• に登録
  • 異世界ファンタジー
  • 現代ファンタジー

ありえるかもしれない未来(フルル先生ルート)

 朝、仰向けになっている自分の身体の上にふとん以外の重みと温かさを感じる。
 気になってゆっくりと目を開けると、桃色の髪がぴょんっとふとんの隙間から覗いていた。

「すぴー……」
「…………」
「すぴぴー……」

 わざとらしい寝息の声が布団の中から聞こえる。明らかに狸寝入りをしているな……俺が起きたのを察して、上に乗っかっているのが恥ずかしくて寝たふりをしているのだろう。

 昨日は『いつもはボクがやられていたけど、今日はボクが攻めるもんね!』と俺の上にまたがって宣言していた彼女だったが、結局最後はいいようにやられていたのを思い出す。

 胸のあたりが熱くなる。おそらく顔が当たっているのか、真っ赤になっているのが見なくても分かった。
 俺はそっとふとんを上げる。

「すやぴー……」
「……起きてるのバレてるぞ、フルル」
「…………ぉ、はよぅ……」

 蚊の鳴く様な小さな声と共に、顔を上げた彼女の頬はやはり真っ赤に染まっていた。

「昨日あのまま寝ちゃったんだねボク……あはは」
「可愛かったぞ」
「か、かわっ……もう、揶揄う奴はこうだー!」
「ちょっ、ははっ! 脇腹くすぐるなって!」
「むぅ~! こちょこちょこちょこちょ~!」

 照れ隠しに脇腹をくすぐる彼女、ぞわっとくるこそばゆい感覚に俺は思わずふとんを蹴とばしてしまう。
 まるで子供のような体躯に、ふわっと香るミルクのような甘い匂い。いつまでも触っていたいもちもちの肌が朝日で照らされて少し輝いている。

「あっ、おふとん!」
「いいだろ? どっちにしろ起きるんだし」
「でも恥ずかしいじゃないか……ほらっ、あっち向く!」
「今さらだと思うんだが……分かったよ」

 ふとんを素早く身体に巻き付けた彼女が顔を真っ赤にしながら後ろを振り向くように言ってくる。怒った彼女もまた可愛らしいが、怒らせすぎると一日口を聞いてくれなくなる……それは流石に避けたい。
 
「んしょ……っと。いいよ」
「あいよ……ってパジャマ着たのか。このあとシャワー浴びるってのに」
「一緒にお洗濯するからいいの。ほら、君が先にシャワーを浴びてくるんだ」

 ぺしぺしと俺の腰を叩きながら彼女がへにゃっと笑う。あまりの愛らしさに、俺はつい意地悪なことを言ってみる。

「一緒に入らないのか?」
「うにゅっ!? ……絶対遅刻しちゃうから、今日はだめ。簡単な朝食の用意しておくから、さっさと行く~!」
「ははは、はいはい」

 顔を真っ赤にしながら腰をぺしぺし叩く速度が上がる。俺は彼女の言葉に従って、汗だくになっていた身体をシャワーで一通り洗うのだった……

 白パンに、ベーコンと目玉焼きとキャベツ。そして横には彼女のお気に入りのコーヒー……時間が無いというのに、ここまでの食事を用意してくれる彼女は本当に献身的だと思う。

 『美味い』と『ありがとう』を言う事が、俺が今出来る精一杯のお返しだろう。あとで皿洗いは絶対に俺がやる。

 ゆったりとした時間が流れる、コーヒーの良い匂いを嗅いでいるとふと昔のことを思い出した。

「そういえば、俺たちが最初に会った時もコーヒーの匂いがしていたっけ」
「あったねぇ……全身血まみれで死にかけだった君を一晩中看病していたっけ。徹夜明けでコーヒー飲まないと寝ちゃうからって入れてたような気がするよ」
「ははっ、今思えば無茶をしたと思うさ……でも、間違ってなかったと今でも胸を張れる」

 俺は手元にあった新聞を眺める。そこには『シアン・クライハート王女、戴冠』の見出しと共に、シアン姫が厳かに王冠をアンデルセン王から受け取っている絵が描かれていた。

「君がこの国の未来を守った。紆余曲折もあったしどうにもならないこともあったけど……今思えば、ボクはもしかしたらあのときから惹かれていたのかもしれないね」

 コーヒーのお代わりを入れながら、そう恥ずかしそうに彼女は笑った。『君はどうなんだい?』と向かいの椅子に座った彼女がそう聞いてきたので、俺も視線を宙にさまよわせながら昔のことを思い出す。

「そう、だな……初めての試合で負けた時、膝枕されていたときに……かもな。孤独から救い出して、自傷の念を優しく解きほぐしてくれた。あの時は感謝の気持ちが大きかったが、あの時初めて『他人に対して優しい気持ち』を持てた」
「もう、照れるなぁ~」
「今の俺が出来たきっかけは、いつもお前だったよ」

 だから、変わらずお前を愛してる。そう真剣な顔で言えば、ぽーっとした顔で頬を赤く染めるフルル。
 しばらくすると、見惚れていたことを自覚して慌てる様にコーヒーを飲んで『あちっ!』と舌を火傷していた。

「もう、もうっ! ほんとに……困った生徒だよ君はっ!」
「『元』生徒だろ? フルル先生」
「君も王女様もずっとボクの生徒だったのは変わらないよ! ボクの……愛すべき生徒さ」

 そう言って花が咲く様な笑顔を見せる彼女。ああ……俺は、彼女のその優しさに惹かれたのだ。

「おっと、そろそろ準備しないと。遅れちゃうよ、タイタン先生?」
「それはお互い様じゃないか? フルル先生」
「そうだね、じゃあ今日も一日がんばっていこーっ!」

1件のコメント

  • この話を読めて良かったと思った方は、提案をして下さったhakuraiさんに賛辞を送っておいてください
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する