エピローグ 私がここにいる意味

「ふぅ、やっと片付いたか」


 拳銃をホルスターにしまいながらやれやれとベックは息をつく。

 周囲を窺ってからジュリアは柱の影から出た。


「終わりました?」

「あぁ、終わったよ。君が少しは手伝ってくれていたらもっと早かっただろうが」

「冗談やめてくださいよ」


 心底嫌そうにジュリアは答える。

 ごく普通の女子大生を元陸軍の特殊部隊員と同じにしないでもらいたい。


 肩をすくめるベックの周りにはマフィアの下っ端たち六人が地面にキスをして伸びていた。


 ベックに雇われて数ヶ月。ジュリアは今でも彼の助手を続けている。


 もちろんクロスラインの修理代もまだまだ残っていて、当分はこうして命のリスクが付きまとうこの仕事を辞められそうにない。

 だが、最近では楽しさを覚えるようになった。


 親愛、憎悪、無関心。

 人は記憶に抱く思いは様々だ。


 たった一人の記憶には様々な人の感情が見え隠れするし、記憶そのものに特別な思いを抱く者もいる。


 そういった記憶にまつわる思いに触れ、それを理解することがここにいる意味なのではないかとジュリアは思うようになっていた。


「さっさと行くぞ。クライアントとの合流まで時間がない」

「あ、はいッ!」


 ハッと我に帰って走り出したベックの後を追う。


 まだまだ先は長くなりそうだ。

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