妹リトルシスター

遊秒むう

第一章:僕らの輪の中

マイリトルシスター(1)

「はい、あがり」

クダラは手に持っていたトランプを机の中央に置き、勝利を手にした。

「は~。クダラ、あんたトランプほんと得意よね~」

クダラは、隣に座っている双子の妹、シエルの頭を撫でつつ「まあね」と、対面側に座る星野悠里に勝ち誇る。

「私も、革命であがり」

そう言ったシエルが出したのは3が四枚の、最強の革命だ。

「あ、クダラあんた、だからジョーカーで終わったのね。隣のシエルが好きなカード出せるように」

クダラはニヤニヤ顔を悠里に向け、シエルの肩を引き寄せる。

「それじゃあ、一周するから次は僕の番だね。2のトリプルで。次は琴葉ちゃんの番だよ」

言ったのはクダラから見て左側にいる少年、沢渡弓月だ。

「うん。ええっと……」

琴葉ちゃんと言われた少女は、この部室の中で異質な存在だった。

と、言うのもこの部室にいる五人は琴葉を除き全員高校生である。

琴葉だけは悠里の妹で、小学生である。放課後はここで過ごしている。

「はい」

琴葉はテーブルの中央まで手が届かないので悠里に渡して、悠里が代わりに置く。

掌から離れたカードはKのトリプル。

「次、お姉ちゃんだよ!」

言われたお姉ちゃんである悠里は「パスぅ!」と言い「ぐむむぅぅぅ」と唸った。

クダラとシエルは罰ゲームに使うマジックペンを取り出していた。

「それじゃあ、僕もパス」

結月のパスによって琴葉に一周する。

琴葉は最後の一枚を出した。Aだ。

琴葉の手元のカードがなくなった時点で弓月と悠里一対一、最下位い争いである。

「お姉ちゃん、ファイト!」

琴葉は胸の前で握り拳を作り、応援をする。

「ん~、ことは~♪ 我が愛しの妹よ~」

悠里は大袈裟に反応し琴葉を抱き締める。

「えへへ~」

「それじゃあ、私はこれ10」

この時点で悠里の持ちカードは二枚で弓月の持ちカードは五枚だ。

「それじゃあ、僕は8で切って8のトリプルでまた切って」

弓月はしたり顔で最期のカードを出した。

「Aだよ。僕の勝ち」

「そっれじゃあー、罰ゲームタイム」

言ったのはクダラ。すでに全員のマジックペンが用意されていた。

そう、罰ゲームとは顔に落書きである。




悠里への落書きは頬に猫髭や額に肉のマークや赤鼻や顎髭など、様々に彩られていた。

「帰るまで落としちゃダメだよー」と、シエルが言い「お姉ちゃん、ねこさんみたいでかわいよ」と、琴葉が慰め「ううー、ことは~」と、悠里が嘆いた。

「おっと、そろそろじゃないかい? 皆」

弓月は言って時計を指差した。

それにつられるように皆まとめて時計を見る。時刻は五時三十分を示していた。

「そうだな、じゃあ今日はこれで解散」

因みに、下校時刻は五時三十分ではない。

「それじゃあ、私たちの家に集合ね」

今日はタイムセールで食材が安いということでクダラとシエルは部活メンバーを集めて、皆で鍋にしようと決めたのである。

「ああー。私この顔でスーパー行くの?」

悠里が驚き、周りも初めて気付く。

「あー、うん。そうなるね」

クダラはそう言う。

「あ、じゃあ悠里と琴葉ちゃんは別行動、する?」

弓月が提案し、

「それなら先に私たちの家で待っていて」

シエルが同意し、胸ポケットからマンションのカギを二人に渡した。

「そうだな、まぁしかたない」

クダラも同調する。

「うん、ありがとう。皆」

悠里は、落書きだらけの顔で笑顔になった。その様に一同は一笑した。


「さ、行こうか」

弓月の合図で琴葉は悠里の手を取り、クダラはシエルの腕に自分の腕をからめて、弓月は部室の鍵を手に取り教室から出る。

弓月が鍵を閉めてから再び歩き始める。

この学校は全館土足のため靴を履いているので、一階にある職員室に鍵を預ければそのまま外に出れる。

廊下から扉らをくぐり、オレンジ色の世界に身を投じる。

クダラ、シエル、弓月はスーパーに向かい、悠里、琴葉はクダラ、シエルの家へ向かう。


スーパーでは既に冷房が入っており、客に快適な空間を提供している。

三人はスーパーのロゴの入った買い物かごにそばやら肉やらを入れる。

突如野菜をかごに入れ始めた弓月に驚き、シエルが聞く。

「え? なんで野菜入れるの?」

「いや、寧ろなんで鍋なのに野菜入れないの?」

「え? そばと肉でいいじゃん?」

クダラが言う。

「いや、それ鍋じゃなくてそばだから、肉入りそばだから」

弓月が困ったように言いかえし、呆れたように続ける。

「全く、君たちはいつまでたっても野菜が嫌いだね」

弓月とクダラ、シエル、悠里は幼馴染である。小学校、中学校と同じであり仲が良い。

「野菜食べなくても死なない」

「死ぬよ? ビタミンとかさぁ、いろいろ足りなくて死ぬよ」

「ん。大丈夫」

「だいじょばないよ」

クダラはシエルが弓月と仲良く話しているのに少し嫉妬しつつ、「シエル可愛い」と、見守っていた。


買い物が終り、マンションに着いた三人の内、弓月と悠里は食材を切り、琴葉は食器を並べたり、鍋を出したりしている時、クダラとシエルは服を着替えている。と、いうのも弓月が「材料費は二人もちだから、用意は僕たちでしようよ」と言いだしたからである。悠里は「それもそうね」と言い、琴葉も二つ返事で同意した。

二人は着替え終わり、自室から出てくると弓月に「ソファで待ってて、もうすぐできるから」と、言われたのでソファでいちゃつき始めた。

クダラはシエルを抱き寄せてシエルはクダラに抱き着く。

クダラはシエルの肩から背中を通って腰に手をかける。そして頭をなでながら「シエル」と呼びかける。

そうするとシエルは「クダラぁ」と甘える。


これは二人の日常である。

シエルはクダラに頭を撫でられるのが好きだ。むしろクダラに触れられるだけで体の芯が熱くなる。心の底から安心できる。シエルはクダラが好きだ。子供の時からずっと。小さい頃は兄妹なのに、と思っていた時期もあった。だけど、それでも気持ちは変わらないどころか、歳を重ねる度に強くなる一方。もうこれ以上無いくらい、シエルにとってのクダラは特別である。

それはクダラも同じで、シエルの事を心の底から愛している。その気持ちは幼い頃から変わらない。シエルと一緒にいるだけで心地よく、安寧を得られる。両親がいなくなってからも、自分が家主としてシエルと支え合っている事で、さらに思いは加速していく。双子であろうと関係ない。

クダラ曰く、だって僕らは家族だから。

その思いがちょっとやそっとの事で変わるのであれば、小学生の時にキスなんてしなかっただろう。



「さ、準備できたよ。あとは火が通るのを待ってね」

「はーい」

「ん、お腹すいた」

「早く食べたい」

「あ、めんつゆ取って」

「ん、クダラ」

「ありがとう、シエル。シエルにも入れるよ?」

「うん、ありがと」

「皆、そろそろできたよ」

弓月が蓋を開けると、閉じ込められていた蒸気が一気に解放され、天井に向かって逃亡する。蓋についた水を鍋の中に落としてから横に除けると、「じゃあいただきます」と弓月が言い、それに全員が続く。

「入れてあげる」と悠里は琴葉の器に肉と野菜をバランスよく入れ、クダラとシエルはそれぞれ肉を入れて、悠里は自分の器に肉と野菜を入れ、弓月は「ちょっと二人とも、野菜も食べなよ」と言いつつ肉と野菜を自分の器に入れる。

なんとなくで付いたままのテレビはニュースキャスターが落ち着いた声で今日のニュースを読み上げており、そのテレビの前で、クダラたちは鍋を囲んで談笑する。

「こう皆で集まるのはやっぱりいいね」

「うん、いつもは二人だもんね」

「あ、もちろんシエルと二人きりなのもいいと思うけどね」

「二人は本当に仲がいいね。僕は兄弟がいないから少しうらやましいよ」

「ん~。まあ確かにシエルがいない生活なんて考えらられないね」

「私も~。琴葉がいないと生きていけないぃ~」

「もう、お姉ちゃんたら~」

「……クダラは、いなくならないよね?」

「もちろん。僕はシエルのそばから離れないよ。だからシエルも僕のそばにいてね?」

「うん!」


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