青波の魔女と名無しの使い魔

只ノ一一

第000話 はじまりの話。

 「魔女」ということばは、「女の魔力持ち」だけを意味するものではない。女も男も、あるいはそれ以外であっても、大方の魔力持ちをひっくるめて呼びならわすのが、そのことばの本来の意味である。

 けれども現在、和語文化圏に暮らす人びとの多くが、「魔女」と聞くと、女の魔力持ちのみを想像するようである。とはいえ実際には、「魔女」人口の約半分は、男の魔力持ちも含んでいる。更に言えば、半陰陽インターセクシュアルや性自認の揺れるトランスジェンダーといった人びとや、それから……つまりは男性女性といった区分の問題ではなく、魔力が行使できる「人間」であれば、誰もが「魔女」に含まれることとなる。

 そんな理由もあってのことか、現在のところ、「魔女」ということばのほかに、この「魔力持ち」という呼称の方も、日常的な言い回しとして定着している。


 魔女、もとい魔力持ちとはいっても、魔力無しとの差異は小さく、所詮は同じ人類でしかない。その生物学的な事実は、古から現在に至るまで、科学的見地をはじめあらゆる角度から幾度となく証明がなされてきた。

 このような事実がありながらも、魔力持ちと魔力無し、その諍いの歴史は古い。

 ちなみにここ和国においてその諍いが激化したのは、明治維新からのこと。それまで棲み分けと小競り合いで折り合いをつけてきていた両者の関係が、この150年程の間に徐々に悪化していったのだ。それらはやがて、人口の多数を占める魔力無しによる、少数者、魔力持ちへの「狩り」の様相を呈していった。

 この「魔女狩り」が和国において正式に終結したのは、21世紀に入ってから更に年月を経てのこと。まだ、たった9年前のことに過ぎない――

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