第13話 再びフリーター時代(初めての一人暮らし)



D男の影響で、ビール好きになった私。

たまたま求人で見つけたビアバーに応募し、採用された。

そこは事務の職場からも近く通いやすく、掛け持ちしやすかった。

3ヵ月で辞めたカフェは店も遠く、仕事も覚えることが多くハードだったが、

そのビアバーはそんな切羽詰まっておらず、緩く始められた。


仕事は楽しく、なにより働いている人たちが面白かった。

学生の子もいれば、フリーターの人もいた。

そしてやっぱりやっぱり、音楽やってる人もいた。

さすが飲み屋で働く男性(?)、私から声をかけたら、

そこにいた男性はたいがい、誘いに乗ってきた。

その頃は、もう誰かと真剣に付き合おうとは考えていなかった。

ただ、寂しい時や、人肌恋しい時に誰かいればいいや、という感覚。

そんな相手を見繕うには、格好の職場だった。

相手もパートナー持ちで刺激に飢えてるだけの人たちだったので、

お互い都合が良かった。


で、事務とビアバーの掛け持ちで収入が増え、

これなら一人暮らしできるんじゃないか?と思い、物件を探してみた。

軽い気持ちで行ったのだが、なんと、見つかってしまった。

猫が飼えて、アルバイトだけの私でも審査通してくれる家。

そして、人生27年目にして、遂に一人暮らしを始めることになったのである。

D男はバンド活動に専念する為、一念発起して正社員を辞めると言っていた。

それで一緒にいられる時間が増える可能性もあったが、

完全にD男から気持ちは離れていたので、今更だった。


やっと自由の身になれる、好きに男遊びできるぞー!…と思いきや。

なんと、一人暮らしを始めた途端に、事務のバイトをクビになった。

私だけじゃなく、アルバイトは一斉解雇だった。

社会保険には入っていたが、結局すぐに別のバイトを見つけた。

だが、そこもかつての芸能事務よろしく募集内容と違う仕事をさせられて、

だんだん出勤日数が減っていくのだけど。


またまた余談だけれど、浮気真っ只中のとき、その相手の中にC男もいた。

C男も新彼女とうまくいかなくなっており、恐らくお互い、ただの気晴らしだった。

一人暮らしをするという話をしたら、知り合いから洗濯機をもらってくれた。

そのころはもうC男のこともどうでもよくなっていたので、会っても平気だった。

D男も、私が引っ越してから様子を見に来た。

未練があったのか心配だったのか、その後も何回か連絡を寄越してきた。

どいつもこいつも、別れてから構ってくるとか遅いよ馬鹿、と思っていたのは内緒。

メンがヘラっていた私にも問題があるので、お互い様です、はい。


んで、少し戻って引っ越しの2日くらい前。


私はそれまでFacebookをやったことがなかったのだが、

何かしらの(主に男←)繋がりを作れればと、アカウントを作っていた。

ビアバーの休憩中にスマホを見ると、Facebookのメッセージが来ていた。

それがなんと、Jからだったのである。


あの時の私のパニックは半端なかった。

なぜFacebookが分かったのか?

そもそも、このJは本物か…?(E男のイタズラかと疑った)

諸々確認すると、E男から私と終わったと聞き、

知り合いに近い名前の子がいて覚えていたので、名前で調べたとの事だった。


引っ越しの翌日、Jと二人でお茶をした。

E男と3人で飲んだ時はお互い個人的な話をしなかったので、

正直Jがどんな人物かは未知数だった。

が、話してみると、趣味が合う、合う!

盛り上がった私は、またもグイグイいった。

会ってその日に「付き合っちゃいますか!」と言う身軽さ。

Jもフリーだった。

私は付き合おうかと言ったものの、まだ遊ぶ気満々だった。

一人にこだわってダメになったことが多すぎて、怖かった。

そんな諸々の話を聞いた上で、Jは付き合おうと言ってくれた。


D男と別れ、E男との関係が終わってすぐ、Jと付き合い始めた。


私が別の人と飲んでいて終電を逃したとき、Jは迎えにきてくれた。

私を一人にしたら他の男のところに行ってしまうかもと、頻繁に家にも来てくれた。

とにかく、Jの好意がすごかった。

今まで、どちらかというと私の方が相手を好きすぎて、

相手がついてこられなくなるパターンが多かった。

が、Jは私が言わなくても家に来てくれたり、会おうとしてくれた。

ひどい恋愛体質な私も一瞬ビビるくらい、好きさが伝わってきた。


逆に、それで不安になったりもした。


今はこれだけ好きでいてくれてるけど、

本当の私を知ったら離れていくんだろうな、と。

いままでのメンヘラ遍歴を話してはいるけれど、

実際にその状態になってみないと、大変さや深刻さは分からないから。




付き合い始めて1ヵ月経たず、もともと予定していた私と両親の旅行に、

Jも同行してくれることになった。

私の両親とも気さくに話してくれて、嬉しかった。


半同棲状態になるのは早かった。

私は慎重になろうとしていたけれど、向こうがグイグイ来る。

それも嬉しかったし、拒んで嫌われたくもなかった。

だんだん、私のJへの依存度が強くなっていった。

今までのパターンに近づいてきている。


ある時、いきなりJから別れよう、と言われた。

理由が分からなかった私は、パニックになった。

問い質すと(相当にしつこく聞くまで教えてくれなかった)、

私の金銭感覚についていけない、という。

確かに私は出かけたら外食したり、

お土産を買ったりしたかったが、Jに払わせるつもりはなかった。

いつも、Jが払ってくれていた。

それが、気持ち的にJの負担になっていたらしい。


そもそもJも、音楽をやっていた。

が、E男と3人で会ってしばらく後、もう音楽の道は諦める、と言って、

正社員になっていた(その話をされたE男が荒れていたのを知ってる)。

ただ、駆け出し正社員でお金に余裕があるわけもなく、

もともとかなりの倹約家だったので、頻繁な外食などが辛かったらしい。

でも、そんな風に感じる自分がケチくさい男のようで、言えなかったと。

そこから、「もう駄目だ、別れよう」という結論に至ったらしい。



・・・・・言えよ!!!



と、言った(笑)

そんな思い詰める前に言ってくれ、と。

まぁ、プライドだったりなんだったり、色々あるのかも知れないけど、

こっちからしたら何が原因かも分からず別れ話をされて、納得できるわけもない。

で、話を聞いてみたら、それ話し合いで解決できるじゃん!という内容。

このころから分かり始めるのだが、Jは自尊感情が低めの人だった。

私も自尊感情が低いところがあるから、その辛さは分かる。

ただ、ようやくその自尊感情が低い自分から抜け出そうとしているところに、

自尊心低めのJが現れて、ちょっとしんどかった。

そのあとも、ちょこちょこ同じ内容で喧嘩することになるのだが。


とにもかくにも、半同棲を続けていたある日。

なんと、お隣のおじさんから騒音の苦情がきた。

しかも警察官を引き連れて夜中に、である。

超ビビった。何事かと思った。


Jと寝ていると、いきなりドアをノックされ、

「〇〇(私の苗字)さーん」と、何回か呼ばれた。

さすがに無視できず出ると、目の前には警察官と隣のおっちゃんである。

肌寒い深夜に外に出て、3人で話し合うことに。

隣のおじさんいわく、うるささに耐えられなくなった、とのこと。

言われてみれば、当時ビアバーから帰ってきた23時半以降に、

Jとゲームをしたり喋ったりと、確かにうるさかったかも知れない。

夏で暑かったのもあり、窓を開けてもいた。

ただ、おっちゃんから一度も直接注意されず、

いきなり警察官連れてきたから驚いた。

警察官のお兄さん曰く、ちゃんと警察通してくれる人の方が優しい、

との事だったが、私からしたら驚きである。

確かに、一緒に騒いでいる相手がどんな人物か分からない以上、

下手に注意をして自分に危害が加わる可能性を踏まえれば、

警察官を連れてくるのもおかしくはない。

でも、そのおっちゃん、言っている内容がおかしかったりもした。

もう記憶がおぼろげで覚えていないが、うるさくしているのを

録音しているから、みたいな事を言っていた気がする。

もし本当だとしたら盗聴である。むしろおっちゃんが犯罪者。

ただ、警察官のお兄ちゃんは全面的におっちゃんの味方のようだった。

結局、寒い外で1時間ほどよく分からない話(主におっちゃんから)を聞き、

最後に警察官のお兄ちゃんに「以後気を付けてください」と言われ、

その日は解放された。


そこから、その家が自由の家ではなくなった。

Jは音に気を付ければ大丈夫、と慰めてくれたが、

直接会った私には、隣のおっちゃんのインパクトは強烈すぎた。

部屋で安らげない。そのストレスがひどかった。

そこで私は性懲りもなく、Jと同棲したいと言った。

私がJの家に行ければいいのだが、猫がいるので無理だった。

選択肢はそれしかなかった。


付き合って1年も経っておらず、Jは最初のり気ではなかった。

ただ、とりあえず見るだけ、と言って、

私が探した物件を内見しに行ったりした。

2~3件見たが、なかなか良い物件が見つからなかった。

Jは、家賃はいくらまで、これ以上は絶対無理、と言っていた。

私の稼ぎもたかが知れているし、バイトに行けない日があるのも知っているので、

当たり前と言えば当たり前なのだが、その条件も厳しかった。

猫2匹飼えて、そんな家賃のところ、都内はないよ…と。

Jも気になった物件を送ってくれたりもしたが、私の希望になかなか合わなかった。

贅沢言うなよ、という感じだが。


ある日、Jが送ってくれた物件を見ると、内装がすごく好みだった。

それはJの地元に近い物件で、私には全く馴染みのない地域だった。

建物は古いが、部屋をリノベーションしていて、とてもキレイだった。

家賃も、Jの許容範囲内だった。

内見し、その日に決めた。





3度目の正直、3度目の同棲の、始まりである。


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