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てりやき人間バーガー(Ⅱ)

(続きです)
 私は一軒家だけど独り暮らし(お掃除が大変!)。両親は隣の市だけど徒歩十分の『お味噌汁が冷めない距離』に住んでいます。
 木曜日の夜九時頃、お風呂を上がると服を着る前にダイニングルームに向かいました。何故そういう行動に出たのかは覚えていません。
 そこで急に気分が悪くなって、その場に倒れたのです!

 転倒! みたいな激しい倒れ方じゃなくて、立っていられなくなってうずくまり、そのまま床に横倒しになったのです。とはいえ意識も朦朧として、自分がどういう状況かはっきりとは分かりませんでした。ただ、お風呂上がりで体も拭いていないので、床が水浸しなのを感じました。
 これ、本人としては悲惨でしたが、まあ笑い話だと思ってくださいな(笑)。

 ようやく起き上がったのは、体感では三〇分後くらい。
 独り暮らしって怖いですね。何かあっても救急車とか呼んでくれる人がいないから。って、よく考えたらハダカだった。人がいなくて良かった!
 ところが、この時になって、ダイニングの惨状に気付いて茫然としてしまいました。どうやら倒れた時に、テーブルをググッと押しのけたようなのです。テーブルの下にはたくさんの瓶を置いていたのですが、ことごとくなぎ倒されていました。その中の一つ、お醤油(一リットル)がほぼ満タンだったのに倒れてカラになっている。床に拡がる大きな水溜まりは水でなくてお醤油?
 クンクン、お醤油臭い……

 ここで自分が水浸しじゃなくてお醤油浸しになっていることに気付きました。倒れていた時は五感がマヒしていたのか気付かなかった!
 てりやき、人間のてりやきだ! 焼いていないけど。ただしあくまで『人間』バーガーです。私、決してポークでもビーフでもありません、キッパリ(笑)
 もう一度、お風呂に入る? でも、お風呂上がりにまた倒れたらエンドレス? う〜ん、でも入らないわけには。

 結局、(当然ながら)お風呂に入り直しました。今度は倒れませんでした。
 と言ってもフラフラな状態。二階の自室まで昇れそうにない。むしろ無理に階段を上がって転落でもしたら? そう思い、まずは体を拭いて服を着てからダイニングの隣のリビングのカーペットの上に横になりました。

 それからどれだけ経ったのか? 一時間くらいでしょうか。実際のところは分かりませんが。少しマシになった私は階段を昇り、やっと自室まで辿り着いて眠ることができました。ダイニングの悲惨な状況は放っておける状態ではありませんでしたが、体力的に対処不可能でした。
 病気でここまでの体験をしたのは初めてです。まあ、世の中にはこれとは比較にならないほど大変な病気の人もいるでしょうから、私は幸運だとは思いますが。
 かなり楽になったのは午前三時頃。ダイニングに降りてお掃除しました。この時、ふと思うのですよ。

 ―― 私、今、何やってんだろう? ――

 虚しい時とか惨めな時、ビミョーな時とかで、ふと我に返る瞬間ってありますよね。
 そして翌朝の金曜日、もちろん会社は休みました。

 ということで、一週間近くも家に居ながら、小説の執筆がまったく進みませんでした。時間があるからと言っても、それどころじゃなかったんです。ずっと寝たきりで起きるのも辛い状態でした。

 金曜日は母が家に来てくれました。お掃除とか色々やってくれてありがとう! でもお母さん、私が片付けをする前の、あの悲惨な光景を知らないでしょう? お掃除が絶望的になるほど散らかっていたわけではないのですけど「何か事件でもあったのか?」と思わずにはいられないような様相だったんですよ。まあ事件ではありますけど。

 そして夜。
 出たんですよ、Gが!
 そう、G! 黒光りしてカサカサ蠢く闇の使者です。独り暮らしを始めてほぼ一年、ずっと見たことがなかったのに、とうとう出現したのです。お醤油のせい? 一〇分後、台所は殺虫剤まみれになりました。
 しかも謎の黒い物体も発見。これ、初めて見たけど、確かGの卵? ち、地球に持ち帰るミッションとか受けてないよお(半泣き)! ティッシュでつまんでトイレに流しました!

 土日もずっと寝たままで、月曜日はようやく(辛うじて)出勤できるようになりました。会社に行くと、まだ病欠の人もいました。
 そして、泣きそうになりながら、溜まった仕事を片付けていると、同僚の一人が私の耳許で衝撃的な情報を囁いたのです。

 カンピロバクター菌。
 最初に高熱が出て、腹痛などが起こる。潜伏期間や発病期間は個人差があり様々だが一週間になることもある。加熱処理が不充分な鶏肉から食中毒が起こりやすい。

 お前かあああ〜〜〜‼

 ついに真犯人が登場!
 更に教えてくれた追加情報として、実はあの時の飲み会に参加した三部署から総計七名の病欠者が出て、特に私と同じテーブルだった四人は全滅だったそうです。まさかの集団食中毒!

 後日、私からそれを聞いた母は「どうして訴えないの?」と憤っていました。しかしみんなお人好し(単に面倒とも言う)なのか、誰もお店を訴えたりはしませんでした。まあ、今更証拠も残っていないでしょうけど。でも場合によっては事件として新聞に載ったのかなあ。

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