊した恋愛ゲーム 芯鉄那由多 @Shingane_Nayuta

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