短編『Because it's there - 異星を登る -』を公開しました!

カクヨムコン向けに短編を公開しました!

Because it's there - 異星を登る -
https://kakuyomu.jp/works/16818023211735235080


 この作品には、いろいろ思いがありまして、つらつらと書いてみます。

 百合には「つらい状況のなか、ふたりが寄り添って生きていくシスターフッド的な物語」という形態があります。『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』、『同士少女よ、敵を撃て』を始め、一部の殺伐百合的なものもこれに当てはまるかなと思います。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』もそういう面がありました。
 この「つらい状況」は戦争や差別などの社会的な状況や、部活やアイドルといった競い合いなどのモチーフがよく使われます。私は自分の体験から「登山」もこれに入るのではないかとちょっと思ってたのが、この作品を作るきっかけになりました。

 冬寂の製造元である両親は、夏は登山、冬はスキーという完全アウトドアな人たちでした。小学4年~6年生ぐらいで白馬岳や常念岳、鳳凰三山、北岳(台風で北岳山荘まで行って登頂断念してたり)とか、だいぶガチ目の登山をさせられました。尾瀬も何度か行ったのですが、それはただのトレーニングという感覚です。おかげで死にかけたり、怖い目に何度もあってます。予定が遅れてヘッドライトの明かりだけで真っ暗な山道を夜叉神峠まで降りたりとか、尾瀬に行ってたら台風直撃して鳩待峠へ抜けられなくなり遠い奥只見湖まで全身びしょ濡れになりながら抜けたりとか(アノラックとかちゃんと雨具の防備していてもダメなぐらいの天候でした)、高山病で体調おかしくなって父のでかいリュックをベッドにして山道の脇で寝かされたりとか(その後山小屋まで行けて、たまたま順天堂大の登山パーティーがいたおかげで応急処置をしてもらいました)、落石や足の踏み外しなど、よくもまあ生き残ったなということがままありました。ちなみにスキーでも死にかけています(笑)。装備だいじ。

 こうした登山での極限状態で寄り添うふたりというのは、百合的なシチュエーションとしては多分にアリじゃないかなと……。『ヤマノススメ』とかあるのですが、もう少しキツメのがあればいいのかなって……。

 山岳SFとしては、ル=グインの『闇の左手』がそうだと思いましたし(物語中盤の逃避行がほぼ冬山登山)、家のパーツを山に見立てて登る短編(題名と作者を忘れました……)とかありました。小川一水先生の『コロロギ岳から木星トロヤへ』も登るわけではないですが、冬山に閉じ込められた雰囲気がとても好きです。私は椎名誠さん大好きなのですが、家族全員で登山するSF小説や、のんべんだらりとした山岳行の話も好みです。植村直己さんの自伝や、夢枕先生の『神々の山嶺』、ちょっと違うのですが北岳やその下の夜叉神峠が舞台として使われている高村薫先生の『マークスの山』など、山岳小説は自分の中では傑作が多いと感じています。

 そうしていたら、かぐやSFの公募で題材が「スポーツ」というものが出まして、それ向けに異星の登山話を書いたのです。箸にも棒にもかかりませんでした(笑)。登山はスポーツと思われづらいのかな……とか、求められたものが違ったのかな……と、しょんぼりしてました。その後、NHKでジョージマロリーから始まるエベレストへ登る人たちを取り上げた『映像の世紀 バタフライエフェクト』を見たりしていて、やっぱり山はいいなあと思っていたら、カクヨムコンの季節となり、手をこまねいているうちにフェスの題材「スタート」が出て、「そこにそれがあるから」というジョージマロニーの言葉の意図を人類の宇宙探査への欲求へ重ねるようにして改稿したものが本作になります。

 モデルにさせていただいたのは、日本人女性で初めてエベレストに登頂した田部井順子さんです。医師であり、二児の母であり、たいへん立派な登山家です。私の母がとても尊敬している方で、我が家に田部井さんが試作したというサーベルの柄のような形をしたスキーストックがあったり、著作が家にあったり、すごく身近に感じている方です。今回百合にしてしまったのは申し訳なく感じてますが、女性登山の困難さについては田部井さんから受けたものが多く、このような形にしました。

 また単独登山については植村直己さんを参考にさせていただいています。エベレスト登山中に仲間が死んだりしているにも関わらずパーティーの人間たちがギスギスするのは、植村さんにとってとても耐えられないものだったと想像できます。最後はマッキンリーで遭難という形になったのですが、その後、仲間達が捜索隊を何度も編成する姿には胸を打たれます。

 おかげさまで好評を多くいただき、たいへんありがとうございます。次回作を出すハードルが上がってしまったと恐れおののいていますが、次のフェスのお題「危機一髪」も出ましたし、また何かしら良いものを書いて掲載させていただきます。

 カクヨムコンに向けては、本当は長編用意していたのですが、本業がどうにもあれで時間が取れず、ぼちぼちとやっていけたらと思っています。すみません。

 それではよい読書ライフを!

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