第6話

 朝が来て、俺は起きるのだけど疲れは取れず身体は怠いばかりだった。


 朝食は進まず、結局残す始末だったし、いくら顔を洗っても気分がスッキリすることはなかった。


 朝の十時になり、そろそろ出かけようと思い、自室を出る。


 施設を出ればやはり天之原がいた。


「お前、何時から俺のこと待ってたの?」


「今来たところだよ」


「デートのお約束みたいな言葉を言われても、残念ながらこれはデートじゃない」


「残念って思ってくれるんだね」


「言い間違えた。残念なんて思ってない」


「素直になってもいいんだよ?」


「うるさい。とにかく行くぞ」


 言って、俺は歩き出す。


「今日は何人潰すの?」


「潰せるだけ潰す」


 俺はリストを取り出して、それを見る。


 密売人の見つけ方としては顧客を見張って、顧客が密売人と接触した瞬間を押さえるというやり方でいく。


「密売人の名前は……多々良たたらたつき。顧客は、紙屋かみや道登みちと


 まずはこいつらだ。


 いつもの算段通り、顧客である紙屋道登を張る。


 彼の場合、よくゲームセンターにいると言うことなのでそのゲームセンターへ向かった。


 そして見つける。


 格ゲーの筐体がある一角で、格ゲーに励んでいた。どうせなので、対面の筐体に座り、紙屋と対戦をする。


 でも、俺は普段から格ゲーをする人間ではない。


 だから、負けるのだ。


 勝てないのだ。


 ディスプレイには『KO』と『You Lose』の文字が映るばかりである。


「よわ」と天之原が嘲笑する。「チェンジだね」


 天之原が今度は対戦をする。


 でも、ディスプレイには『You Lose』の文字。


「弱いのはお前も同じだな」


 言えば、天之原は頬を膨らませて、俺の肩を軽く叩いた。


 ゲームに飽きたのか、紙屋が席を立つ。そのとき、俺たちのことを彼は見たのだけど、彼は鼻で笑ってその場を去った。


「不愉快だ」と独りごちるが、ゲームに負けたくらいでムカつく俺も大人げないというものか。


「追わなくていいの?」


 俺の耳元で天之原が言って、俺たちも席を立ちゲーセンを去り、紙屋を尾行する。


 ゲーセンを出た紙屋は、周りを見回しながら歩いていて誰かを捜している様子だった。


 しばし尾行すればM区画を離れ、人通りが少なくなる。店も少なくなり、その数少ない店もアウトローな雰囲気を醸し出している。


 人通りが少なくなると尾行が難しくなる。あからさまな尾行をするわけにはいかないので、他人のふりをしなくては。


 俺たちは適当な店を見つけ、そこで立ち止まりウインドウを見る。その店は洋服店だったので、俺たちは服を見るふりをして、紙屋の動向を窺う。


 俺はふと紙屋の前方からやってくる一人の男に目が行った。


 そいつの顔はリストにあったその顔だ。


 多々良樹。


 紙屋道登に《デウス》を売っている密売人。


 多々良と紙屋はすれ違う。そのすれ違いざまに、何かの物を取り交わしたのを俺は見た。


 俺は動く。


 潰すのは密売人だ。


 尾行は終了。俺はギターケースから刀を取り出して、多々良に迫る。彼の背後から斬りかかる。


 多々良が俺に気付くよりも速く、俺は刀を振った。俺の振った刀は多々良の背中を斬る。背中に一線の刀傷。鮮血が飛んだ。


「がぁっ」


 斬られた多々良はのた打ち回る。


 俺はのた打ち回る多々良に対し、次の攻撃を加える。彼の右の肩に刀を突き刺した。


「ぐぅう!」と呻くのは多々良。


「質問に答えろ」と俺は端的に言う。


「お前は、誰、だ?」


「質問するのは俺だ。お前は答えるだけでいい」


 俺はそう言って、右肩に突き刺した刀をぐりぐりした。


 紙屋もこちらに気付いている。しかし、だからと言って彼がこちらへやってくることはなく、ただ逃げ去るだけだった。俺は追わない。用があるのは多々良だ。


「岩浦五十海はどこにいる?」


「知るか」


 と、多々良は言って唾を吐く。


「本当のことを言ったら逃がしてやる」


「ホントに知らない!」


「じゃあ殺す」


「なんで!?」


「岩浦五十海の居場所を教えろ。お前ら密売人の元締めだろ」


「お、俺は下っ端なんだ。岩浦五十海なんて人のことは知らないし、そいつが元締めってことも今知った」


「わかった。なら、お前の上を教えろ。お前は誰から《デウス》を貰った?」


「名前なんて知らない」


「上司の名前も知らないってか?」


「そ、そうだっ」


 本当に知らないと言うのだろうか。これだけ訊いても口を割らないってことはそうなのかもしれない。


 知らないのなら用はない。


 俺は体調が悪いから、無駄な時間は使いたくない。だから、こいつが知らないと言うのなら話はこれまで。


「わかったよ」


 言って、俺は多々良の右肩に突き刺していた刀を抜く。


「じゃ、死んで」


 抜いてすぐに刀を振って、俺は多々良の喉元を斬った。


 血が出て血に溺れ、ごぼごぼと苦しむよう様子を多々良は見せる。しばらく苦しみ、そして動きは鈍くなり、仕舞いには動かなくなった。


 動かなくなった多々良に興味はないので、俺は次に始末する密売人を捜しに行く。


 歩く足はふらついているけれど、俺は気にせず歩いた。気分は悪いが、気にしたところで仕方ない。


 俺の隣を歩く天之原は心配そうな顔で俺のことを見ているけど、どうせ自業自得だとかって思っているんだろう。


 事実、自業自得なのだ。こんなことになったのは俺が悪い。


 何のためにこんなことをしているのか、わからなくなってきている感があるけど、俺は俺の罪を清算するために、リストにある密売人を潰して回って、岩浦五十海を見つけ出すのだ。 

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