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【あとがき】新釈ナルキッソス

大変今更ですが、『新釈ナルキッソス』で第五回こむら川朗読小説大賞に参加させていただきました。評議員の皆さんお疲れさまです。そしてお誘いありがとうございました!「君の物語が読みたい(意訳)」と言われては書くしかない。

折角なので、あとがきとして設定と裏話を残しておきます。何かの参考になれば幸いです。自分用備忘録を兼ねているのでやたら長い。

以下、ネタバレがあるのでご注意を。『新釈ナルキッソス』本文はこちらから。
https://kakuyomu.jp/works/16817139557985405321


■お題の解釈とか執筆の背景とか■
お題は「男性の一人称小説」、なんとかして奇をてらいたい反骨心から、男性の心が自身の女性の身体に恋をする話になりました。どうよこの拗れっぷり。こういうことあってもいいよねとは前々から思っていたので、割とあっさり決まりました。

男性の一人称小説を巡る三人称視点の話にして「これが『男性の一人称小説』小説だ!」と言い張ることも考えたのですが、初心者に小説内小説は難易度が高すぎた。

評議員さんと自分の好みに沿ってブロマンスにしようという気持ちもあったため、1人しかいないけど男女CP!見た目男女CPでもブロマンス!見ようによってはBL!という仕上がりに。「僕」と「私」はGLと見れないこともない。全部網羅。作者としては一応ブロマンスのつもり。

当初は「僕」と「私」のいちゃラブハッピーライフにするつもりでしたが、どうしても「僕」が苦しんでいるイメージが沸くし、文字数が足らない。あと身の回りのことを色々投影しているので私小説っぽくて恥ずかしい。

「僕」が苦しんでいるなら何らかの自傷行為に繋がるはず。よし、首を絞めよう。自分に刺さるものを書くのが創作のコツらしいし。Wikipediaで「扼頸(素手での首絞め)による自殺はまず不可能」という文を見て無限の可能性を感じたので、セルフ扼殺を目指しました。

さらに文字数を増やすためにナルキッソスの神話からネタを拝借しようとした結果、丸ごとパ……オマージュして新解釈現代版に。現代版と銘打っておけば神話ネタを堂々と使えるし、フィクション度も上がって恥ずかしくない。一石二鳥。

不純な動機で怒られないか心配になり、多少の誠実さを見せようと図書館で原典の1つらしい変身物語を借りました。ナルキッソスとエコーの直前が「女の体はいいぞ」みたいな話で、今から書く話もある意味そんな感じだしなと開き直りました。新釈ってつけときゃ大丈夫。多分。脳裏に蘇るは森見登美彦の新釈走れメロス。タイトルはここから来ています。

2話構成で成木の葬式を書く案もあったんですが、成木の1日だけで文字数足りたので削りました。成木、命拾い。


■神話オマージュについて■
当初の予定ではオマージュする気がなかったため、意識して神話から取ってきた要素は3つくらい。
・人物名
・水面に映る自分に触れようと飛び込みかける
・やまびこ
読んでくださった方が思い思いに新釈要素を見出してくださってありがたい限り。

ナルキッソスと言えば水仙ですが、成木の二の腕を見せるべく季節をどうしても夏にしたかったので水仙は出てきません。池の周りには水仙が咲くという設定が一応あります。百合の花を印象的にしたかったので、無理に出すのはやめました。ナルキッソスは死んで水仙になったけど、成木は死んでないから水仙は出てこないということにします。


■成木について■
成木本人はあまり自覚していませんが、成木の脳内男女比は9:1。心が100%男性という訳ではなく「僕」も「私」も実は成木の心の一部である……というこだわりなのですが、めちゃくちゃ表現が難しい。とりあえず言葉遣いを柔らかめにしておきました。

「僕」と「私」を切り離した結果、慢性的に離人感があるという設定もあります。自傷で離人感が薄れます。多分伝わらない。

見た目を男性っぽくすると「私」が消え、女性っぽいものは「僕」が受けつけないので、普段着はフェミニンではないけど男性に見えることはない、くらいの塩梅。でもおめかしした恋人は見たいので、きっとパーティーとかではドレス着るし、しっかり化粧もする。そんで翌日無理がたたってぶっ倒れる。うっすら女装癖があると解釈してもいいのかもしれないと今思い付きました。

武骨な腕時計は「僕」の趣味に加えて、傷跡を隠す意味もあります。髪も傷跡を隠すためにのばしている。冒頭で念入りにチェックしているのは傷跡が残ってないか、見えていないか確認しています。

成木には手で反対側の頬(右手なら左頬、左手なら右頬)をなでる癖があるのですが、作中に出せなかった。頭洗うときに腕を交差させるようにする(右手で左側、左手で右側を洗う)と他人に洗われてるみたいな感覚になる話を思い出したので採用。他人に触れられている感覚を得ようとしている、あるいは「僕」が「私」をなでている、みたいなつもり。見た目も自分の頬というより他人の頬をなでている感がある気がする。

ちなみに腕交差させて頭洗う話、改めて調べてもちっとも出てこない。確か普段触ってる手と逆にすると脳が混乱する……みたいな話だったはず。普段から逆にしてたら、慣れて他人に触られてる感覚なくなるのかな……。


■江向について■
成木本人にそのつもりはないとはいえ、池に飛び込みそうなのはどう見ても自殺未遂。自殺未遂者への対応を調べると、死にたいと思っているかはっきり聞いたほうがいいらしいので、江向に聞いてもらいました。

さらに説教とかせず傾聴することが大事だそう。共感的な傾聴にはオウム返しがコツ。エコーにぴったり。じゃあエコーがナルキッソスを救うパターンあってもいいじゃないか。というわけであんな感じになっています。

オウム返ししかできないエコーの返事がナルキッソスには泉に映る自分の返事に思えて救われるみたいな話を読んだ気がしたのですが、探してもさっぱり出てきませんでした。何故。


■百合と首絞めについて■
百合の花びらを潰すシーンは色んなメタファーになるよう頑張ったのですが、伝わるのかさっぱり分からない。意識して書いたのは次の2つ。

①歩く姿は百合の花、ということで百合=女性と考えて、自身の女性性を否定し首を絞めて「私」を殺しているというメタファー。ぼくのかんがえたさいきょうの「セルフ扼殺」だ! ご査収ください。

②「純潔」の花言葉を持つ百合が風で散る……ってことはもうそういうことでしょ、恋人なので。首絞めに別の文脈が乗ってくる。指先に触れたのは百合の花びらではないのかもしれない。それっぽく見えるようにそれっぽい単語をたくさん使ったので雰囲気出てるといいな。女性の身体であると認めざるを得ないので、成木にとって自傷行為でもある。

手で絞めた痕は(力加減にもよると思いますが)どうやらそこまで目立たないらしい。身体=恋人なので、なるべく傷が残らないように自傷しています。

が、首筋に扼痕があると作者は嬉しいので、しっかり痕がつくよう爪を立てていただきました。首筋に点々と残る痣が吸引性じゃなくて扼痕だったら素敵だと思いませんか? 成木にとってはきっと同じ意味だ。この世の吸引性皮下出血、全て扼痕であれ。


■「好きにする」ところ■
書けない。締切10分前に勢いで無理矢理書きました。この作品が完結したのはひとえに締切のおかげ。締切は味方。参考文献を大量摂取して食傷気味になったのもいい思い出。よく書こうと思ったな。


■本当にあった怖い話■
公開して数日後、朝起きたら友人から感想LINEとカクヨムのフォロー通知が来ていた。さらに数週間後、Twitterのアカウントもばれました。

真面目に隠してなかったので当然です。この近況ノートも見ていることでしょう。


以上です!
何はともあれ完成したし感想もいっぱいで、とても楽しかったです。うっかりまた書くかもしれませんが、その時はお付き合いください。

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