第7話

 一人、また一人と俺は密売人を潰していく。


 疲れに疲れた結果、もうどうでもよくなりつつあるけれど、やらないといけないという使命感に駆られて俺はリストにある密売人を潰し、岩浦五十海を捜している。


 また一人、密売人を見つけて斬れば「岩浦五十海はどこにいる?」と訊くけど、やっぱり「知らない」と言われる。


「知らないはずはないだろう」と言ってみるけど、やっぱり「知らない」と言われる。


 みんなみんな、五十海のことを知らない。岩浦五十海なんて言う人は存在しないのではないかと思ってくるくらい。


 昨日も今日も明日も。


 俺は密売人を斬るのだ。


 血の匂いが鼻にこびり付いて離れない。赤い鮮血の光景が俺の頭から離れない。肉を裂く感覚がいつまでも俺の手に残っている。


《デウス》が吸いたいと俺の心が叫んでいる。しかし手元に《デウス》はなく、俺はひたすらに苦しいのだ。


 狂いそうになるのだ。いや、すでに狂っているのかもしれない。


 俺の監視役である天之原奈月は俺の様子を見て「大丈夫?」と訊いてくる。


 大丈夫なわけないだろって俺は言うんだけど、言ったところでどうにかなるものでもない。


 だけど、心配してくれるだけ嬉しいというものか。


 密売人を俺一人で潰して回っていたら、俺は狂い死んでいたかもしれない。


 こうやって思考できる力があるだけ、俺はまだ狂っていないのだろう。


 早く終わらせよう。早く終わらせたい。


 次のターゲットは、船沢ふなざわ遊馬あすまという男子だった。

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