SAVANT-サヴァン-

川越 駿光

ある科学者の手記

これを進化と言うのであれば、我々人類は数千年と足踏みを繰り返していたに過ぎない。

いや、むしろ我々はこの進化を拒み、隠蔽し続けたのだろう。

科学というベールの下に、無理やり彼らを押し込んで。

……皮肉なものだ。

人類の進化の象徴と言うべきものが、逆に抑止力となっていたなんて。

やはり博士は偉大だ。彼は正しかったのだ。

彼の論文は賞を総なめにするだろう。

だが、それは叶わない。

論文が発表される事はない。

なぜなら、今の人類では理解不能だからだ。

仕組みや理屈ではなく、その言葉の意味や目の前に起こる現実にさえ、人々は受け入れられないだろう。

それは、もはや科学の領域ではないのだから。


……生命の樹。

旧約聖書に出てくるセフィロトの樹。

博士があれをそう名付けた時、我々は気づいてしまったのだ。

いや、もっと早く気付くべきであったのだろう。


我々は、その領域まできてしまったのだと。



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