第6話 4日目

4日目・サングラスの男の話

その日は早朝から彼女の残りの遺体捜索に大勢の捜査員が派遣された。昨日の雨でだいぶ足元がぬかるんでいたが、彼女の左耳が見つかった周辺を中心に大々的に行われた。

朝から画面と睨めっこしている大沢が署内に居た。昨日とは打って変わり、外は晴天。気温は平年通りでも陽光は眩しかった。そんな中、薄暗い部屋で佐久亜紗美が飛び降りたオフィスビルの防犯カメラ映像をじっと見ていた。勿論、彼女が亡くなった日の映像だ。何度も何度も同じ場面で止めては、手掛かりがないかと画面を端から端まで舐め回した。午前八時過ぎに一般人と一緒に入って行く帽子を深く被りサングラス姿の男の映像。十分程遅れて彼女が建物の中に入る映像。その二十分後には裏口から出て行く男の後ろ姿。昨日真木野と共に行き着いた結論、それは彼女を殺した犯人は、十二年前の事件の関係者であるに至った。動機がもし隠ぺいなら、容疑者は速川征太。仕返しなら、一番の容疑者は高瀬咲枝だろう。しかし高瀬咲枝では共犯者が必要なのだが。

「ドンッ」ドアが物凄い音を立てて開くと、

「どうした?陰気臭いことして」

現れたのは半笑いの真木野だった。

「おはようございます」

大沢は立ち上がると、振り返り軽く会釈した。

「防犯カメラか」真木野は少しだけ画面を覗き込んだが、すぐに出口へと体を進めた。

「何か見つけたか?」

「いいえ。でも最初の日に散々聞き込みしましたけど、こんな出で立ちの男のことを何故誰も怪しいと思わなかったんですかね?」大沢の疑問は最もだった。事件が起こった日、ビルを封鎖し建物内にいたすべての人間の指紋や調書を取った。しかしその席で怪しい人物を見たという話が一つも出てこなかった。

「朝はみんな自分のことでいっぱいいっぱいなんだろ」

「そういうもんですかね」

「それにこのビルは表通りから裏通りに抜ける通路として利用している人間も多くはないがいる。その中にはバンドマンやジャージ姿の学生なんかも混じっているんだ。サングラス掛けてニット帽を深く被っている奴ぐらい何とも思わんだろ」「この時期にニット帽ですよ」扉近くにあった真木野の姿は既になかった。しかしすぐに戻ると、

「ビル周辺の防犯カメラが付いている店や、商店街の映像も探ってこい。もしかしたらその映像の男がどこかに写っているかもしれんぞ」

画面の方に向き掛けていた大沢が顔だけを反転させ、「はい」威勢良く返した。上司だけは、部下の生まれ持った才能を有効利用していた。


4日目・タバコ屋の話

 すぐに署を出た大沢は、ひとり彼女が飛び降りをしたオフィスビルの周辺に来ていた。出勤の時間帯は既に終わり、昼時までにはまだ時間がある。だから大通りでも人はそれほど出歩いてはいなかった。それでも問題のビルの前には数人のカメラマンが何を期待しているのか待機していた。事件後、無くなっていた頭部の一ヶ所が見つかったことで、報道は過熱の一途をたどる形相を見せていた。もし自分がその担当刑事だと知られたらたちまち囲まれるだろうと考え、芸能人張りに顔を伏せてみたりしたが、誰ひとりこちらを向くものはいなかった。マスコミ関係の人間を除けば、近くに住む老人や主婦たちが午前中のまどろみの時間を楽しんでいるのか、近くの公園からは笑い声が絶えまなく聞こえた。彼女の飛び降りの一部始終が撮影されたマンションはビルの真向いにある。その右隣は月極の駐車場、左隣には一階に駐車場を配したチェーンのファミリーレストランがある。飛び降りがあったビルの右隣は八階建のマンションで、左隣は一階にコンビニエンスストアーが入る雑居ビルが並んでいた。取り敢えず大沢は真木野の指示通り、隣のコンビニから攻めることにした。こんな時間はコンビニも暇らしく、二人のバイトが働いていたが、一人は棚の整理に奔走しているのに対し、もう一人はレジでボーっと自分の爪を眺めているだけだった。これで同じぐらいの時給を貰っていることを不公平に感じた。

「いらっしゃいませ」店に入ると、冷風に堪らず目を閉じた大沢にそんな二人の声が聞こえた。

「すいません」仕事の邪魔をしては悪いと考え、暇そうにしているレジの女の子に声を掛けた。

「はい」二十歳そこそこだが声も表情にも全く覇気がなかった。

「今店長さんはいらっしゃいますか?」低姿勢にモノを言うと舐められることが多々ある。今回もそのケースらしく、女の店員はあからさまに不機嫌な表情に変わった。仕方なく、

「警察の者なんですけど」そう言って職権乱用にも思える手帳を見せた。やはり効果覿面で、その店員は全身を硬直させてすぐに裏に消え、店長らしき人物を連れて来た。

「お待たせしました。店長の小菅です」

感じのいい男性で、自分の父親と同年代、還暦を迎えたぐらいに思えた。

「突然すいません」

「いえいえ」

「先日、隣のビルでありました、飛び降り事件のことでご協力頂きたいのですが」

そこまで言うと、入り口横にある防犯カメラに目を向けた。

「いらっしゃいませ」さっきとは比べものにならないぐらい威勢のいい声が店内に木霊した。客が来店したことで、営業妨害にならないよう大沢は手短に話を済ませると、店主の案内で防犯カメラ映像が確認出来るレジの奥へと通された。狭い通路を抜けると、店内の明るさとは対照的に薄暗い空間があった。その奥には机があり、その上ではウィンドウズの文字が躍っていた。横はスナック類や缶ジュース類が天井ギリギリまで積まれていた。

「狭くてすいません」大沢の心を察するように、店長の小菅が謝って来た。その笑顔にまた癒され、言われるがまま薄暗い中に怪しく光るパソコンの前に座った。その上には小さい画面の今も防犯をしている映像が流れていた。それを店長が操作し、事件の日の朝八時前後のカメラ映像に切り替えてくれた。映像コマ数は彼女が飛び降りたビルのモノとは比べものにならないぐらい少なく、大体一秒間に一コマといったところだろうと大沢は認識した。写し出されるのは何時間居座るのか立ち読みを続ける少年やコスメの前を陣取り決めかねている少女。あとは何の表情も無く買い物を済ませる老若男女が永遠と登場するだけだった。そんな中、午前九時、店の真横で起こった飛び降り事件に客もアルバイトもなく、一斉に画面から消えた。どうやら表に飛び出していったようだった。そのときだった、そこで映像を止めると、奥に居る小菅を小声で呼んだ。

「はいはい」狭い中を小走りでの登場だった。

「これ見て下さい」大沢が店長に見せた映像は、ジュース売り場のガラスケースを開け、騒ぎに乗じて缶ビールを数本自らのエコバックらしきモノに詰め込もうとする老婆の映像が映っていたのだ。人の良さそうな店長の顔色が一瞬だけ変わった、がすぐに元の笑顔に戻ると、

「やられちゃいましたね」頭を掻いていた。結局このコンビニの防犯カメラに、今回の事件を紐解くモノは写っていなかった。

次にファミリーレストランとその二軒隣りにある車屋、向かいのコーヒーショップなど防犯カメラを置いている店の映像を確認したが、あの男が映っている映像はなかった。途中でランチタイムと重なり、いくつかの店では迷惑がられたが、それでも防犯カメラのある店を回り、防犯映像に神経を集中させた。お陰で何の成果も得られなくても、目だけは二日酔いか寝不足かもの貰いにでも掛かったように赤く染まっていた。

「ニット帽の怪しい男は裏口から出て行ったんだから、裏道の方が映っている可能性高いじゃんか」今更気が付いた自分に少し苛立ちながら、オフィスビルの裏道、彼女の首を捥ぎ取った袋が落ちていた通りに入ってみた。一本中にあるその道を目にした時、大沢は違和感を覚えた。反面は大きなビルが立ち並びもう反面は昭和の高度成長期の時代に建てられたであろう古めかしい住居、それらが相対し永遠と続いていたのだ。ビルのほとんどが道ギリギリまでそそり立ち、今にも小さな民家を飲み込もうとしていた。道幅は四メートルほどあったが、一方通行の標識もないくせに、ビルが大きな顔をしているせいで、どう見ても車が行き違うことなど不可能に思えた。こんな道では防犯カメラなど取り付ける店はないだろうと半ば諦め、ゆっくりと路地を観光した。しかしあの布の袋が転がっていた場所に辿り着く頃にはそんな思いはどこかに吹き飛び、食道の奥の方に熱いモノを感じた。その現場辺りを一応見渡したが、事件から既に四日、遺留品の類などは見つからなかった。そこから十数メートルほど行ったところに、今でも老婆が店先に座り手渡しで煙草を売っていた。そこはまさに昭和だった。ただ一つだけその光景に似つかわしくないモノが、彼の望郷への視界を遮っていた。それは防犯カメラ。こんなにも庶民的で平和的な存在の店でも、犯罪に備えているわけだ。現に数日前、数メートル先には人間の生首が転がっていて、他殺ならば犯人はこの通りを伝ってそれを回収したのだから。考えただけで背中が冷たく感じた。

「防犯カメラ……そうだ、犯人はこの通りを歩いたんだ。もしかしたらこのタバコ屋のカメラに犯人の決定的瞬間が映っているかもしれない」彼はすぐにタバコ屋の老婆に話し掛けた。

「突然すいません」

「何にします?」

そう返され、自分は煙草を吸わないが、

「じゃぁセブンスターをください」真木野が愛煙する銘柄を思はず口にした。

「それとお婆ちゃん、ちょっとお話し出来ますか?」出来るだけ笑顔を作り、ゆっくりと手帳を彼女の前に翳した。

「お巡りさん?」驚いた表情のまま大沢が手に持っていた手帳を取り上げると、縦や横にしたあと、太陽にそれを翳していた。

「本物ですよ」

すると今度は彼の顔に皺くちゃの顔を近づけ、にかーっと笑った。

「どうしたんじゃ、事件か?」

「はい。この前そのビルで飛び降りがあったんです」大沢は何時になくゆっくりとした口調で出来るだけ優しいトーンで、おぞましい話をしなければいけないことに違和感を覚えた。

「それの証拠を探しているんです」

「その話なら知ってるよ」そう言った老婆の目は力強く真っ直ぐに大沢を見つめ、

「横の扉から中に入りな」防犯カメラの映像を確認出来る場所へと案内してくれた。

店の中は想像以上に狭く、大人二人も入ればぎゅうぎゅうだった。そんな中で老婆は相変わらずマイペースで来る客に煙草を売っていたが、その度に店内にいる大沢の姿に誰もが度肝を抜かれ、ある年配の男性はドロボーと叫んだあとに、自らの携帯電話を取り出し110番する始末だった。すぐに手帳を見せ事なきを得たが、そのうちに野次馬の如く、煙草を買ってもその場所を離れない者まで現れる始末だった。そんな集中が全く出来ない中、映像を確認した。ここのカメラも期待はしていなかったが一秒間に一コマ撮影するタイプで先程のコンビニのものよりも人が写ることが少ない裏路地だからだろう、カメラの撮影範囲で動くモノを検出したときにだけ動く仕組みらしく、それにより容量を節約しているタイプだった。ただカメラの方角はビル方面に向いてはいたのだが、角度が違い過ぎてビル自体全く写ってはいなかった。その上剥き出しのカメラだ。それに映るような犯人などいない。半ば諦めかけたときだった。カメラの映像が午前九時を飛び越したところから動き出した。飛び降りがあったのは九時だ。何かの動きを感知したカメラが撮影を始めたこの映像の時点で、彼女は十階建てのビルの屋上から既に羽ばたいている。画面にはまだ何も映ってはいなかったが、微かに画面が揺れた気がした。大沢の掌がジンワリと湿り気を伴った。今から写し出される何かを待つ間、心臓が物凄い勢いで波を打つのを感じた。そんな緊迫した中、奴は現れた。黒いコートに黒のニット帽、サングラスの出で立ちの男が、煙草の自販機に小銭を入れた映像。次にタスポカードを翳す映像。背を向けた映像。多分彼が歩いて行った方向を考えれば、このあとすぐに佐久亜紗美の顔が入った血で染められたであろう袋を視界に入れたはずだ。男の顔はほとんど確認できなかったが、服装からあのビルの防犯カメラに映っていた男でほぼ間違いなかった。何故十分も前にビルを出た男がそこに映っているのか。

「やはり顔を回収する為?」大沢は一人零した。


4日目・体操着袋の話

捜査本部に顔を出した真木野は、その後一人高瀬家を訪れた。目的は勿論十二年前の証拠品、体操着袋だ。しかし昨夜三橋が言っていたことが本当なら、高瀬咲枝は持ってはいないことになるのだが。玄関前で深呼吸をする真木野。何時になく緊張していた。一度自らに気合を入れインターフォンを鳴らした。出てきたのは咲枝だった。彼女は真木野の顔を見るなり、顰めた顔つきに変わった。

「帰って下さい。話すことは何もありません」

扉を閉めようとする咲枝に、

「待って下さい」真木野が体を少しだけ室内に入れて抵抗した。

「お帰り下さい」

「お願いです。あの体操着袋を貸して下さい」

「その件はお断りしたはずです」

「あの袋がどうしても必要なんです」

「そっちがいらないって渡してきたモノじゃないですか?」

「あれさえあれば十二年前の事件の真実が分かるんです」

「真実なら十二年前に出して欲しかった。あの体操着袋は一生誰にも渡しません」その言葉を最後に咲枝は真木野の体を押し出し、扉を閉めてしまった。あとはいくら呼んでも応答はなかった。十二年前に、それは速川征太に返したモノじゃないのかと問い詰めることは敢えてしなかった。そのことを利用され、証拠品を隠ぺいされてはかなわないからだ。そして今の会話で、真木野は確信も得ていた。どういう経路で速川征太から彼女に渡ったかはまだ分からないが、あの体操着袋は間違いなく高瀬咲枝が持っていると。彼は携帯電話を取り出すと、林に電話を掛けた。

「どうしたんですか?」緊張気味の彼に、

「速川征太が郵送で、高瀬咲枝宛てに何かを送っていないか調べてくれ」

「えっ、十二年前からですか?」真木野の依頼に、林が電話越しに目を丸くした。

「当たり前だろ。郵便局、宅配業者、バイク便、おまえが考え付く郵送方法全てを調べろ」

「でも、もし本人が直接、届けていたら?」

「そのときはそのときだ。おまえがありとあらゆる可能性を調べた結果、そういった証拠が上がらなければ、諦める。今は可能性で調べるしかないんだ」

「わかりました」結局押し切られる形で、林は上司の難題を渋々引き受けた。

それから真木野は炎天下の中、高瀬咲枝が出て来てくれるのを待った。立ちんぼのまま玄関先で待った。勿論こんなことで彼女が同情してくれないことなどわかっていた。近所の手前、逆に迷惑なのもわかっていた。寧ろそれが狙いだった。仕方なく高瀬咲枝があの体操着袋を渡してくれることが狙いなのだから。相手の気持ちなど、正直に言えばどうでもよかった。あの証拠品さえ手に入ればそれで良いのだ。時間は昼の十二時を回っていた。さっきまであった軒先の日影がどんどん燃やされ今は日なた一色。陽光が反射し顔を顰める真木野の目ん玉を焼いた。脳天から発火し全身を覆う勢いで体が燃やされた。体中の毛穴が開き汗を放出していたが何時しかそれも止み、熱でショートした脳みそのせいで朦朧とした。彼がここに立ち始めてから、既に三時間が経とうとしていた。あれだけ疎ましかったお日様も玄関先にある梅の木のお陰で真木野に届く日差しは疎ら模様になっていた。ポケットで携帯電話が煩く震えた。液晶画面に目をやった彼の顔が固まった。相手は下山だった。「はい」

「何してんだ?そんなところで立ってないでとっとと戻ってこい」珍しく下山はキレていた。彼の怒りは最もだった。すぐに署に戻された真木野は大目玉を喰らった。これだけの労力を注いでも結果は彼の思惑とは違う方向へと進んでしまったが、熱中症寸前だった彼は救われた。高瀬咲枝本人からの苦情はなかったが、近所からの苦情は相当な数にのぼったらしい。その光景に、電話で宅配業者を虱潰しに調べている林が心なしか喜んでいるようにも見えた。元々彼は真木野と相棒だった。しかし真木野のワンマンさ相手をバカにした態度のせいで、林は精神的に病み入院を余儀なくされた。それは二人が組んで丁度今の大沢と同じ一年が経ったときだった。林は思っていた、大沢もすぐに音をあげると、精神的病で入院すると。しかし林と同じ一年が過ぎても大沢に異変はなかった。寧ろあの真木野と組んで生き生きさえしていた。そしてこのごろ感じることは、変化があったとすれば真木野の方ではないだろうかと林は気が付いた。どこか丸くなった感があるのだ。年のせいか、もしかしたら今だったら組めば上手くいくんじゃないだろうか。しかしこの目を、今、林を睨み付けた眼を見てしまうと、とてもじゃないが無理だと彼の心以上に震える体が教えてくれた。そんな中、場なんか全く読めない大沢は戻って来た。

「真木野さん、どこ行ってたんですか?」何処だっていいだろという顔でいる真木野に、

「顔赤いですよ。まさか酒飲んだんですか?」睨みつけた真木野。目を逸らす大沢。

「そんなことよりこれを見て下さい。指示通り彼女が飛び降りたビル界隈を探し廻ったら、あったんです」

「何がだ?」

「ビルの防犯カメラに映っていた男と同じ服装で背格好も似ている男が、事件が起こった直後に裏にあるタバコ屋のそれにも映っていたんです」大沢の発見に勢いに真木野は呑まれた。

「本当か、でかしたぞ」肩を組み別の部屋へと移動する二人の後ろ姿を、林は憂いだ目で見送った。  


4日目・タバコ屋の防犯カメラ映像の話

早速、大沢が借りてきたテープを見る二人。

「なんか今回の事件、ビデオテープに振り回されてますね」

「そう言えばそうだな」

「でも知らない間に色々なところで僕らは撮られているんですね」

「なんか怖いよな」そんな軽い感じで始まった鑑賞会だったが、映像が映し出された瞬間、どちらも口を噤み真剣な面持ちで画面と対峙した。何も映ってなかった映像に突如あの男は現れた。何度も見ているはずの大沢の体がビクついた。黒いニット帽にサングラスの出で立ち。黒のジャンパーが何の素材なのかは、このタバコ屋の防犯カメラの映像でもあのビルの映像でもはっきりしなかった。そもそも帽子も素材がニットなのかも確認出来ていないのだ。ただ形だけで決めつけ捜査員の誰もがその意見に従っているだけだった。そして煙草を買った男は、お釣りを取る為にしゃがみ込んだのだろう映像と画面右上で背を向け歩き出した途端に消えていた。

「男の歩いて行った方向が、佐久亜紗美が被っていた布の袋が見つかった場所近辺です。そしてこの映像の時間が六月六日、午前九時五分。彼女が飛び降りた時間が同じ日の午前九時丁度。警察の第一便が到着したのが午前九時七分。午前九時から警察がビルを包囲するまでの約十分間、この映像を見る限りでは、この時間にこの道を通ったのはこの男だけなんです」

「つまりこの男が、何らかの形で彼女を殺害あるいは彼女自身を教唆して彼女を殺し、顔を回収した確率が高いわけだな?」いつも以上に興味を示した真木野の姿に、大沢は手帳を見ながら無意識に口角を上げた。

「この男が犯人か。歳は何とも言えんが二十代から三十代といった感じだな。それにタスポカードを翳した手は右だから犯人は右利き……」何時からそこにいたのか、下山は犯人であろう男の特徴を確認していた。

「タスポカードは未成年じゃ作れなよな?」真木野がそんなところに気が付いた。

「そりゃあそうですよ」

「ってことは、映像から歳は導き出せないが、未成年じゃないことは確かなわけか。となると高瀬和馬は容疑者から消える。高瀬咲枝の共犯者探しを徹底しないとな」

「でもタスポカードをどこかで入手すれば、未成年でも買えますよ」

「彼女が飛び降りる映像を撮ったであろう男の年も、林が聞き出した住人の話では二十代後半から三十代なわけだから、和馬はまずシロだ。一応、そのカードの紛失届け出ていないかを調べてくれ」

「はい」真木野は下山と二人、もう一度映像の確認をした。

三十分ほどで戻って来た大沢が、机に座ったまま考え込む真木野に近づくと、

「タスポカード紛失の届け出は一件もありませんでした」

「そうか」真木野は立ち上がり部屋の出口へ体を向けた。

テレビ画面を睨みながら大沢が顎辺りに手を当てた。

「真木野さん?」

「何だ?」煙草を吸いに行こうとドアノブを握っていた真木野が振り返った。

「さっきの防犯カメラの映像から、犯人の行動を考えるに、九時丁度に向かいのマンションの屋上から彼女が飛び降りるシーンを撮影し、誰にも気づかれずに五分後にあの路地に立って彼女の首を回収することって、可能なんでしょうか?」

「飛び降りの瞬間ブレが生じ、それを操作して直した映像から考えると、あれを撮った人間は間違いなく事件があった瞬間、撮影場所に居たことになるわけか」今度は真木野が、顎を触りながら声にならない唸り声を上げた。

「確認してみるか?」

「はい」


4日目・よーい、どんっの話

そして二人は、事件現場のビルの前に立った。それから四車線道路を挟んで反対側正面にあるマンションに向かい、管理人に了承を得てから屋上を目指した。この建物の最上階、十一階まではエレベーターで向かい、そこから屋上に上がる階段を探した。共同廊下からは左右に部屋が配置されている為、外を窺い知ることが出来ない造りになっていた。エレベーターボックス脇に内階段を見つけた。薄暗い屋上までの階段は上れたが、外に出る為の扉の鍵は閉まっていた。

「真木野さん、もしかして林さんが言ってた推論、満更間違いじゃなかったんじゃないですか?」

「諦めるのはまだ早い」一度十一階に戻ると、真木野はチカチカした蛍光灯の下長い廊下を悠然と歩いた。そして彼は非常階段へのドアを開けた。

「そこは空いているんですね?」

「当たり前だ。非常階段が閉まっていたら非常時どうするんだ?」真木野の顔から、完全に馬鹿にされていることを悟った。しかし本人も否定できないと思った。真木野が扉を開けると夏の日差しが陰気臭い廊下に光を与えた。救われた思いで大沢が真木野の後に続いたが、すぐに日差しにウンザリとなった。それでも真木野が屋外の非常階段を駆け上がったので大沢もそのあとに続いた。

「こっちにも扉ありますね」階段を上り切るか切らないかの所に、やはり雨ざらしの鉄の壁は存在した。すると真木野が、ドア横の手摺りに登り、それ伝いで目の前の障害を通過した。

「あれっ?簡単に行けましたね」感心している大沢に、

「おまえも速く来い」真木野が急がせたが、動かない大沢。

「何してるんだ?速くしろ」大沢の顔が段々青くなる。

「もしかしておまえ、高所恐怖症か?」大きく頷く部下に、真木野は軽くせせら笑いをした。

「だから?」

「ヘッ?」凍りつく大沢。

「速くしろ。これは仕事だ」今度は真木野が全く笑っていなかったから、大沢は心を決めドア横の手摺りに足を乗せた。さっきまで感じなかった風が上から下から四方八方から吹き荒れた。思はず目を瞑る大沢に、

「目を開け!」真木野の怒声が轟いた。どうにか重たい瞼を開くと、そこには青空が広がっていた。そして重力の偉大さを肌身で感じた。ドアの上の鉄を両手で掴んだが、脂汗で滑りそうだった。それでも放したら死んでしまうと思い必死で掴んだ。一瞬だけ見えた地面が痛々しかった。体半分がドアを越えたところで、大沢は思い切ってジャンプした。彼の体はドアを越えた階段の上にあった。

「やった」自らの成功に思はず笑みが毀れたが、

「行くぞ」真木野は既に屋上へと向かっていた。屋上に上がるとそこは都会とは思えないほど空を近くに感じた。そこから見える向かいのビルの高さより、このマンションの方が幾分高いようだった。

「ここから撮ったんだな」真木野が立っている場所に向かい、もう一度現場となったビル屋上に目を向けた。そこが彼女の最期を映し出したあの映像が撮影された場所に間違いなかった。

「よっし、じゃあ始めるか?」

「何をですか?」

「実験だ」

「はぁ」

「犯人は今のところ二十代か三十代の男性だから、おまえの方が適役だな。いいか今からタイムを計る」ポケットからストップウォッチを取り出すと、それを大沢の首に掛けた。ヘッという顔をしている大沢に、

「今からおまえが、ここから向かいのビル裏の路地に到着するまでの時間を計るんだ」

「僕がやるんですか?」目を丸くする大沢。

「そう」

「ここから?」

「そう」

「あのドアの手摺りを登る?」

「だからそうだよ。速くやれよ」

「真木野さんだって、まだギリギリ三十代じゃないですか」しつこさにキレ出す上司に負けていなかったが、

「ギリギリじゃダメ。おまえなんか弩ストライクだろうが。つべこべ言わずにやれっ」

「はぃ」結局やらされる羽目になった。

「じゃあ、俺先に降りているから、おまえの好きなタイミングで初めていいぞ」

「はぃ」真木野が屋上を去ったあとも暫く青い空を見ていた。高所恐怖症でも空は好きだった。昔叢の上に寝転がって長い時間それを見上げていたことを思い出し、今もそうしたかったが、太陽でだいぶ温められたモルタルの上では火傷してしまうと諦めた。それでも少しの時間空を見ていたら心も落ち着きを取り戻し、今ならやれる気持になった。

だから一人で、「ヨーイ、ドンッ」走り出しの合図を大声でした。

しかしすぐに彼はへこたれた。それは余りにも速く問題のドアがあったから。真木野はエレベーターを降り外に出ると、向かいのビル裏まで悠々と歩いた。一方大沢は最大の難所は死なずに通過できたものの、一気に駆け降りた階段のせいで心臓が破けそうだった。やっとの思いで外に飛び出すと、信号前で青になるのを待った。ここまでのタイムは三分を大幅に過ぎていた。それから青になるのを待って、それが変わったのを確認してから再び走り出した。オフィスビルの裏に着くと、あとはタバコ屋までの十数メートルの道のりを走った。そこに真木野が立っていた。最後の一歩を確認してから、大沢は首に掛けていたストップウォッチのボタンを押してしゃがみ込んだ。背中がぜいぜいと鳴っていた。

「タイムは?」息を切らし地べたに這いつくばる勢いの大沢に上司は容赦なかった。

「四分五十秒です」

「可能だな」

「でも相当苦しいですよ」

「それはおまえの体力がなさ過ぎるからだ」相変わらずぜいぜいしたままの大沢を気にも掛けずに、

「これで、一応単独犯の可能性は実証された」真木野は胸を張っていた。

「でも、カメラ持っていたんですよ」

「今のおまえみたいに首から掛ければ良いだろうが」

「なるほど。然しですね、五分後には涼しい顔で煙草を買うなんて不可能です」

「おまえが情けないだけだ」

「確かにそうですけど。犯人も無理しましたね」

「車ばかり乗ってないで、たまには走れ」

「はーい」

「はいは短く!」

「はいっ」

「よろしい」


4日目・大沢の話

それから一度署に戻った二人。

「真木野さん、今日高瀬咲枝の家に行ってたんですよね?」廊下で前を歩く真木野に大沢が尋ねた。

「そうだ」

「やっぱり借りられなかったんですね」

「決めつけるな」

「でも無理だったんでしょ?」

「しつこい!そうだよ。無理だった」

捜査一課に戻った二人。

「ご苦労さん」下山が出迎える。部屋に入るなり大沢が時計を気にした。

「まだ四時前です。もう一度行きましょう。今から行きましょう」

「止めた方が良い。近所の住人に迷惑が掛かる」そう言って下山を伺う真木野。

「人一人の命が奪われているんです」

「どこかで聞いたセリフだな」ニヤける上司に、

「真木野さんの受け売りです」大沢が頭を掻いた。

「そこまで言われちゃぁ行かないわけにはいかないな」下山が明らかに不機嫌そうにこっちを見ていた。

「いいか、断られたらきっぱり諦めて帰ってこいよ、いいな、わかったな?」

「はいはい」右手を上げて受け流す真木野に、

「はいは一回」下山は仏頂面で腕を組んでいた。ここでも以前大沢に言った言葉を言われた男は一人笑っていた。

車内で、「真木野さん、どうせ高瀬の家の前でさっきの課長みたいな顔してたんじゃないですか?」

「あんな顔するか」

「いいや、きっとしてたんです。おまえが佐久亜紗美を殺した犯人なんだろって感じで立ってたんじゃないですか?」

「そんなことはない」言ったあとで真木野は自分の中で答えを探した。そして確かにそんな気持ちだったと気が付いた。

「そんな人だったら、僕でも貸しませんよ」

「だっておかしいだろ?息子の死の真相を知りたくないのか?誰に殺されたかはっきりさせたくはないのか?それとも調べられちゃ不味いことでもあるのか?」

「そこまではわかりませんけど、高瀬孝次郎を殺したか、あるいは死に追いやったのが速川征太だとしても、母親はその事実を知らないかもしれないんです。そうすると、もしかしたらあの日の悪夢がまた起こるんじゃないかと不安になるんじゃないですか?事件の被害者の遺族は、加害者以上に死んだ人間以上に苦しむんです。心のケアが必要なんです。誰かに優しくして欲しいんです」

「大沢?」

「すいません。また生意気言っちゃいました」

「いつからそんなに熱い男になった?」

「茶化さないでください」そのあとはハンドルの握る大沢が前を真っ直ぐ見ていたから、真木野は見慣れた景色を満喫した。そんな真木野の携帯が震えた。すぐに出ると、

「もう分かったのか?」相手は受話器から漏れた声で林だと分かった。

「はい。わかりました。結構最近だったんで助かりました」

「やはり送っていたか?」

「中身まではわからなかったのですが、半年前、確かに郵便局から送っています」

「そうか」

「はい」上司の声が大きく張り上がったことで林の声も一段と音量を増していた。携帯電話を迷惑そうに耳から少し離した真木野が、

「御苦労さん」その一言で林の苦労は一気に吹っ飛んだ。

「どういうことですかね?」電話を切った真木野に、大沢がすぐに食い付いた。

「速川は何を考えてんだ?」掴めない男に真木野が苛立った。

「あの体操着袋を被害者の遺族である高瀬咲枝に送ってしまうと、十二年前の真実が明かされるかもしれないのに、どうして彼はそれを送ったんだ?」二人頭がグチャグチャなまま、車は目的地に着いた。時刻は五時近かった。

辿り着いた高瀬邸のインターフォンを、今度は躊躇することを知らない大沢が押した。

「いい加減にしてください」インターフォン越しに高瀬咲枝の声がした。

「帰って下さい」門前払いで終わらせようとしていた。

しかし大沢は怯まずに、

「でしたら、玄関前で待たせて頂きます」

「ふざけないでください」

「ふざけてなどいません」

「何時間いようが私の気が変わることはありませんから」

「それでも待たせて頂きます。高瀬さんの気が変わるまで、何時までも待たせて頂きます」

「だから変わらないって言っているでしょ」インターフォン越しに咲枝は声を張り上げた。

「それでも結構です。我々はただ只管待ちます」しかし大沢も冷静な対応の中に熱いモノを漲らせていた。

「勝手にしてください」

日差しが幾ばくか弱まったが西日は二人の全身を必要以上に温めた。二人が玄関前に居座ってから一時間ほど経過したとき、真木野の携帯が震えた。彼はその場を外し携帯に出た。

「もしもし」相手は林だった。

「どうした?」

「佐久亜紗美が所持していたインターネット上にあったメモ」

「それがどうした?」

「それをネット上に載せた人間がわかったんです」林は興奮していた。

「本当か?」だから真木野も幾分早口になった。

「はい。それも相手は何と」勿体ぶる林に、

「高瀬咲枝か?」

「残念ながら違います」

「違う、じゃあ誰なんだ?」真木野の声が上ずった。

「相手は高瀬孝次郎や佐久亜紗美と同じ高校の同級生、高田和夫です」

「高田和夫?」全くノーマークだった人物の名前が出たことで、真木野は面食らっていた。

「そいつは今どこにいるんだ?」

「市内の病院に入院中です」

「入院中?」

「今からその男に会いに行ってきます」

「大丈夫か?」

「大丈夫ですよ。僕だって真木野さんに鍛えられた一人ですから」受話器越しにニヤける林を想像し真木野は歯茎を見せた。

「頼んだぞ」

「わかりました」電話を切ると、すぐに箱芝に連絡をした。

「もしもし真木野さんか。林君が突き止めたんです。いやー先越されちゃいました。彼、真木野さんに認められたくて必死なんでしょうね」箱芝の声は悔しさよりも嬉しそうな感じを漂わせていた。電話を切ると、部下の元に戻るなりそのことを伝えた。

「マジですか?ということは、高瀬咲枝は限りなくシロに近いじゃないですか?」

「そうとも限らん。高田は入院してはいるが様態がどんなかまではまだわからん。今、林が会いに行っているが、志が一緒なら共犯ということだって考えられる。佐久亜紗美や速川征太たちと同じ年なんだ。その可能性は十分ある」

「そうですね。今は林さんの連絡を待つしかないですね。僕らも絶対に体操着袋持ち帰りましょう」

「ああ」大沢の姿勢が、心なしか胸を張って自信に満ちたモノに変わった。知らない間に部下たちがここまで成長していたことが嬉しいようなうかうかしていられないような複雑な思いだったが、不思議と笑みが毀れる自分がいることに真木野は驚いていた。西日がたいぶ弱まった午後七時ごろ、東の空に嫌な雲が蔓延り始めた。

「一雨降りそうだな」真木野が空をじろりと見た。

「天気予報ではそんなこと言ってなかったんですがね」当惑した大沢。

「この時期は仕方がないんだろう」

そんな中和馬が二人を睨みつけながら帰宅した。玄関の扉を開けるなり、二人に聞こえるように、

「あいつら何してんの?」咲枝の返答は外には聞こえて来なかった。

「長丁場になりそうですね」胸を張り続ける大沢がボヤいた。

「そうだな」目は合わすことなく二人はそこに立ち続けた。


4日目・高田の話

「続いては三日前に起きました女性の飛び降り事件の続報です。昨日、横浜市中区にある公園内で、人間の耳辺りが落ちていたのを散歩中の男性が見つけたと警察に連絡が入りました。調べた結果、見つかった左耳は佐久亜紗美さんのモノであることが判明しました。また今回見つかった遺体の一部が人為的に切り取られていた箇所があったことで警察は他殺も視野に入れ大勢の捜査員を使い左耳が見つかった公園近辺の捜索を始めました」

市内の病院では、夕飯後のまどろみの時間に高田和夫は病室のベッドの上にテレビを置いたまま、スイッチを点けたり消したりを繰り返した。

「彼女殺されたんだな」相変わらずの連治の言葉は、高田にとっては不謹慎にも感じた。

「そうですね」それでも今日は普通の会話を心掛けることにした。寧ろそう出来る日だった。

「犯人も、兄ちゃんの知っている人間なのかな?」

「さぁ?」

「だよな。わかるわけないよな。殺人なんてバッタリ起こしちまうもんだ」自らの言葉にうんうん頷く男を、高田はその瞬間から警戒した。

その頃、下山は電話越しに頭を下げ続けていた。それは苦情、いい加減にしてくれという近所の苦情。しかし彼はただひたすら謝り続けるだけだった。


4日目・林の話

同じ頃、林は病院に来ていた。

「この部屋の、左手前の男性です」事務員に案内され、高田がいる病室前までやって来た。少し緊張した面持ちで彼は病室を覗いた。ベッドは四つ、市が経営する昔からある総合病院。林が子供の頃から既にあったせいだろうか、少しばかり古めかしさを感じた。そしていよいよ高田と対面するときがやって来た。入るなり事務員の言葉を思い出し左手前のベッドを覗いたが、薄い黄色のカーテンが引かれていて、中を窺い知ることは出来なかった。

「高田さん」林は少し上擦った声で男を呼んだ。もしかしたらこの中に居るだろう男が、あのギョッとする殺人事件を犯した犯人かもしれないと考えていたせいだろう。中から返事はなかった。仕方なくもう一度呼んだが、やはり応答はない。カーテンを開けようと右手でそれに触れたが、声が上擦った同様の理由でそれ以上出来なかった。

「高田君、誰か来たよ」代わりに窓側のベッドに座っていた男性が声を掛けてくれた。優しい人だと印象を持ってしまったばかりに、林の方に顔を向けた窓側の男性に思はず悶絶してしまった。余りに想像と掛け離れていたからに他ならない。

「ガラガラ……」そうこうしている内にやっとカーテンが開き、ベッドに座っている高田和夫らしき人物と対面した。そこにいたのは決して喧嘩が強くはなさそうな白い肌の男だった。ただ防犯カメラに映っていた映像の男に見えなくもなかった。ベッドに取り付けられた名前を確認した。男は眼鏡を掛けていた。強面には見えなかったことで幾分ホッとした林が、

「突然すいません」そう切り出して手帳を翳した。それに一早く反応したのは窓側の強面の男性だった。気配では気が付いていても、その方に目を向けることは出来なかった。絶対に凄い形相をしていることを林の肌が教えてくれたのだ。

「向こう行って話しましょう」か細い声で反応した高田のあとに林は続いた。病室を出るまで背中には男性の頑強な眼が刺さっていた。決して大きくはない背中を丸めてゆっくりと歩く高田の後ろ姿を林はジッと見ながら廊下を歩き階段を下った。

「ここで話しましょう」高田の声にハッとなり辺りを見渡したそこは待合室だった。

高田は長椅子に腰を下ろすと、「警察が僕に何の用ですか?」淡々としていた。結局この男も取っ付きづらそうだと、林はため息が漏れそうになった。

「先日、高田さんの高校時代の友人が亡くなられたことはご存知ですか?」

「知らない」高田の返しは早かった。

「佐久亜紗美さんという方がビルの屋上から飛び降りたんですが」

「あー聞きたくない」先程までの蚊の鳴くような声が一転、奇声を上げ彼は耳を塞いだ。

「高田さん、落ち着いて下さい」林が宥めようと、彼の肩に手を回した瞬間、

「触るな」そのときの目がその筋の人のモノよりも凄かったから、林はすぐに手を離した。近くを通り過ぎる人たちはいちいち振り返り、二人を傍観した。

「彼女は殺されたんだ。速川に殺されたんだ」知らないと言い切った男が、今度は事件の核心に迫る発言をした。

「速川って速川征太のことですか?」自然と口が早くなる林。

「そうだよ。あいつが亜紗美を殺したんだ。孝次郎と同じ手口で殺したんだ。でも僕はずっとわかっていたんだ。孝次郎が殺されたときにわかったんだ。あの男が次に狙うのは亜紗美だって。ずっとずっとわかっていたはずなのに、どうすることも出来なかったんだ。ア゛ーッ」高田は突然奇声を発すると、待合室の長椅子の上に体育座りをして、膝の間に顔を埋めて泣き出した。それは子供のようだった。余りにもコンパクトに折りたたまれた印象を与えたから。

「もういい?もう何も話すことなんかないよ」奇声から一転小声でそう漏らした高田に、林は困惑した。

「もう少しだけ話を聞かせて下さい」返答はなかった。それでも林は続けた。

「君はインターネット上に高瀬君の日記を載せているよね」タメ口の方がスムーズに話しが進む気がしたのに、ギョロッと睨まれ、

「あの日記は本当に高瀬君が書いたモノですか?」敬語にさっと切り替えた自分は本当に小さいと痛感してしまった。

「そうだよ」

「でも最後の一枚だけはあなたが書き加えているけど、それはどうしてですか?」

「もう書けないからだよ。孝次郎は殺されちゃったから、征太の怖さをもう伝えることが出来ない。自分が殺されたことも誰にも伝えることが出来ないんだ。だから、だから替わりに僕が書いたんだよ。孝次郎の思いを代弁したんだよ。悪い、それが悪いこと?人殺しよりも悪いこと?」

「そんなことはないよ」

「じゃあどうして、どうしてあの殺人鬼は今もシャバでノウノウと息してんのさ?何でとっ捕まえて殺さないんだよ?だから亜紗美は殺されちまったんだろうが」並んで座っていた林の顔に、大量の唾が降り掛けられた。そのときの高田和夫の体は大きく感じた。それは胸ぐらを掴み、全身で林の上に乗り掛かっていたから。それでも林は屈しなかった。胸ぐらは掴まれたまま、周りの人に白い目で見られながら、顔に大量の唾が掛かったままでも、それでも林は体を前に出した。

「どうして、どうして速川が犯人だと言い切れるんです?十二年前、高瀬君を殺したのが速川だっていう証拠はあるのか?」

「だから僕が書いたんだよ。あのメッセージは孝次郎の替わりに僕が書いたんだよ」

「答えになってないよ」スッと息苦しくなくなった。気が付けば高田はきちんと椅子に座っていた。「あはははっ」突然笑い出す高田。

「あんた、ちゃんと孝次郎の心のノート見たのか?あれ読めば速川以外犯人考えられないだろ。じっくり読めば、次のターゲットが亜紗美だってことも察すること出来るだろ。あんたホントに刑事かよ?」

「読んだよ。確かに高瀬君は速川の嫌がらせに悩んでいた。でもだからって殺されるとは本人も考えていなかったはずだ。それに佐久さんのことも書いてはあったが、高瀬君の前から去ろうとしている佐久さんに対するメッセージしか書かれていなかった。それのどこに速川が高瀬君を殺し、尚且つ佐久さんまで殺した証拠になるのさ?わかんないよ。それだけじゃわかんないよ」気が付けば林の方が取り乱していた。

「そうやってみんな僕を責めるんだ。だったらおまえが助ければよかっただろって言うんだ。でも僕には無理なんだ。あの男には勝てないんだよ」再び小鹿のような華奢な体で訴えてきた。そのあと暫くは一点を見詰めたまま体育座りをしていた高田が、

「そうだ、いいこと教えてあげる。孝次郎の母親と速川の間にはとんでもない秘密があるんだよ」クリーム色が幾分黒ずんだ床を、含み笑いを浮かべながら見ていた。

「どんな秘密?」しかしそれ以降は口を噤んだっきり、事件について何も話そうとはしなかった。高瀬咲枝と最近会ったかと聞いても答えはなかった。ただ早く病室に戻りたいの一点張りだった。その光景に近くにいた看護師が割って入った。

「もうこのぐらいにしてあげて下さい。高田さんは病人なんです。だからここに入院しているんです」看護師の目が、待合室にいた人々の目が、痛かった。自分だけが悪者だと言われているようだった。これ以上は無理だろうと諦め、高田を病室へと帰した。そのあと高田和夫の担当医やナースステーションにいた看護師からも無理矢理話を聞き出した。

雨は一気に降り出した。依然立ったままの真木野のびしょびしょのスーツの内ポケットで震えが起こった。生活防水程度はあるのだろう携帯電話に感服しながらその場を離れ、すぐに着信ボタンを押した。

「もしもし林です」

「どうだった?」雨音に負けないよう少し声を張り上げた。

「大変でした。でもそっちも大変そうですね」

気遣いなのか、同情なのかはわからないし、どうでもよかった真木野が、「で、高田和夫とかいう男はどんなだった?」先を急がせた。

「やせ形で小さい印象を持ちましたが、精神的に病んでいるらしく話の途中途中で急に奇声を発する始末でした」

「大変だったな。それでわかったことは?」

「まずネット上のメモの件ですが、あれは高瀬孝次郎が生前書いたモノをやはり彼が流したと認めました。最後の1ページ、つまり被害者が持っていた部分は彼が書き加えたものだそうです。しかしそれを彼女に見せたかは聞き出すことが出来ませんでした。何故あの言葉を加えたんだという問いには、高瀬孝次郎が書くことが出来ない思いを代弁したんだと言ってました」

「そうか」

「あと思い込みの部分が強いと思うんですが、第一声が犯人は速川征太だと言い出し、最後までそれを言い続けてました。ただ途中の受け答えがチンプンカンプンでした。それと最後に高瀬咲枝と速川征太の過去には凄い秘密があると言っていましたが、それもそれ以上は話してはくれませんでした」

「速川を犯人にしたいわけか。二人の間の秘密って何だ……それと彼は何故入院しているんだ?」

「1週間前に突然倒れて入院しているそうです。医者も体で悪いところはないから、精神的なもんだろうと言ってました。入院は本人の意志だそうです」

「妙だな」

「それと気になることが一つありました」真木野は今頃、電話越しに林の顎が上がっていることを想像し、真面目な話の途中だというのに口元を緩めてしまった。顎を目一杯に上げた林は、掴んだ情報をすべて真木野に伝えた。

「看護師の話では、事件があった六月二日の午前九時過ぎに注射を打とうとベッドを覗いたらしいんですが、高田はいなかったそうです。しかし体が悪いわけではないですし、稀にあることだからと強いて気にも留めていなかったみたいで、いつ頃戻って来たかまでは分かりませんでした」

「その病院から現場まで歩いてどの位だ?」

「歩きましたよ。丁度十五分です」

「林はメタボ気味だから、十分ぐらいで歩けるわけか」

「酷いな。頑張ったんですよ」

「そうかそうか、ごめん。お疲れ様」電話を切った林は病院から外に出ると、持参したビニール傘を差し清々しい思いで真っ黒な雨雲を見上げた。


4日目・再び大沢の話

電話を切って戻りながら十メートルほど先に居るはずの大沢の姿を探した。数分前に降り出した雨は一段と強さを増し豪雨となって二人に襲い掛かって来た。目の前まで戻ってやっとずぶ濡れの部下の姿を確認できるほどだった。黒い雲の間では閃光が走り、「ゴゴッゴゴゴッゴローン!」地面を打ち砕いた。それでも大沢は微動だにせず直立を貫いていた。腕時計を見ると、針は九時を指していた。体の節々に痛みを感じたが部下の頑張りに弱音など吐けないと考え、大沢の横に並ぶと重たくなった全身に力を込めた。その隣で雷が二人を飲み込もうとゴロゴロと喚き、地面を叩いた。怯まない大沢に上司が左の頬を吊りあげ、雨風に打たれ続けた。

それからどれ程の時間が流れたのか、雷は遠くで轟いていた。何時しか豪雨は小雨になっていた。それでも風だけは容赦なく、ずぶ濡れの薄手のジャケットをビュンビュンと通過し二人の体温を下げ続けた。

「大丈夫か?」何時間ぶりに声を掛けたが、

「大丈夫です」大沢は全く屈していなかった。再び全身に力を込めようと力むのだが、すでに限界らしく全く力が入らなかった。鳥肌が蔓延り上唇がガクガク震え止められなかった。

「真木野さんこそ大丈夫ですか?」

「へっちゃらだよ」

そう返しても、限界だった。もう駄目だ……そのときだった。突如温かいぬくもりと木漏れ日のような灯りが降り注いだ。天国か?おまえが行くのは地獄に決まっているだろ。誰かわからない声にハッとなり眼をこじ開けた。温かなぬくもりだと感じたのは、高瀬咲枝が玄関を開けてくれたからだった。彼女は感激した表情で大沢に近づいて行った。「あなたなら信じます。私たちの苦しみを分かってくれると信じることが出来ます。息子の、息子の思いを酌んでやってください」咲枝は真木野ではなく、大沢の腕を掴むと泣きながら笑った。

「あなた一人で来たときはどうしても信じることが出来なかった」チラッとだけ真木野に目をやったが、

「でもお二人とも真実を暴く為にここまでして貰って、あの子も救われます。本当にありがとう。こんな辛いことをさせてしまって、本当にごめんなさい」最後は大泣きで、大沢の冷え切った手を掴んでしゃがみ込んでしまった。そしてとうとう渡すことを決意した咲枝が、家の中からビニール袋に入れられたあの体操着袋を、大事そうに運んできた。それは十二年前に警察から引き渡された状態そのままだった。彼女は大沢に手渡すと、すぐに家へと戻り温かいコーヒーを二人に手渡してくれた。それは冷え切った手に顔に体に沁み渡る味がした。玄関から和馬もこちらを気に掛けていた。思わず出た大沢のガッツポーズに、ハニかんだ笑顔で彼は応えた。

高瀬家の人間に別れを告げ、彼らは車に乗り込んだ。時刻は夜十一時を回っていた。運転中は真木野が体育着袋を抱えた。

帰りの車内で、「何で酌むなんですかね?」ヘッと顔に描いた上司に、

「さっき、高瀬咲枝が体操着袋を返す時に言ったじゃないですか、息子の思いを酌んでやってくれって」それがどうしたと口にはしなくても上司が顔でまた会話をしてきた。

「いや、何でもないです」大沢が諦めた会話のあとは車内に無言の時だけが流れた。

今回においては刑事の勘やヒラメキなどは全く通用しなかった。ただ忍耐と相手を思う気持ちだけで勝ち取った境地に、真木野は浸っていた。


4日目・まとめの話

署に戻ると、三沢が宮部が下山がそして林がタオルを持って出迎えてくれた。

「よくやった」下山から出た言葉に、大沢が思はず涙ぐんだ。予想外の天気が彼らを追い込むと同時に救ってくれたんだと真木野は感じた。困難を耐え抜いたことで被害者の思いに打ち勝ったのだ。

そのあと皆が今日の成果を報告した。

「今日の速川はいつも通り出勤し帰宅しました。昼間に宅急便が来ましたが、勿論不在でしたから不在票を入れて宅配業者は荷物を持ち帰りました。夕方五時に帰宅した速川がその不在票をポストから見付けると、家に入ることなく50CCバイクで五キロ程の距離にある宅配業者の集積場まで取りに行ってました。あとは家に戻り、その後の外出はありません」宮部は最初に報告をした。

「わざわざか?」

「はい」

「何故昨日は帰宅して取りに行かなかったんだ?」

「あれっ?真木野さん不在票ちゃんとポストに戻しました?」

「戻したかな?」その会話に聞き耳を立てている男がいた。

「まだ何の証拠も上がっていなのに、勝手に人の家のポストを覗いた上に、あろうことかそれを持ち帰っただと?」下山だった。

「おまえが余計なことを言うから」勿論そのあと二人はこっ酷く絞り上げられた。次に大沢が報告をした。

「現場近くのタバコ屋の防犯カメラを見せて頂いたところ、犯人と思しき男の映像が写っていました。男は年齢が二十代後半から三十代。テレビ局に送られてきた彼女の飛び降り映像のビデオテープの差出人欄に書かれていた人物の証言と一致します」

「つまり犯人は二十代後半から三十代の男ということか?」

「確かにそうなりますが、共犯という線もあります」下山の発言に真木野が付随させた。そして林が報告を始めた。

「半年前、速川征太から高瀬咲枝の下に郵便物が届けられていたことを掴みました。中身まではわからなかったのですが、十二年前に本人に返したはずの証拠品である可能性が高いと思います」

「やっぱり、速川に返したよな」自分の正当性をアピールしたかったのか三橋が確認するように言っていた。林は笑顔で真木野の方に目を向けたが、彼に表情はなかった。一度下を向いた林が報告の続きを伝えた。

「それと私は今日、高田和夫に会ってきました。私との会話中、もしかしたら自分を精神異常者に見せたいのか、もしくは防衛本能からそうなってしまったのかはかわかりませんが、何度か奇声を発したりしていました。そんな男の話ですからすべてを鵜呑みには出来ませんが、高瀬孝次郎が書き残したノートをネット上に載せたのが自分であることは認めていました。そして佐久亜紗美のゴミ箱から見つかったあの一文ですが、高瀬孝次郎のノートに彼が書き足したことも奇声は発しながらも認めました。あと高瀬咲枝と速川の過去には凄い秘密があると言っていましたが、それ以上は何も話してくれませんでした。一貫して叫んでいたのが、犯人は速川征太だということです」

そして最後に大沢が推論を述べた。

「十二年前の事件と今回の事件が同一犯なら、今回の事件は大胆な隠ぺいだと考えます。十二年前同様、自殺を演出したのかもしれませんから」

「十二年前も自殺で処理されているからな。となると犯人は速川か」下山が怪訝な顔をした。

「舐められたもんだな」三橋がほぞを噛んだ。

「十二年前と同じ殺し方をしているということから、当時の事件を思い出させる為だったと考えると、佐久亜紗美の事件は、十二年前の事件に対する仕返しとも取れます」尚も推論を繰り広げた大沢の発言に今度は下山が頷いた。

「高瀬咲枝が自らの苦しみを、十二年前の犯人に分からせる為に、佐久亜紗美を殺したという考えだったな」

「そうです。だから犯人は、十二年前の速川の犯行を恨む人物。一人は孝次郎の母、高瀬咲枝。そしてネット上にあのノートと一文を載せた、高田和夫の共犯だとも考えられるわけです」横では真木野が全員を見下ろすような眼で腕組みをしていた。

しかし最後に下山が、

「いいか、今回の事件が十二年前の事件と関連性が高いからといって、十二年前、速川征太が高瀬孝次郎を虐めていた証拠はあっても、殺した決定的証拠はまだないんだ。捜査は絶対に決めつけて掛かるなよ」念を押したが、

「その答えも、あの体操着袋がきっと導き出してくれると思います」真木野の真っ直ぐな眼差しに、下山は言葉を失った。


4日目・再び高田の話

高田和夫の元に訪れた嫌な刑事との面会も終わり、彼は寝る準備を済ませた。

「俺は刑事が嫌いでな」消灯直後、境川連治が話し掛けてきた。高田から返答はなくても、彼は構わず続けた。

「俺こんな風貌だけど、ヤクザやってたんだ」

「見た目で分かります」流石に高田が突っ込みを入れた。

「そうか」それが嬉しかったのか、連治はハニカミ笑いをした。

「六年前、俺がお世話になった組長が殺された。誰がやったかはすぐに目星が付いた。その時期ある組と闘争中でな、やったのはその組の若頭だ。そこまでわかってんのに警察は相手の下っ端の組員一人を捕まえただけで事態を収めやがった。俺は悔しくてな、警察に怒鳴りこみに行ったよ。それで留置所にも入れられた。でも考えてみりゃ己で相手の組殴り込んで仕返しすりゃよかったんだ。でもその勇気がないばっかりにすべてを警察のせいにした。ただ自分の肝っ玉の小ささを棚に上げて吠えていただけなんだ。それを認めるのが怖くてな、今でもわかっちゃいながら警察見ると睨んじまう。全くどうしようもない腰抜けだよな」連治が何故そんな話を自分にするのか疑問だった。

「だから両手の小指と引き換えに組辞めたんだ」しんみりした空気に、

「後悔してます?」高田が疑問をぶつけた。

「後悔?組を辞めたことをか?」

「違いますよ。仕返しをしなかったことをです」

「後悔はしている。でも正直わかんないんだ。もし今同じ立場に立たされたら果たして仕返しに行く度胸があるのか」少しの間、静かな時間が流れた。

「多分ないな。それじゃなかったら組を辞めてない」

「そうですね」高田和夫の一言に境川連治は口をへの字に曲げそれ以上何も話さなかった。高田は上を見上げた。焦点の定まらない目は、ベッドと天井の間にある宇宙を見ていた。



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