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第5回こむら川朗読小説大賞に参加しての自作語り

 講評が出たので、表題のとおり「ヴァンパイア・アイデンティティ」の自作語りをします。

 まずは参加された皆様、評議員の皆様お疲れ様でした。参加作品の200以上という凄いお祭りに参加出来て楽しかったです。久しぶりに小説を書いたから、どうなるかとびくびくしておりましたが、感想もたくさんいただけて嬉しかったです。
 感想や講評で、生物学ネタがちゃんと受け入れてもらえたのも嬉しいポイントですね。前提知識無いヒトでも、どこかで聞いたことがあるであろうネタ(不眠、貧血、トラウマ、死んだ人が蘇るびっくりニュース、ポリフェノールが健康に良いなど)を交えることを意識した効果があったのだと思います。
 
 吸血鬼と生物学を絡めた話はずっと前からやってみたいと思っていました。生物学が元々好きだということと、過去に書いた4作品がフランケンシュタインを絡めたものだったので、次は怪異繋がりで吸血鬼を題材にと考えていました。
 ヒトに近いけどヒトとは異なる存在の話。吸血行為という、他人から何かを奪わないといけない性質をもった吸血鬼はどんな存在なんだろう。ヒトとどう違うのだろうか。どう付き合っていけるだろうかとぼんやり考えていました。それは明らかにフランケンシュタインの怪物より、ヒトに近い存在です。
 まずは最初にと書いたのがこのお話です。正直なところ、あんまり考えがまとまらなかったので、シンプルに吸血鬼の性質を生物学的に捉えてみようと思い今回の話になりました。考察が楽しくなったと同時に、どんな性質を持つ存在でも、『個人』として認められて、社会のどこかで、色んな方法で折り合いを付けながら、受け入れられるのでは(受け入れられて欲しい)というような気持ちになり、作中のオチとなります。
 当初は生物学ネタを絡めた事件解決型のミステリーを1万5千字程度で想定してましたが、上手くまとまらないまま放置していた時に、こむら川のレギュレーションを見て方針転換。6000字にまとめる都合もあるので、ヤマダさんとの会話が中心のお話になりました。

 ヤマダさんのキャラ付けですが、私はヒロイン的立場のキャラクタを長髪にする傾向があります。これは私の遺伝子に刻みつけられた何かです。吸血鬼というイメージで最初に浮かぶキャラクタがトリニティ・ブラッドのアベル(長髪銀髪)だというのもあります。
 年齢、性別が不詳なのはミステリアスさを出したいなというのと、主人公にとってヤマダさんはヤマダさんであり、年齢や性別、吸血鬼かどうかは重要ではないというお話上の構造からですね。でも読者さんは自由に想像していただければと思います。“そうかもしれない”と考えるのは楽しいので、あなたの心に描いたヤマダさんが正解です。

 私がネタを考えるのに参考にしているオススメの生物読み物を一冊紹介します。早川書房より、『遺伝子-親密なる人類史-』(著/シッダールタ・ムカジー)です。遺伝子にまつわる科学の歴史の中で、当時の科学者が何を思い、社会にどのような影響を与えたのか。遺伝子という存在を中心に据えた時、人類が歩んできたもの、これから歩むものは何なのかに迫る本です。
 遺伝子から見た生物(人類)の多様性と可能性の話。優生学や初期の遺伝子治療による悲劇など、功罪織り交ぜつつ語れられるのも好きなポイントです。メンデル、ダーウィンから始まり、最新の遺伝子編集までの話題を網羅していて大変読み応えがあります。今回の作中の表現型の話などはここから取っております。現在、文庫版が発売中です。

 死は経験則で判定されるというお話は、科学雑誌のニュートンからですね。確か2年前くらいの特集記事に載っておりました。ニュートンはテーマとなる話題の基礎から、応用、未来の展望まで分かりやすく記載されていて、読んでいて楽しいのでオススメです。今年3月発売号の合成生物学の特集も面白かったです。

 あとは漫画もひとつご紹介です。アフタヌーンKCより『Q、恋ってなんですか?』(著/Fiok Lee、全3巻)です。人と接するのが得意でない会社員の青井君は、ある日、夜の公園でチョウを追いかける不思議な人、Qさんに出会う。そのQさんは宇宙人で地球の生物を収集していて、青井くんがそれを手伝うことになるお話です。生物の交尾を観察を通して描かれる生物の恋のお話も魅力的ですが、宇宙人Qさんと青井さんの関係性も大変良く、また、絵も最高(2巻のサンゴの産卵シーンは圧巻です)です。Twitterの公式垢で1話全部読めるので、気になった方は是非。

 最後に過去作の宣伝を少しだけさせてください。こむら川小説大賞に参加するのは初めてですが、実はその源流?となる本物川(第8回本山川小説大賞)には一度参加したことがありました。その時の作品がこちらです。女性一人称、生物学ネタではキメラ動物をお題にした異種恋愛譚、よろしければ、こちらもご一読いただけますと嬉しく思います。

 ◎キメラだって恋したい〜伴侶が欲しいキャリーちゃん〜
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054886911293

 また、他の作品も生物学ネタを仕込んでおりますので、興味を引かれた方は、そちらも是非どうぞ。

 ◎フランケンシュタイン・ブルーハート
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887933076
 ◎継ぎ接ぎのバイオアルケミスト
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885821999
 ◎ワンダー・フーズ〜Walking Crrot〜
 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885410105
 

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