ラブタイムトラベルの第二話の公開が今日か明日の予定です。
推敲なしの第二話を先行公開します。残りの終盤はまだ書いていません。現在2800文字くらいです。
ラブタイムトラベル
第二話。歓迎されない同級生。
今は五月上旬のゴールデンウィーク。俺は中学二年の頃のクラス同窓会へ出席する為、自家用車の軽自動車を運転して高速道路を使い、住んでいるアパートから二時間かけて中学卒業まで暮らしていた地元へと到着した。
俺の生まれ故郷。もう戻ることはないと思っていた。今の俺の年齢は二十八歳。中学卒業以来だから、十三年ぶりか……。
高速道路を降り、一般道をしばらく運転して同窓会が開催される居酒屋へ到着。時刻は六時。同窓会の開始予定時間は六時三十分。
駐車場に車を止めて店の入り口へ。扉の前には、本日貸し切りの看板が置いてあった。
店内へと入る。入ってすぐに店員が近づいてきた。店員に同窓会の予約で来たと伝える。
「唯《ゆい》ちゃーん。同級生の人来たよー」
店員が雑談をしている数人の女性の方を向いて名前を呼ぶ。その中の一人のがこちらを見て、嬉しそうな表情を見せた。
「斉藤く〜ん。来てくれたんだぁ」
その女性が俺に手を振り近づいてくる。その場に残った女性達は、俺を見るなり眉をひそめて怪訝《けげん》な表情をした。
「久しぶりだね。来てくれてありがと」
「いや、まぁ、うん。立花のお願いだからな」
「あはは。斉藤くん、丸くなったね〜。中学の頃とは別人だよ」
「それはそうだろ。もう二十八だぞ。落ち着かない方が変だろ」
「それもそっか」
立花唯《たちばなゆい》……中学の頃、俺に気さくに話しかけてくる唯一の同級生だった。二年の最初にたまたま席が隣になった。それだけの関係から立花とは仲良くなった。
立花唯とは中学を卒業してから会ってはいなかった。もちろん連絡先も交換していない。
今年の四月、たまたま偶然にも、温泉旅行中の立花唯が俺が働くスーパーマーケットに立ち寄った。そして俺に気づいて声をかけて来た。その時、彼女は強引に連絡先の交換を要求してきた。仕方なく交換した。
俺が仕事中だったので、連絡先の交換だけで立花唯は去って行った。もう会うことも、連絡を取り合うこともないだろうと思っていた。
だけどその日の夜に彼女から連絡があり、今回の同窓への参加をお願いされた。
「斉藤君、まずは会費からお願いね」
俺は財布をポケットから取り出して今回の幹事の立花唯に会費を渡した。
「ありがと〜。斉藤君も同窓会楽しんでね〜」
ニッコニコな笑顔の立花唯。彼女との会話がひと段落した時、店の出入り口の扉が開く音がした。
「あっ、宇華《うか》だぁ〜。久しぶりだね。来てくれてありがと〜。将悟《しょうご》君もありがとね」
店の入り口を見ると、美男美女が二人、扉の前に立っている。
「宇華っ、宇華。今日はね、なんとぉ〜、斉藤君も来てくれたんだよ〜」
立花唯が扉の前に立っている二人に俺のことを伝えた。
「立花さん、幹事お疲れ様。会費支払うね」
誰が見てもイケメンな男性が立花に話しかけた。
「え? あ、うん。そうだね」
「俺と宇華の二人分。はい」
「将悟君ありがと」
立花唯が将悟から会費を受け取る。
「じゃあ、僕たちはみんなに挨拶に行くよ。立花さん、また後で。宇華、行こうか」
「……うん」
二人は同級生たちがいる店の奥の方へ行った。
「斉藤君……今日、宇華と仲直り出来るといいね……」
「……」
「あの……ね、斉藤君。宇華と将悟君は三年前に結婚して夫婦になったって……知ってる?」
「いや、知らなかった。だけど……二人の雰囲気でそうなのかなとは思っていた」
俺の幼馴染、月野宇華《つきのうか》。今は結婚しているから、将悟の苗字に変わっているのだろう。貞松宇華《さだまつうか》になったのか……。
宇華と将悟が結婚をしていた……俺が中学を卒業して地元を離れ、現在住んでいる街でスーパーマーケットで働きながら一人暮らしを始めた。そして今。十三年の間に宇華は恋人を作り結婚をしていた。
宇華にも人生はある。結婚していても不思議ではない。
宇華達夫婦の後から続々と同級生が店に入って来た。立花唯は新たに来た同級生の対応を始めた。俺は忙しそうにしている立花に声はかけずに、店の奥へ移動した。
店内には十人程度の同級生がいる。俺が入り口から移動しても誰一人、話しかけてこない。
俺はカウンター席の隅に座る。カウンター越しの厨房にいる店員から、飲み物の注文を聞かれたので、コーラを頼んだ。
俺が来てすぐに、店内は中二の頃の同級生で満席になった。俺の隣のカウンター席だけが空いている。
同窓会の始まりの挨拶を幹事の立花唯が始めた。ハキハキと笑顔で話をしている。
「それでは、みんな今日は楽しんでね〜。かんぱ〜い」
立花唯の号令で同窓会が始まった。料理はある程度各個人に用意されている。俺の目の前にも刺身や天ぷらなど、美味しそうな料理が並んでいる。
周りの同級生は開始前から盛り上がっていた。分かってはいたが、俺には誰一人話しかけてはこない。
「斉藤君〜。ちゃんと飲んでるぅ?」
「飲んでるよ。コーラをね」
黙々と料理を食べていると立花唯が話しかけ来た。そして俺の隣の空席に座った。手にはビールジョッキを持っていた。
「ビール飲もうよ〜。久しぶりに会ったのに〜」
「立花、もう酔ったのか? 俺は車で来たから酒は飲まない」
「そっか、それなら飲めないね。じゃあ、私が代わりに飲んであげるぅ」
そう言ってジョッキに半分ほど入っていたビールを美味しそうにグビグビと飲み干した。
「ぷはぁ〜。美味しい」
「そうか、よかったな」
楽しそうに過ごしている立花。俺は席を立った。
「……あれ、斉藤君、何処に行くの?」
「トイレ」
「は〜い」
トイレには誰もいなかった。俺は個室に入った。
「将悟は今は東京にいるのか。へぇ」
「うんそう。仕事の都合上便利だしね」
個室に入ると、トイレに人が入って来た。一人は宇華の旦那の貞松将悟だ。
「将悟のやってる経営コンサルタントって儲かるのか? ブランド服着てベンツに乗ってるだろ? 腕時計も高そうだな」
「うん、儲かるよ」
どうやらトイレに入ってきたのは二人らしい。
「それにしてもさぁ、何でアイツがいるんだ? 将悟もそう思うだろ?」
「アイツって、斉藤?」
「そう、斉藤祐一。ソイツ以外いないだろ。誰だよ、呼んだやつ。場の空気が悪くなるだろ。呼ぶなよな」
「幹事の立花さんが呼んだらしいよ。立花さんが旅行先で偶然会ったらしくてさ。あの二人、仲良かっただろ?」
「そう、それ! なんで斉藤と仲良いのか意味が分からん。斉藤は存在自体が迷惑な糞ヤンキーなのにさ。さっきも自ら進んで斉藤の隣に座ったよな? ムカつく。超可愛い立花が、斉藤と仲良くしているのは許されることじゃない。斉藤の何処がいいんだ? 俺の方が万倍はカッコいいよな」
「あれじゃないかな? 斉藤が一人ぼっちでいたから、可哀想になって隣に座ったんじゃない? 俺達は誰も歓迎していないから誰一人斉藤に近づかないからね」
「……はぁ〜。空気読んで帰れよなぁ。斉藤祐一の居場所はココには無いのに、いつまでいるんだ? マジでさっさと帰れよなぁ〜」
……二人は明らかに俺が個室にいると気づいている。敵意を剥き出しにして俺に口撃をしている。
「そろそろ戻ろう。トイレで憂さ晴らししてもつまらだろ」
「将悟がそう言うなら戻ろうか。あーあ、早く帰れよなぁ」
二人の気配が無くなった。俺は個室から出て手を洗い、トイレから出ると、幼馴染の宇華が目の前にいた。
「あ……」
思わず声が出てしまった。宇華と目が合うが、宇華は一言も喋らずに女性用のトイレへと入って行った。
俺はカウンター席へと戻った。隣の席には立花唯がいる。さらに隣の席に男性がいた。立花に何か話しかけている。なんとなくだが、立花唯が嫌がっているように見える。
「立花、俺はそろそろ帰るよ。じゃあな」
「え? 帰るの?」
立花唯に話しかけていた男性に睨まれた。立花唯の隣の男性は先程トイレで聞こえた声の主だ。
睨んでいる男性を無視して俺は店を出た。そして駐車場へと向かった。
「ちょっと待って、待ってよ。ねぇってば、斉藤君」
「どうした? 何か用か?」
外へ出た俺を立花唯が追いかけて来た。俺は車に乗ろうと運転席のドアを開けたが、車に乗らずに扉を閉めた。
「斉藤君、久しぶりに会ったから、もう少し居て欲しい」
「……あ〜、悪い。明日仕事だから帰るよ」
「もう少し居てもいいでしょ? ねっ。まだ宇華とも話してないでしょ?」
「俺は宇華と話をするつもりはない。気を遣わせたな。悪い」
「私のことは気にしなくて良いよ。でも……ホントにいいの? 斉藤君と宇華は幼馴染なのに……」
「……なぁ、立花」
「ん? 何?」
「おまえってさ、良い女だよな。可愛いし、性格も良い。いや、中学の頃から、良い女だったな」
「ふぇ!? な、なななっ、何!? 急にどうしたの!? 斉藤君ってキャラ変したの!? お酒飲んでないよね!? 素面だよね!?」
立花唯は俺の発言に驚いている。外は薄暗くなってはいたが、お酒で少し赤くなってる彼女の顔は良く見える。その顔がさらに赤くなった気がする。
——第二話はもう少し続きます——