• 現代ファンタジー

習作・VRゲームそっくりの異世界転移もの

「ここは海都だ! 僕たちは『|Monochrome《モノクローム》』……ゲームの世界にいるんだ! 間違いない!」

 京都風の和風の街並みを見てクラスメイトの一人が声を上げた。

 俺の名前は相沢勇人。都内の高校に通う普通の高校生。
 先ほどまで教室にいたはずだったのに気がついたら見知らぬ街にいて、周りにはクラスメイトたちが戸惑った顔で立っていた。
 服装は学校の制服のままだけど、手荷物は一切なし。ポケットに突っ込んでいたはずのスマホも財布もなかった。

 一体何が起こったのかと思ったところでさっきのクラスメイトの男子――佐藤のセリフに戻る。
 どうやら俺たちはゲームの世界……ゲームそっくりの異世界?に来てしまったようだ。

「この場所、海都の東の広場じゃない?」
「言われてみれば、あの店に見覚えがあるかも」
「マジかよ……。え、じゃあゲームのステータスとかもあるのか? ステータス!」

 佐藤以外のクラスメイトも周りを見渡して、ここが『海都』だと認めていた。
 VRMMORPG『|Monochrome《モノクローム》』。
 三年前のサービス開始以降、根強い人気を誇っていて特に中高生の間で大流行しているVRゲームだ。
 さっきの佐藤を初め、クラスメイトの多くがプレイしているゲームなのでこの街に見覚えがあるんだろう。
 見覚えのある光景にクラスメイトたちの多くは安心しているように見えた。まあ何にも情報のない場所に放り出されるより、ゲームとは言え見知った場所の方が安心するよな。

「困ったな……俺、未プレイだからこのゲームのこと何にも知らないぞ……」

 ただ、他のクラスメイトたちと違って俺は『Monochrome』を遊んだことがなかった。ここがどういう場所なのか、このゲームがどういうシステムのゲームなのかもよくわからない。
 一体どうすりゃいいんだ……。

「みんな! まずはお金を稼ぐためにギルドで依頼を受けよう! ゲームの経験を活かせば僕たちならすぐに強くなれるはずだ!」

 俺が途方に暮れていると、再び佐藤が声を張り上げてみんなに行動を促した。

「さすが佐藤だ。モノクロのことなら佐藤に任せておけば間違いないな」
「『聖天十二騎士』に選ばれるだけある。頼りになるぜ」

 聖天十二騎士???
 なんだそれ???

「ああ、相沢は知らないのか。聖天十二騎士っていうのはゲーム内の最強プレイヤー十二人に贈られる称号のことだな。佐藤はその一人なんだ」
「『聖剣の担い手ブレイブ』。ゲーム内で知らない人はいないトッププレイヤーの一人だぜ」
「まあ、佐藤には及ばないものの俺たちもトップ層に入っているプレイヤーの一人だけどな!」

 へ、へえ……。そうなのか。
 俺は知らなかったけど、佐藤はモノクロ(『Monochrome』の略称)の有名プレイヤーだったらしい。しかもクラスメイトたちとギルドも結成していて、学生ギルドとしてはゲーム内でトップクラスだったとか。
 目の前の二人もそのギルドに所属していてトップ層に入っていたらしい。

「ゲームのことを知り尽くした佐藤や俺たちがいるんだ。大船に乗ったつもりで任せてくれ! 相沢たちもきっちりトッププレイヤーまで育てて見せるぜ!」

 ちょっと、いやかなり不安だけど他に頼りになる相手もいない。
 佐藤たちの好意に甘えて頼らせてもらうとしよう。

 ■

「相沢くん。このクエストを受けるといいよ」

クエスト名:「お供え物を届けて」
内容:指定した祠にお供え物を届けてください
報酬:500G

「このクエストはただのお使いクエストでモンスターとの戦闘もないんだけど、見ての通り報酬が高いんだ。初心者の相沢くんはまずこのクエストでお金を稼いで装備を買った方がいいと思うんだ」

 佐藤が直々にやってきて俺にすすめてくれたのはゲームとかでよく見るお使いクエストだった。

 俺は本当に一度もモノクロに触ったことのない初心者なので、一番の熟練者の佐藤が直接教えてくれることになったんだ。
 他のメンバーはそれぞれ友達同士でグループを作って街の外で早速モンスター討伐をしている。熟練プレイヤーの彼らなら、この街の周辺のモンスターを武器なしでも余裕で狩れるので、その方が手っ取り早いらしい。

 本当なら佐藤だってさっさとモンスター討伐に向かいたいだろうに俺のせいで別行動をさせてしまって申し訳ない。早く戦力になれるようにがんばろう。

 クエストの『お供え物』をギルドの受付で受け取ると、俺がお使いに行っている間に佐藤はモンスターの討伐を行うので後で待ち合わせをしようと言った。
 受付の人に聞いた祠は街はずれにあってちょっと遠いみたいだし、確かに二人で行っても時間の無駄だろう。

「それじゃあまた後で。がんばってね、相沢くん」
「佐藤」

 すぐに討伐に向かおうとした佐藤を呼び止めた。

「初心者の俺に付き合ってくれてありがとう。それと、今までモノクロに誘ってくれていたのにずっと断っていてごめん!」

 実は佐藤には以前から何度も一緒にモノクロをプレイしようと誘われていた。
 別に俺と佐藤が仲良しだったというわけではなく、佐藤が誰にでも声をかけてモノクロに誘う奴だったという話なんだけど。それでも何度も誘われていたのに断っていたのは確かだ。
 でもそんな俺に付き合ってこうしていろいろ教えてくれる佐藤は本当にいい奴だと思う。

「こんなわけのわからない状況だけど、佐藤が居てくれて本当に助かったよ。これからも面倒かけると思うけどよろしくな!」
「……こっちこそ、よろしく。相沢くん」

 佐藤が苦笑を浮かべて去っていく。
 今まで全然接点がなかったのに――佐藤はモノクロ仲間とばっかりツルんでいたから――いきなり調子のいいことを言う俺に呆れてしまっただろうか。
 まあ、こんな状況だ。同郷の仲間として力を合わせることもあるだろうし、これから少しずつ仲良くなればいいだろう。
 お供え物が入っている箱を抱え俺は一人で海都の街中を歩き出した。





――――――

ちょっとVRゲーム転移ものを書きたくなったのでこっちで公開。
とりあえずあと何話か続きます。

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