第10話 友人達の狂想曲。

「おはよう」


 今日からまた一週間が始まる。つまりは日曜日である。

 今朝は都子がベッドに侵入してこなかったので、普通に冬花に起こされた。

 幼馴染の女の子に朝起こされるシチュエーション自体が世の中的には普通ではないのかも知れないけど。

 ちなみに朝飯は都子作である。


「よう、おはよう。今日も仲良く二人で登校か」


 総司そうじがいつも通りにからかい混じりの発言をする。


「まぁ、幼馴染だし?」

「けっ、持つものはより多くもつってか。なんて……なんて不公平な世界なんだよっ!」

「ん? 何、突然?」

「ネタは上がってるんだよ、祐。お前、土曜日に美少女と二人でいたって」


 ん? 土曜日?

 ……もしかして、都子とコンビニに行った時のことか?


「志和みたいな可愛い幼馴染がいるのに、それに飽き足らず他の美少女にまで手を出すとは……」

「は? 手を出すって人聞きが悪すぎるぞ!」


 現に総司の発言で教室内の温度が下がった気がした。


「だいたい、誰がそんなこと言い出したんだよ?」

「情報源は秘密だ! そういうのは基本だろ?」


 そんなお約束みたいなノリで俺の教室内での居心地を悪くされても困るんだけど……。

 


「はいはい! 福島も悪ノリはそのぐらいにしておきなさい」


 パンパンッと手を叩きながら、俺たちに近づいてくるのは松山茜まつやまあかね

 銀色のアンダーリムメガネが知性を演出している委員長タイプの友人である。決して本物の委員長ではない。


「松山ー。もう少し祐を弄ろうぜ?」

「全く、バカなことばかり言って――ふんっ」


 総司の額に松山のチョップがきれいに決まる。このチョップ、俺もくらったことがあるけど地味に痛いんだよなぁ……。


「ってぇな……」


 チョップをくらった総司は額を抑えながら涙目である。うんうん、人をいじって遊ぶやつには松山のチョップがお似合いだ。


「それで、笠間。結局この話はどういうことなの?」


 チョップはされないものの、松山も気になっているようだ。


「あぁ……それなんだけど――」

「じゃじゃーん! これが証拠の写メだよ!」


 俺の言葉は明るくて無駄にデカい声に遮られる。


「はぁ……。千代、写メがどうしたって?」


 松山は額に手を当てて、最上千代もがみちよに声をかけた。


「ほらこれ! 冬花も見てみてよ。旦那の浮気現場だよ?」

「いや、千代ちゃん……祐くんは別にそういうのじゃ……」


 相変わらず最上は声がデカいし、声のトーンが高くて明るい。悪く言えばキンキンしている。

 そんな最上の言葉に頬を赤くした冬花がモゴモゴと反論しつつ、最上のスマホを松山と覗いている。


「凄く可愛い子ね……」

「あぁー、やっぱり都子ちゃんかぁ……」

「ん? 都子ちゃん?」

「あれ、冬花はこの子知ってるの?」


 三人の会話を聞くと、やっぱり都子だったようだ。

 これでこの騒動はおさまるだろう――。


「それで、笠間っちとこの都子ちゃんって子はどういう関係なのさ? ステディなご関係?」


 最上! また余計なことを!

 ワクワクした顔で人の平穏を乱すようなことをするとは、ホントいい性格している。それでもどこか憎めないのは最上の人柄なんだろうけど、今は凄く困る。うちに居候してるとか、婚約者候補とか、実は人間の美少女じゃなくて妖狐の美少女でした! なんて、どうやって説明しろっていうんだよ……。


「ステディって……お前、今どきの高校生は絶対に口にしない言葉だと思うぞ?」


 完璧に死語だろ、それ。年齢詐称してるんじゃないか?

 そんな事を考えていると、キッと鋭い視線を向けてくる最上。さっきまで好奇心で輝いていた瞳を刃のように尖らせている。


「笠間っち、何か失礼なこと考えてない?」


 ビシッと俺を指差し、凄もうとしたのかいつもより声のトーンを落としている。

 冬花にしても、最上にしてもどうしてそんなに勘が鋭いのだろうか?

 それよりも人を指差しちゃいけないんだぞ。


「いやいや、祐。お前って考えてる事が顔に出てるからな?」

「え?」


 思わず頬に手を持っていく俺を見て、やれやれと言った表情の総司。


「それで、その都子ちゃんだっけ? どんな関係なわけよ? 志和の様子を観た感じじゃ、特別な関係ってわけでもないんだろ?」


 総司がちらりと冬花に視線を向けると、冬花は顔をしかめた。


「私の様子で判断するってどういうことよ?」

「それは自分の胸に聞いてみな」

「むっ……」


 なんだかわからないが、冬花が負けたらしい。


「全く……。あんたたち、話が全然進まないんだからおとなしくしてなさいよ」


 さすが委員長タイプの松山である。しかし、俺からしたら有耶無耶になった方が良かった。


「それで、笠間? 話の続きをお願い」


 そしてこの催促である。しかし、なんて言ったものか……とりあえずは当たり障り無くだよな?


「えーっと、田舎のじいちゃんの知り合いで今はうちで預かってるんだよ」

「何!? 祐、お前、この可愛い子と一つ屋根の下にいるっていうのか!?」

「いや、まぁ。そういうことになると思うけど……」

「羨ましすぎるぞ! こんちくしょー!」

「本当にあんたはうるさいわね……ちょっと黙ってなさいっ!」


 本日二発目のチョップが総司を沈黙させた。あのチョップってどれくらいの威力があるんだろうか……。


「ねー笠間っち? 都子ちゃんって従姉妹とか親戚なの?」

「いや? 違うと思うけど……。俺も親戚を皆把握してるわけじゃないし」


 母さんはじいちゃんから連絡があったって言ってたけど、都子は妖狐だ。じいちゃんは都子の正体を知っているのか?

 時間のある時にでも、じいちゃんに電話してみようかな?


「えー? じゃあ結局どういう関係なのさー」


 口を尖らせて不満そうな表情を隠そうとしない最上の追及が始まろうとしていた、そんな時――。


「ホームルーム始めるぞー! お前ら、席に着けー」


 ガラガラと教室の扉を開けて担任の先生が入ってきた。

 これで追及をかわせる。先生が神に見えてきた。


「ちぇっ、時間切れかぁ。次の休み時間が楽しみだね」


 その一言で神はただの担任の先生へと戻った。

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