ログ・ホライズン【異伝】

トータス

アカツキんちゃん?

語り部ニャンコはかく騙りき・・・



「昔々、ある所にアカツキんちゃんという女の子が居ましたニャ。

その女の子は、夜遅く、明け方に輝く赤い月がとっても似合う女の子ニャ」


   ・・・   ・・・


 明け方、赤い綺麗な月が見える頃ニャ。


「アカツキんちゃーん、アカツキんちゃんやーい!」


 ログ・ハウスの窓から身を乗り出し、大声でを呼ぶ母親


「・・・何用ですか、マリエールさん」


 屋根の縁を掴んでぶら下がって現れた、ものごっつぅ棒読みなアカツキんちゃん。

 特に頭巾を被っている訳ではないが、髪を縛っているのは赤い布であるニャ。


「イヤやなぁ。こ・こ・はぁ、最後にママを付けてぇや!」


 力一杯胸を張り、ユサユサ揺らしながら宣言した!

それに便乗し、御立派なカイゼル付け口髭を生やした直継が現れ、


「そうだぞ、アカツキん! そして俺の事はナオぱ」


 ごめす!


「マリエママ、この生ごみはひざ蹴りで外へ蹴り出して良いだろうか?」

「ってぇ! もう蹴ってるだろ!」

「むぅ、また仕留め切れなかったか。不覚」

「駄目やで、ナオぱぱにはまだお仕事があるんやから。

それで、アカツキんちゃんにはお使いをお願いしたいんよ」

「それでは、何をすればいいのだろうか?」

「なんも難しい事はないで、梅子、おとと。おばあさん、風邪引いて寝込んでもうた言う話やから、差し入れを持って行って貰えへんか?」

「・・・分かりました。では、行ってまいります」

「じゃあコレ、梅・・・じゃなかった。おばあさんに渡すワインとチーズやね」


 そう言ってバスケットに入ったそれらを手渡され、受け取った。


「ハイ、では行ってまいります」


 折り目正しく礼をするとそのまま外へと出ようとしていた。


「おっと、待った待った! 大事なモノを忘れているぞ、アカツキん!」


 その声に振り返ると、何やら紙に包まれた大きな物を持っている。


「何を忘れていると言うんだ。ナ、ナオぱ・・・」

「ん、んんー? 何かなぁー」

「ナオぱ・・・そ、それで、忘れ物とはなんだ!」

「おお! それは新しいおパ」


 ドメス!


「うぐぅ!」


 鳩尾に良いのを貰い、手にした物ごと倒れて引っ繰り返ってしまったナオぱぱ。床に紙包みがコロコロと転がってしまった。


「マリエママ。この変態、いかがしましょう」

「ア、アカツキんちゃん。それは・・・」

「ううっ、最後まで言わせろ! アカツキん! 新しいおパンが台無しだ!」


 自分の勘違いから蹴りつけてしまった事を恥じているアカツキんちゃん。

真っ赤な顔をしながら焼き立てのパンの匂いがする紙包みを拾い上げ、


「あ、う、わ、わかりました。けど、誤解をする様な事を言うのが悪いのだ!」

「それと、最近白E狼さんを見掛けるって話が出てるからな。気を付けてけよ?」

「わ、分かった!」

「それでだ。もし、そんな白E狼に襲われた時に困らない様に、新しいおぱんt!」


 ドベキッ!


「や、やはり、コレは廃棄して新しいパパを!」


 うんうんと窓辺から頷く双剣持った狼さん?


「えぇー、ウチはコレがええんやけどなぁー」


 そう言ってかいぐりかいぐり気絶したナオぱぱを膝枕で介抱しているマリエママ。

窓辺からは「ウヲヲォーン!」と遠吠えをしながら滂沱の涙を流す狼さん、土煙りを上げて走り去って行った。


「では、改めて行ってまいります」

「気い付けてなぁ! 白E狼さんにおうたら、よろしゅう伝えてな!」

「おう! そのまま朝がE」


 ベちん!


「な、何を言っているのだ! ふ、二人して!」


 ほっぺたを真っ赤な紅葉染めにした直パパ。

真っ赤になって湯気を上げているアカツキん。

ケラケラ笑いながその二人の様子を眺めているマリママ。

ウヲヲォォォンと土煙りを上げながら走り去る狼さん。



   ・・・   ・・・



「「いらっしゃいませー!」」


 パン屋の店内にて立ち働いているミノリとセララ、ジッと窯の前で中の火の具合を伺っているトウヤ。


「あれ、アカツキんさん、どうしたんですか?」

「ああ、一寸パンを買いに来たんだ」

「え? さっき師匠が買いに来てたと思ったんだけど」

「そ、それは・・・不幸な事故があってな」


 明後日の方を見ながら答えるアカツキん。

如何にか新たにパンを手に入れ、森への道を進んでいたニャ。


 道を歩いていると、向こうから羊の群れと共にある姿が目に入って来た。


「あ! アカツキんチャーン!」

「羊飼いの五十鈴さん、これから放牧ですか?」

「うん! アカツキんちゃんは?」

「これから森へおばあさんのお見舞いに」

「そっか! 最近、森に狼が出るって噂があるから気を付けてね」

「はい、お姉さんも気を付けて」

「はっはっはっ! このボクが居る限り、ミス・イスズの心配は御無用だ!」


 と髪を掻き上げながら宣言する長ーい杖を携えた牧歌的な忠犬(?)


「もー! か、可愛いー!」

「ミ、ミス・イスズ? そ、そこは、あ、ああー!」


 周囲を憚らずに顎の下からお腹の辺りまで撫で廻し、翻弄する羊飼いさん。

嬉しさ堪らず吠え荒げてしまう忠犬(?)の姿が見られたニャ。



   ・・・   ・・・



「えっと、一寸そこ行くお嬢さん。何処へ行かれるんですか?」


 森への入り口の辺りで唐突に声を掛けられたアカツキん。

 顔が見られない様、木陰から声を掛けて来る白E狼さん。


「・・・主君。そんな所で何をしているんだ?」

「え! イ、イヤ、その・・・インクの調合にミスって顔に・・・ってそうじゃなくて。アカツキんちゃんは」

「ちゃん付け禁止、それにキチンと顔を見せて頂きたい」

「や、そ、それは一寸・・・それで、アカツキんはドコへ行くのかな」

「むぅ!」


 その答えにブンむくれるアカツキん。


「まぁ良い。おばあさんが倒れて寝込んだとかでお見舞いを頼まれたのだ」

「そ、そうか、なら遅くならないように気を付けて」

「・・・主君は、送ってくれないのか?」

「そ、その、さっき言ったインクが落ちなくて・・・」

「そんな事は気にならない」

「わ、笑わないかな?」

「私が主君を笑ったりするものか」

「じゃ、じゃあ・・・」


 ゆっくりと木陰から顔を出す白え狼さん。

髪の毛が一部白くなって獣耳の様に逆立ち、両頬に黒い三本筋。お腹の辺りは真っ黒であった!


「・・・プッ!」


 懸命に笑いを堪えるも、つい漏れ出してしまった。


「だ、だから出られなかったんだ。と、兎に角、遅くならない様に気を付けて」



   ・・・   ・・・



「こんにちは、おばあさん。お加減はいかがですか?」

「まぁ! アカツキんちゃん! 一寸(興奮し過ぎて)倒れてしまっただけだから。

貴女が来てくれたおかげで捕っても良い感じよ! 《=誤変換に非ず》

お顔が良く見える様に、こっちへ来て頂戴!」


 息荒く興奮気味のおばあさん(?)


「おばあさん、おばあさんのお口、とっても大きいけどどうして?」

「それはねぇ、メインのお仕事=バードで口を大きく開ける必要があるからよ」 =バード・ビルド:コンサートマスター:援護歌特化ビルド


「・・・おばあさん。おばあさんの声、とっても大きいけど、どうして?」

「それはねぇ、お仕事で良く歌うからよー♪」 =事実本当


「おばあさんの目、真っ赤だけど・・・」

「それはねぇ、アカツキんちゃんが来るから、昨日興奮し過ぎて眠れなかったからなのよ!」 =充血した目


「おばあさんの手、とっても熱くて私を掴んで放してくれないんだけど・・・」

「それはねぇ、アカツキんちゃんがトッテモ可愛いから! 興奮して獲ってしまいたいから!

はぁ、はぁん、んんー! 癒されるわぁ!」


 両手でガッシリ捕まえて頬ずりして来るおばあさんから逃れようと、


はぁなぁせぇー!!」と足掻きまくるアカツキんちゃんであったが、狼と化したお婆さんの束縛からは逃れられない!


 とその場に「えっと、こんにちは。ヘンリエッタさん、具合は・・・」と場違いな声が掛けられた。


 山登りにでも行くような格好をした猟師さん。

魔法を主な道具とした猟師さんなので、銃や弓矢は持たず、長い杖を持っていた。


「しゅ、主君! 助けてくれ!」

「あら、猟師さん。いらっしゃいませ」

「えぇっと、アカツキんにして貰いたい事があるから、ヘンリエッタさん、申し訳ないが時間切れです」


 そう言って狼と化したおばあさん=ヘンリエッタからアカツキんちゃんを解放した。


「まぁ残念。ではまた改めて」

「さ、行こうか。途中まで送って行くよ」

「しゅ、主君。送ってくれるのか」

「あらあら、猟師さん。送って行くのは構いませんが、狼に変身なさらないのですか?」

「しません!」

「しゅ、主君。し、しないのか・・・」


 ちょっぴり残念そうなアカツキんちゃん。



 その後、なんだかんだと明け方の地平線を見る旅に出る事もある様になったそうニャ。

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