第21話「身も心も引かれ合う」

「あなたのこと、徹底的に観察して気づいたの。あなたにやたらくっついてくる人がいると思えば、反対にやたら反発している人もいる。それも、イマジネ能力の一環だったのね」


 ねとりの説明に、パコが詳しい説明を付け足す。

「アンタの能力は、対象に一定の性質を与える。そしてその与える性質とは、磁力でいうS極とN極みたいなもの? そうでしょ?」


「すごい、よくわかったね」と八木沼。

「ウィンクで相手に与える性質を変えられるんだよー」とインリは指を鳴らす。「右目を開けてる時は青のS極、左目を開けてる時は赤のN極って具合にねっ」


 これ以上隠す気はないのか、ペラペラと喋り出した。

「基本、おにいちゃんにはS極がセットされてて、おにいちゃんともっと仲良くなってほしい子にはN極をあげてるの! そうすることで、身体も心も惹かれあう形になるから。ただ、おにいちゃんに嫌なことする人には、S極をあげる。おにいちゃんとあなたたちはS極同士だから、何があっても攻撃は当たらないもんね、べーっ」


 八木沼が口を挟む。

「ただ、このままじゃ、こっちもおまえに手出しできない。だからボールを使ったんだ。投げたボールにはN極を与えた。S極のおまえに引かれるように」

「じゃあ俺にも、N極の女の子がくっついたりするのか?」

「聞きたいとこ、そこ!?」ねとりがツッコむ。


 八木沼は笑いながら頷いた。

「そうだよ、鬼姫さんじゃなく、他の女の子にも、勇気を持って近づけばよかったのに」

「能力名は『恋愛磁石』」インリが微笑む。「ボールにぶつかりそうになったから、一時的におにいちゃんをN極に変えたんだけど。そこを狙っていたとは、すごいすごいなのー」


 八木沼が少し距離を開ける。

「けど、もうチャンスはない。こっちは一定の距離を取りつつ、遠隔攻撃を繰り返すのみ。これ以上の勝負は無意味だ。痛いのが嫌なら、今のうちにギブアップを――」

 と、八木沼の後ろから、抱きつくように何者かが現れた。


「誰だ!?」

 それは、戦いの前に八木沼を尻に敷いていた女子生徒。続いて他にも数名の女子が現れた。

 彼女らの背中には、『思い通りに動け』の矢が刺さっていた。それは先ほどパコが放ったはずの矢。


「弾かれるのはわかってたよ」とパコ。「そうして一回視界の外に出た矢を、アンタは気にも留めない」

 たかしはほくそ笑む。

「だが、S極とN極が引きあうのであれば――S極のパコの矢は、N極の女に導かれるように当たる!」


 自分で触れられないなら、触れられる相手に任せばいい。

 それがたかしが考えに考え抜いた作戦だった。

「インリ! こいつらを止め――」

 八木沼の指示より前に、女の子は満面の笑みで、カバンから何かを取り出す。


 バチンという音とともに、八木沼の身体が跳ねた。

「ぐああああああああああああっ!」

 それは防犯用のスタンガンだった。気絶まではいかないが、身体をビクビクさせている。


 続いて、別の女子生徒が腹にパンチ。とどめの一撃に、さらに別の女子生徒が、竹刀で脳天に攻撃を加え、八木沼は完全に気を失った。


「おにいちゃ――」

 八木沼が意識を失うと同時に、インリの姿も消える。


 完全勝利。


 パコが矢を放った時点で勝負は決まっていたのだ。

「しかし、えぐいね……」とねとり。

「スタンガンってオッケーなの?(私も欲しい)」とパコ。

「いや、俺もまさかここまでとは……」

 最近の女子生徒は恐ろしい。変に尻タッチとかしないでよかった。


 たかしは倒れている八木沼に話しかける。

「おまえ言ってたよな、色々やってたのは、インリに巻き込まれたせいだって。けどそう言いつつ、やめさせる気もなかったんだろ? やるならやる、やらないならやらない。もっとハッキリさせればよかったんだ。傷つかずに美味しい思いをしたいという、おまえの欲が――」

 再びバチンという音と共に。

「ぐあああああ!」

 八木沼が女の子にスタンガンをくらわされていた。


「ちょ、止めて、止めて」たかしは、女の子からスタンガンを奪い取る。「今、良いこと言うところだから!」

 気を取り直して、改めて八木沼に語りかける。


「傷つかずに美味しい思いをしたいという、おまえの欲が敗因だ」

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「転生」「異世界」「最強」「ハーレム」なんかクソくらえだ! 岡田延髄 @enzui

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