俺は宿泊先のホテルに帰ってきた。
「参ったな……」
ダルメシアン大佐から、支度金として百億帝国マルクの小切手を渡された。
『戦艦の武装を強化しておくように』
――だそうだ。
つまり、内乱が起った場合は、ローエングリン侯爵の旗下に馳せ参じるようにということだ。
俺はローエングリン侯爵派に組み込まれてしまった。
親父に超空間通信で連絡をすると、ジャガイモが高く売れたことを喜び、ローエングリン侯爵派に組み込まれたことを怒った。
親父としては、中立でいるつもりだったそうだ。
『父上。気持ちはわかりますが、既に帝都は開戦前夜です。日和見は許されません』
『ぐぬぬぬ……』
結局、親父は今の状況を利用して、さらに食料を売りつける算段を始めた。
領地で準備するそうだ。
さすが領主! しっかりしてるな!
俺はダルメシアン大佐から受け取った百億マルクで戦艦ジャガーノートを強化することにした。
とはいえ、宇宙艦隊の工廠は、ローエングリン侯爵旗下の艦隊整備で一杯だ。
民間のドックを探した。
すると、帝都から一光年先の星系に空きのあるドックを見つけた。
ドックの名前は、クルップ工廠だ、
戦艦ジャガーノートでワープして、クルップ工廠へ向かう。
「うわ……」
クルップ工廠を見て、俺は呆れた声を上げる。
ドックは大型で、宇宙戦艦も余裕で入渠できるサイズだった。
それはいいのだが……。
ドックの周りには、宇宙船の残骸が散らかっていて、ジャンク屋といった様相を呈している。
ここで宇宙戦艦の武装強化が可能なのだろうか?
クルップ工廠の親方であるクルップは、宇宙ドワーフといった外見の頑固そうな親父だった。
帝国軍で働いていたが定年退職して、民間工廠を開店したそうだ。
「ほう! ドレッドノートか! 良い船を持ってるな! メンテも行き届いている!」
クルップ親父は、戦艦ジャガーノートを褒めてくれた。
俺は機嫌を良くする。
「ありがとう。帝国軍の払い下げだけど、乗組員みんなで大事にしているよ」
「ドレッドノート型は、貴族趣味的な美麗さはないが、拡張性が高いんだ! ベースの設計が良いんだよ! 古くたって、まだまだ使える船さ!」
「拡張性が高い……。それは知らなかった!」
俺はクルップの親父さんと意気投合した。
次の日から、戦艦ジャガーノートをどう改装するかをクルップの親父さんと打ち合わせた。
ダルメシアン大佐とも連絡を取り、内乱になった際の艦隊編成も教えてもらった。
俺の船団は、独立の補給部隊として動くことになるそうだ。
「……となると、防衛力の強化か? エンジン周りの装甲を厚くして、エネルギーシールドの予備ジェネレーターを組み込むか?」
俺は堅実な案を口にした。
クルップの親父さんは、口を尖らせる。
「まあ、それも悪くねえ。対空兵装を増やして、艦載機を寄せ付けないようにするとかな!」
「不満そうだね?」
「面白みがねえ」
「ん……確かに……堅実すぎる。実運用で切り札的な武装が欲しいな」
独立部隊として運用するならピーキーな性能の方が好みだ。
そもそもジャガーノートは戦艦で、元から装甲が厚く防衛力は高い。
武装を強化したい。
俺の言葉に、クルップの親父さんが考え込む。
「切り札的な武装ねえ……そんな物は……あっ! あったな!」