たびだち

 別れは突然だった。いつも通り"ぶちかわ"の盗みを見守っていた"あかくろ"は、背後から迫る肉食獣に気づかなかったのである。獲物を抱えて意気揚々と帰ってきた"ぶちかわ"は、どうして兄貴分が消え肉片と血だまりが現れたのか全く理解できなかった。獣以外の死を知らなかったのだ。

 彼は寒週いっぱいまで"あかくろ"を探した。そしてとうとう見つけられないことがわかると、次の暖週を落ち込んで過ごした。幸運だったのは、暖週を生きた獣と過ごすのが半ば生活習慣になっており、食糧に気を回す必要がなかったことだろう。やがて次の寒週がくると、"ぶちかわ"の心もいくらか持ち直していた。

「"あかくろ"兄ィは僕を置いて出て行った。僕が≪寒い方角≫に行きたいとかいうからだ」

「早い話、僕は嫌われたんだろうなァ。そしたら、もう誰にも相手にされないかもしれない」

「でも、≪寒い方角≫なら、僕を歓迎ェしてくれるかもしれないぞ。嫌われ者同士仲良くできるさ」

 幼い"ぶちかわ"は寓話を理解し切れていなかった。擬人化された≪寒い方角≫に『会う』ため、彼は行動を開始したのだった。


 大気がなく、横転した地軸を持つこの星では、公転によって寒週と暖週が交互する境界帯を離れるにつれて、環境は徐々に過酷なものになる。原始人たちは、暑さも寒さも嫌いだった。ただし、古の発明家が手に入れた『炭』を持ち歩けば、寒さについてはある程度対処できることも知っていたのである。

 数十週ののち、成長した少年"ぶちかわ"は無数の炭をこねてひとつの塊にし、煌々と燃え盛る松明を作ることに成功していた。その一部は船状に加工され、食糧を積み込むことができるようになっていた。

 出発の時だった。

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