マイリトルシスター(2)

「ん~」

僕は土曜午前十時の朝日を浴びながら伸びをする。

「おはよう、シエル」

そうして体を丸めて半目のままの妹、シエルの挨拶する。

「ふぁ~~~。おはよう、クダラ」

シエルは猫のように伸びをして、欠伸をしながら挨拶を返してくる。


僕はシエルを抱きしめて抱き枕にする。そうしてもう数時間眠る準備に入る。

シエルも僕の背中に腕を回し、お互いに抱きしめ合ってもうしばらくゴロゴロする。

これが、僕らの休日の朝だ。

いくら兄妹でもべたべたしすぎじゃないかと言われたこともあったけどこう返した。

問題ない。僕らは双子。二人で一人なのだから。

え、関係ないって?

やだなぁ、僕らは互いに恋焦がれているんだ。愛し合っているんだ。だから仕方ない。


たまに兄妹で恋愛なんておかしい何て言われる。

何を言っているのか僕にはわからない。同性間で恋愛をするんだから兄妹間で恋愛をしたっていいじゃないか。何が違うというんだい?

いや、まあ違うところはあるんだけど。多いんだけど。

倫理的に問題があるとか言ってくる奴もいる。 

倫理なんてものは時代と共に変わっていくものなのに。


兎にも角にも、ウサギにもツノにも、閑話休題。


おっと、シエルが目覚めたようだ。

「シエル?」

「ん、トイレ。少し、お腹もすいた」

シエルは眠たそうな目で言った。

「そっか。僕も少しお腹がすいたかな。アヒルご飯にしよう、今日は僕が作るよ」

「うん。クダラのご飯、美味しいから好き」

因みに、アヒルご飯というのは朝御飯と昼御飯の間の時間帯に食べるご飯だよ。

所謂、朝昼兼用ってところだね。決してアヒルを食べるってことじゃないからね。

はてさてさてはて。それじゃあさっそく作り始めますか。

何が良いだろうか。

僕は冷蔵庫の前で考えた。

寝起きでも食べやすい物で、ある程度量があるもの。

朝昼兼用であるため、この次のごはんは晩御飯だ。

ここはシンプルにトーストとベーコンエッグにしよう。

そう思い、僕は冷蔵庫から卵二個とベーコンの入った容器を取り出す。

フライパンをガスコンロの上に置き、弱火で温める。温めつつ油を敷く。

「ここで僕はオリーブオイル」

僕は朝のニュース番組の料理コーナーの人のセリフを真似しながら普通の油を入れる。


バッ!


振り向いたが誰もいなかった。

良かった、シエルに見られてなかった。

さすがに今のを見られていたら恥ずかしい。


フライパンを傾けて油を全体に広がらせる。

僕は手をかざして温まってきたことを確認し、ベーコンを一枚めくり、フライパンに敷く。

その隣にもう一枚敷く。

勿論菜箸で。

因みに、普段使っている方の箸は色違いの箸だけど、僕のよりシエルのやつの方が短い。

そして、それぞれの箸は二本合わせてハートマークになるような模様である。

所謂、夫婦箸というものだ。

ベーコンが焼けてきたので裏返す。少し焼いてから卵を投入する。

卵二つがうまくベーコンの上に乗ったのを確認し、蓋をする。

こうすると熱がこもるため早く火が通る。

僕はコンロの火を少し落として、トースターのコンセントを刺し、パンをセットする。パンのセットが終わるとコンロの火を一気にあげて数秒間焼き続け、戸籍そして火を止める。

蓋を開ければベーコンの臭いが鼻孔を擽る。

僕はヘラで卵の白身を切り分けて皿を用意する。

焼けた食パンを皿の上に載せて、それぞれの食パンの上にベーコンエッグを載せる。

さあ、完成だ。野菜はとらないのか、だって? 僕らは嫌いなんだよ。


さあ、そんなことより、リビングのソファでお腹を空かせているシエルの所へ運ぼう。

「ご飯だよ、シエル」

僕はそう言ってシエルの前とその対面側にお皿を置く。そうして僕はシエルの対面のソファに腰を下ろす。

それじゃあさっそく、僕が手を合わせるとシエルもちょこんと手を合わせる。可愛らしい。

「「いただます」」

二人そろって食べ始める。

シエルがモシャモシャとパンを食べている姿は小動物のようで可愛らしい。

僕がニコニコとしてシエルを見守っていると、シエルも僕の方を見つめてきた。おそらく僕が食べていないことを疑問に思ったのだろう。

「クダラ……食べないの?」

ほら当たり。

「んー、食べるよ~♪」

僕はそう言って食パンを手に取り、食べ始めた。

いやぁ、シエルと一緒に食べるご飯は無条件で美味しい。

「シエル、唇に卵ついてるよ」

「え? どこ?」

「反対だよ」

僕はそういうと卵をなめとった。

こうしていると僕がシエルと初めてキスをした時を思い出す。



あれは、僕らが小学六年生の頃――――


「おきて……。起きて……。おはよう、クダラ」

僕の上に股がって、起こしに来るのは僕の妹、シエルだ。腰まで伸びている後ろ髪は垂れて今は僕の体に乗っている。前髪は寝癖がハネてて可愛い。

「おはよう、シエル。今日もかわいいよ」

僕はシエルが好きだ。だから朝起きて最初に見るのはシエルの顔が良い。昨日シエルに冗談混じりでそう言ったら、さっそく実行してくれた。隣で寝ていたシエルは僕に覆いかぶさり、僕を起こすことで僕が朝起きて最初に見るのは汚い世界ではなく天使の様なシエルになる。いや、実際天使とシエルを比べたら俗物扱いされてしまう、天使が。

「しえるー」

僕は嬉しくてついシエルに抱き着く。そのまま転がり、上下逆転。

引き締まった足から続く細い腰。本気で抱きしめたら折れてしまいそうなウエスト。つつましやかな胸。

細い首に窺える白い肌。柔らかそうな唇、大きな目、綺麗な髪。どれを取っても完璧美少女のシエルにマウント状態で興奮し無い訳はなく僕は、

「シエル……」

白い腕の根元に手を伸ばす。

女の子特有の柔らかく暖かな感覚が僕の手を包み込む。僕も負けじと指を激しく動かす。そのたびにシエルは顔を赤くして悶え「くすぐったいよ、くだらぁ」と言いながら体をくねくねと動かす。

「可愛いよ、シエル」

僕は幾度目かのそれを言う。そのたびにシエルは息が荒れて行き、やがて――――

「も、もうだめ、やめ、」

と、降参する。

やはり、こそばゆさに耐えかねている時のシエルはかわいすぎて興奮する。

「はぁー。はぁー」

シエルは息を整えている。

「脇は弱いって言っているのにぃ」

「ゴメンゴメン、シエルが可愛すぎるからつい」

「もぉ……」

僕がシエルからどき、立ち上がるとシエルも服のしわを整えながら立ち上がる。

扉を開ければそこには父親と母親がいるが扉を開かなければここは僕たちだけの空間。僕とシエル以外誰もいない。

僕はシエルが好きだ。それが許されるのか、僕にはまだわからない。だけど、この思いは嘘じゃない。だから、僕はシエルとのこの空間を守るためなら何でもするし、この空間を害するというのなら全力で迎え打つと決めた。それが、誰であれ。

「好きだよ、シエル」

「くだら、私も、私も好き。大好き、クダラ」


―――いやはや、こういう空気だったら普通にキスしちゃうでしょ?。

その時に永遠の愛を誓ったしね。

まあ、キスして押し倒したところを起こしに来た母親に見られて、その日はどうなるかと思ったよ。


そういえば見られてから数日後の夜だったかな。

僕らが寝ている間に両親がそろって蒸発しちゃったんだ。

まあ、意外と何も思わなかったね。大変だったのはそれからだけど、シエルがそばにいたから頑張れた。

お金の増やし方の勉強とか、ばれない嘘のつき方とかの勉強を。

今では毎日が楽しいよ。



洗濯物がそろそろ乾し終るし、終わったらシエルといちゃいちゃしよう。そうともそれが良いと太郎さんも花子さんも言いました。なんてね。僕の友達に太郎も花子もいないけど。あ、でも知り合いに日本一有名な花子さんと一緒にご飯を食べている子がいたようないなかったような。まあいいや、今日はシエルの服でも買いに行こう。

「シエル、今日はデパートまで出向いて新しい服を買いに行こうか?」

僕はソファに座り、僕の方をずっと見ていたシエルに声をかける。

「うん。いこう」

「そうと決まれば準備。さぁシエル。脱いで脱いで」

僕はベランダとの仕切りの窓を閉めるてシエルの服に手をかける。

「もぅ…。クダラったら強引」

わざと色っぽく言うシエルはエロ可愛い。

「レッツ、ファッションショータイム」


何着か着せ替えた結果、厳正な独断で白いワンピースとスニーカーで決まり。

幼さを感じさせる細い膝周りから続く真っ白な太ももは、付け根に向かうまでのラインが美しく、膝上四十センチ程でスカートに隠れてしまっているが、それがまた想像力が仕事をさせられる。

「シエル、手出して」

ソファに座りこんでいるシエルに僕が言うとシエルは両方の掌でお皿を作り、僕の腰の前位で添える。


「ひゃっ」

可愛い声が出た

僕は勢いよくシエルの掌に一気に出す。

僕はシエルの掌に広がったその白い液体を細くて柔らかい腕に広げていく。それの独特な香りがシエルに染み渡る様に広がっていく。

僕が再びそれを取り出すと、シエルは最後の一滴まで絞り出すように指先で丁寧に試行錯誤する。やがて緊張が解けた様にそれから白い液が最後の一滴まで飛び出した。

勢いよく飛び出したそれはシエルの顔を受け皿にして、すこし赤く火照っているシエルの頬、顎を伝い、それが垂れ落ちる前にシエルは顔に塗りつける。

「じゃ、シエルは塗っておいてね。僕は捨ててくるから」

「うん」

「帰りに新しいのかわないとね、日焼け止めクリーム」



そんなこんなで、僕は日焼け止めクリームの容器をゴミ箱に入れて、服を着替える。

シエルが選んでくれた服だ。財布に二人分の保険書と福沢諭吉が十数人は入っていることを確認してポケットに入れる。

後はスマホ、そしてシエルとお揃いの指輪っと。




デパートに着くまでに電車で二駅。僕らは無事に洋服店に到着して、今はシエルの試着待ち。

まぁ、僕が選んだんだからシエルに似合わないわけがない。


少し時間がたってからシエルがゆっくりとカーテンを開いて中から出てくる。

ふわっとしたクリーム色のスカートと薄いオレンジがベースカラーで白い水玉模様のTシャツ、赤と青でコントラストの上着。

「…どう? クダラ?」

少し恥ずかしそうに聞いてくるシエルに僕は「うん。かわいいよ~」と即座に答えた。

もちろん抱き寄せながら。

やはり兄妹なんだからスキンシップは大事。最近の兄妹はスキンシップが足りないと思うんだよ。

「えへへ~」

照れるシエルもかわいい。

「シエル」

僕は呼び掛けながらシエルの青色の髪を撫でる。地毛は白色だけど、数年前から共に染めている。

サラサラで良い匂いがする。僕も同じリンスを使っているけど、これが女の子特有の匂いなのだろうか。

「愛してるよ」

耳許で囁いた。

「ひゃ……。クダラぁ」

シエルは脇の他に耳も弱い。だからわざと息を吹き掛けるように言ったら頬を赤くして可愛い反応を見せてくれた。

「私も、クダラ大好き」

嬉しいねぇ。

僕はもう一度、シエルを抱き締めて「じゃあこれを買おうか?」と言った。

「うん」

シエルは力強く頷いて僕にキスをしてから試着室に入っていった。



「そうだ、パフェ食べていこう」

僕は恋人繋ぎをして隣を歩くシエルに声をかける。

「うん、食べたい」

百点満点中千点の笑顔を向けてシエルは返事をする。やはりシエルは可愛い。

そうと決まればレッツファミレス。


ファミレスの店内はエアコンが聞いていて、ちょうど良い気温に保たれている。

「いらっしゃいませ~。お好きな席にどうぞ」

店に入って少し歩くと店員が声をかけてきた。僕らは言われた通り好きな席、このフロアの角の方に座る。

「じゃあ、どれにしようか?」

「う~ん」

シエルにどのパフェがいいかを聞いたところ、メニューとにらめっこを始めた。

可愛いから少しからかうか。

「メニューばっかり見て、お兄ちゃん少し妬けちゃうな~」

「ふぇ? ち、違うよ。私はずっとお兄ちゃん一筋だよ!!」

勿論知ってる。

「冗談だよ、シエルは可愛いな~」

僕は笑いながらそういう。

「むぅ~。クダラのいじわる~」

膨れているのもまた可愛い。

「さ、決まったかい?」

聞くと、シエルは少し遠慮がちにメニューを指差した。

「こ、これ頼んでもいい?」

見るとそれは値段が野口秀夫が数人いなくなるぐらいの価格だった。なるほど。謙虚なところもかわいらしい。

「もちろん、いいよ」

笑顔で言ってやると「やったー」と飛びきりの笑顔になった。

やはりシエルは可愛い。


シエルは甘えてくるときとか、僕の一人称がお兄ちゃんの時に僕をお兄ちゃんと呼ぶ。

でも、小さい頃はクダラなんて呼ばなかったな。いつからだろうか?

まあ良いや。それじゃあ店員を呼ぶか。

ピンポーン。

呼び出しボタンを押すとそんな音がした。

「ドリンクバー二つとこれ一つ」

注文を聞きに来た店員に、シエルの言っていたパフェを指さすと店員は「承わりました」と言って下がっていった。

それから間もなくパフェが運ばれてきた。

パフェ。背の高いグラスに、アイスクリーム、フルーツを主体として、その他の甘い具を加えたデザート。

語源はフランス語の完全から来ていて、完全なデザートという意味だといわれている。

運ばれてきたそれは一言でいえばでかい。

シエルの顔ぐらいの大きさはあるんじゃないかというほどに積まれた生クリームやら果実、チョコレートなどは見ているだけで圧倒されてしまう。

シエルも少し驚いているようだ。それもそのはず。なぜならメニューには大きなパフェとしか書いていなかったからだ。大きいにしても限度があるだろう。そう思いメニューを見直すと特大のパフェというものもあった。僕らはまだパフェの全貌を知らない。

「とりあえず、ジュース入れてくるよ」

「うん。よろしく」

僕もシエルもオレンジジュースが好きだ。

それにしてもあの量はおかしい。普通のグラスに盛られたのを二人で分けてちょうど良い位なのに器だけで三倍はあるよ。


これはあれだ。無理だ。


僕はジュースを入れてシエルの元に戻ってから切り出す。

「悠里でも呼ぼうか」

「うん」

シエルも頷いたので僕はスマホを取り出して電話を掛けた。

トゥルルルルル、というコール音が四回ほどなって五回目が始まった直後に悠里が電話に出た。

僕は悠里に事情を話してこっちに来てもらった。


☆☆☆


星野悠里は妹の琴葉とレースゲームをしていた。京都に位置する会社のゲームで、今や世界で有名な会社だ。

その会社から出ている数々のゲームのキャラから出演しているキャラもいる。そのゲームは世界中で楽しまれている。

ちょうどレースが終わったところで電話がかかってきた。表示を見てみると幼馴染みの名前が写っていた。

「もしもし~」

悠里は琴葉を片腕で抱き締め、頬ずりをしながら電話に出た。

《今シエルとデート中なんだけど、大きなパフェがでかくてヤバい。駅前のファミレスに琴葉連れて助けに来て》

「わかった。すぐにいくね」

悠里は電話を切ると琴葉にこう伝えた。

「クダラがシエルとパフェ食べに行ったら思ったより大きいのが来たからかたずけるのを手伝ってほしいんだって。行こうか?」

「うん、行く」


☆☆☆


二人が店に入ってきた時でもパフェはまだ半分も食べれていなかった。

「やっほー」

シエルは悠里と琴葉に手を振っている。僕もそれに倣って手招きをする。

「こっちだよー」

二人がそばまで来ると同時に店員が「あのー」と言ってきたので「ドリンクバー二つ追加」と返しておいた。

「にしても大きいね」

そう言った悠里にメニューを見せて「もっとでかいのもあるらしい」と言えばやはり口をつぐんだ。

「でも、おいしそう」

琴葉はシエルの隣に座っていて、シエルはテーブルに備え付けられているスプーンを二つ取り出し一本を琴葉に、もう一本を悠里に手渡した。

僕らはそれから四十分かけて大きなパフェを食べ終わった。

悠里が琴葉の口許を拭いていたから、僕も対抗してシエルの口周りについたクリームを舐めとった。何らおかしな事をやったわけでは無いのに店員が変なものを見る目でこっちを見てきた。何だろう? 訴訟でも起こされたいのかな?

「とれたよ」

僕は目を瞑っていたシエルに声をかける。シエルは口許に付着している僕の唾液を指で集めるとそれをなめた。頬を赤らめているのが可愛い。

それと同じくらいで悠里も琴葉の口元を拭き終った。


会計が終わり、店を出たときには日が傾き始めていたのでスマホで時間を見れば三時二十八分だった。

まだ日が暮れるには時間があるが僕らは電車を降りてから二人と別れた。

「じゃあまた明日」

「バイバイ」

僕らはそう言う悠里と琴葉に手を降って逆方向に歩いていった。

僕はシエルの手を握って隣を歩く。シエルの手は暖かかった。

ギュッと握れば、ギュッと握り返してくれる。

僕らはそのまま大通りを歩き、スーツを着たサラリーマンやら、おしゃれをした女の人やら、白衣を着た男やらとすれ違い、自宅へ向かう。

マンションのエントランスに入るにはオートロックのガラス扉をカードキーで開けなければならない。僕はシエルとつないでいない方の手、右手で左のポケットからカードキーを取りだす。

センサーにかざすとピッって音がなって扉が開くと、シエルが僕の手を引いて先に歩き出した。僕はカードキーをポケットにしまいつつシエルに続く。

僕らはそのままエレベーターに乗り最上階へ向かう。最上階というのは結構家賃が高いから引っ越すことも考えたけど、大屋さんが気を使ってくれて安くで貸してくれている。エレベーターが上がりきって扉が開くと僕らはそのまま自宅へ向かう。鍵を開けて扉を開けば見慣れた玄関がある。

リビングまで行ってソファに座る。

「ふぅ~。楽しかった~」

シエルが僕に体重をかけてくるので、そのまま膝枕をして頭をなでながら言う。

「それは良かった」

僕がシエルの髪を指にくるくる巻いて遊んでいるとシエルも嬉しそうな顔になる。

「クダラークダラー」

「なんだい? シエル」

「大好き」

勿論知っている。

「僕も大好きだよ」

「うん。だからね、ずっと一緒にいてね」

「ああ、もちろんさ。どうしたんだい急に?」

聞くとシエルは「ううん、何でもない」と言って抱き着てくるので僕も抱きしめ返した。

「そうだシエル。冷凍庫にアイスがあったんだ。取ってきてよ」

「うん」

シエルは僕の上から降りてキッチンへと急ぎ足で向かう。僕はそれを見ながら「いつも大好き、いつまでも愛してるよ」と小声で呟いてみた。


戻ってきたシエルからアイスを受け取って「今日の晩御飯はどうしょうか?」と聞いた。もちろん、食べるか食べないかではない。何を食べるかだ。

「あ、あのね、今日は私がシチュー作る」

「え? 本当かい?」

「うん」

「嬉しいよ。ありがとう、シエル」

シエルのシチューは僕の一番の好物だからね。

シチューは万能だよ。次の日の朝御飯にもなるし、体が暖まるしね。

「それじゃあスーパーに食材を買いにいこうか。それとも待っているかい?」

「ううん。クダラと一緒にいたい」

「うん、知ってる。僕もだよ」

「えへへ」

シエルは上着を羽織ると玄関で靴を履く。そんなシエルの耳元で、僕はそっとささやく。

「シエル大好き」

「うん、私も」

シエルはそう言いながら僕に抱きつき「大好き、お兄ちゃん」と言った。

そのときのシエルの顔は二人きりの時にしか見せない笑顔だった。


やはりいつまでたってもシエルは"僕のお姫様"《マイリトルシスター》だ。

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