第19話 妖狐と新しい日常。
都子が転校してきて、あっという間に一週間が経った。
この一週間、都子は体育で圧倒的な運動神経を発揮し、クラスメイトや先生の度肝を抜き、家庭科の実習でも高い家事スキルを発揮したり、とクラスの注目を集めていた。
悪目立ちしてしまうのでは? と最初は心配もしていたのだけど、都子は驚くほどすんなりと馴染んでいった。
そして、冬花と二人での登校は都子を入れて三人になり、登校中の男子からの視線はもの凄い鋭さを持って俺に刺さっていた。
それに比べてクラスメイトたちは一週間経って見慣れてきたのか、普通に接してくれるので正直助かった。
クラスメイトたちからも同じ視線を向けられたら――と、思うとゾッとする。
「よう、お三方。おはようさん」
「おーおはよう」
教室に入ってすぐ、総司が声を掛けてきた。
「おはよー、福島君」
「おはよう」
都子と冬花は総司以外のクラスメイトにも挨拶を交わしながら、それぞれ自分の席に向かう。
俺も自分の席に向かおうとしたところで、総司から声を掛けられた。
「なぁ、祐。放課後暇か? 今日、またゲーセン行かね?」
「あーいや、今日は夕飯の買い物に行くんだわ」
昨日の夜、都子にお願いされたのだ。
断る理由もないし、飯を食べるだけっていうのも悪いので、喜んで荷物持ちをさせて頂きます。
「そっか。残念だけど仕方ねぇな。暇なときにまた行こうぜ! ボコボコにしてやっから」
「ゲーセン行くのは別にいいけど、ボコボコにされるのはそろそろ卒業したいな……」
「まぁ、そうだわな。そういや、夕飯の買い物ってことは商店街だよな? 俺も付いていって買い食いして帰ろうかな?」
「ん? そうだな。総司も一緒に行くか?」
「お、良いのか? じゃあ、放課後は俺も付いていくぜ」
そういって、総司も自分の席へと戻って行った。
今日も一日の授業が滞りなく終わる。五時限目の古典の授業で、眠気との熾烈な戦いに負けたこと以外は特にこれといって何もなかった。
あの眠気を誘う声を昼飯後に聞かされるとか、どんな試練だよ? と思う。
「祐ーっ。準備できた?」
斜め後ろの席から、都子が声を掛けてくる。
「おう、大丈夫だぞ。じゃあ行くか」
「おーっ! あ、冬花たちにも声掛けてたんだよ」
「それなら、総司もついて来るみたいだから六人だな」
そんな会話をしていると、冬花たちも帰り支度が済んだみたいでこちらに向かって集まってきた。
「おまたせー。じゃあ、行こっか?」
「うんっ! なんか、みんなでゾロゾロ行くの楽しそうだよねっ!」
都子は楽しそうに冬花に笑いかける。美少女達が微笑み合っている姿は大変絵になる――が、そんなありがたい光景を最上が引っ掻き回す。
「うんうん、ボクも大勢で騒ぐの凄く好きだよ!」
「千代。あんたの場合は騒ぎすぎて怒られるんだから、そろそろ少しは落ち着きを――」
「わー茜っちの小言が始まったよ! 逃げろー。行くぞ都子っち!」
松山のありがたい言葉を途中で遮り、最上は都子に声を掛けながら教室から離脱していく。
声を掛けられた都子はと言うと……。
「わー、千代が行っちゃったよ。みんなも早く行こっ!」
俺の横でニコニコと笑っていた。
「はぁ……。千代を放っておくと苦情が入りそうだし、私たちも行きましょうか」
インテリメガネを人差し指でクイっとかけ直しながら、我らが松山が扉に向かって歩き出す。
それをキッカケにぞろぞろと俺たちは教室から出て行くのであった。
「今日の夕ご飯はなにが良い?」
校門を出てから、俺の一歩前で冬花と話していた都子が俺に声を掛けてきた。
「んーそうだな……肉が食べたいかな? ショウガ焼きとか? あ、マーボー系も良いかもな」
「じゃあ……豚肉のショウガ焼きとマーボー豆腐の二品とかどうかな?」
都子は人差し指を唇に当てながら少し考えてから料理名を挙げる。
「おぉー良いな。夕飯、楽しみだな」
俺と都子が夕飯の話をしていると、冬花が頬を膨らませてこちらを見ていた。
「ん? どうしたんだよ、冬花」
「むぅ……なんでもないっ」
声を掛けてみたんだが、プイッと顔を逸らされてしまった。ツーンという擬音が聞こえてきそうだ。
どうしたのか? と都子と二人で首を傾げていると、後ろから会話が聞こえてくる。
「全く……どうするとそこまで鈍感に育つんだよ」
「まぁ、あれは見ていてじれったいわよね」
「あははっ! 笠間っちらしいけどねぇ! 周りは良い迷惑だけどさ」
なにやら不名誉なことを言われている気がするけど、とりあえず最上のニヤニヤとした顔がイラッとする。
「なんだ、どういうことだよ?」
「……なんでもねぇよ」
総司のからかうような視線が普段とは少し違っているように感じた。
みんなでゾロゾロと商店街に行ってから、数日後の帰りのホームルーム。先月配られたプリントと似たような内容のプリントがまた配られた。
プリントの内容を読み、都子の方を振り返ると都子は配られたプリントを凝視してた。綺麗に整った眉をひそめ、眉間には
美少女がそういう表情をすると結構な迫力がある。
「……なんか難しい顔してるけど、都子ちゃんどうしたのかな?」
都子の方を向いている間に冬花が俺の席まで来ていた。
「うーん……なんだろうな?」
多分『物の怪』が絡んでいるのかどうか考えているんじゃないか?
以前、部屋で『物の怪』の話を都子に聞いた時もなにやら思案げな顔をしていたし。
なんにしても、冬花は『物の怪』の存在を知らないので言わない方がいいと思う。
心配させたり怯えさたりするのも嫌だし、この話をすると都子の正体まで話さないといけなくなりそうで判断にも困る。
ただ――プリントを眉をしかめて凝視している都子の瞳に灯る力強さが印象的だった。
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