《第8話》

誤解(1)


 メルがスコッティの居る執務室へと入る、そのほんの少し前のコトである……。


 その様子を見届けたベッティーを含む三人組は、メルが執務室内でスコッティオから叱られるのを、と密かにあとをつけ近づいていた。が、


「ちょっ! ちょっと見てよ、ベッティー!! このバスケットの中身!」

 笑いを堪えながら抜き足差し足で執務室へ向かっていたベッティーを、三人組みの中でも小柄な13歳のアビーが呼び止めていたのだ。

 そのアビーよりも一つ年上のベッティーとリップリの二人は、『何事だろう?』と思いながら不愉快げに、そのアビーが指を差すバスケットへと近づき、その中を覗き見て途端に驚く。


「――ちょっ!? これって!!」

「ねぇー! コレってかなり、凄くなあーい??」

 そのバスケットの中には、サンドイッチやお菓子が沢山入っていた。しかも驚くのはその中身で。メイドである三人が普段食べるコトの叶わない贅沢な食材が、惜しみなく、しかもふんだんに使われていた。

 ベッティーはそのバスケットの中身を見つめ、思わずゴクリ!と唾を飲み込んでしまう。


「私、ずっと見ていたんだけど……コレってさ。あのメルが、ここに置いて行ったんだよ! 

どう思う? ベッティー」

 実をいうと、メルが庭園に居たことを三人は知っていた。そして、そこでシャリルと一緒に居たコトも。

 そういえば……その時に、何かこういうモノをメルがシャリルから手渡されていたのをベッティーはふと思い出す。


「はあ~ん……なるほどねぇ~」

 要するに、シャリルがメルに手渡していたものがってことね? ベッティーはそう理解し、妬ましげな表情のあとニヤリと笑み、口を開いた。


「あの子だけ、コレを独りで食べるなんて。納得できる? 二人共!」

 リップリとアビーはそこで互いに顔を見合わせ、顔を左右に振り言った。

「できない!」

「そんなの許せる訳がないよ!」


「なら……コレをどうするか。もう決まったようなモノね?」

 ベッティーはそこで両腕を胸元で組み、満足気な表情を見せ『ふふん』と怪しげな笑みを浮かべた。



 ◇ ◇ ◇



「……あれ?」

 中央階段の近くにある花瓶置きの台座傍にバスケットを取りに行くと。しかしそこには、ある筈のバスケットがどこにも見当たらなかった。いくら周りを見渡しても、バスケットの姿形はどこにも見当たらない。


「おかしいな? ……確かココに、置いた筈なんだけど」

 わたしはそう言いながらも段々と不安になってきた。もしかすると自分の勘違いかも知れないから。でも、何度思い浮かべ返してみても、やはりココへ確かに置いた記憶が鮮明に甦ってくる。


「うん……ココへ置いたのは確かよ!」

 わたしは思案顔にそう言い。

「そして、そのあと……わたしはスコッティオさんに会いに行ったのよ。うん、間違いない! 確かにそうした筈!

……だけど、だったらどうしてココに無いのかな??」


 改めてその場所を見つめ直し、わたしは困り顔にため息をつく。

 近くの柱に軽く寄り掛かりながら思案し、しばらくの間わたしは考え続けていたけれど。何度思い返してみても、その結論に変わりはない。これ以上この場で考えていても無駄に思えたので、他の場所を探してみることに決めた。



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