いつもお読み頂きありがとうございます。
『人生はチョコレートの箱、開けてみるまで中身は分からない』フォレスト・ガンプより
皆様、如何お過ごしでしょうか? 先日の近況ノートにも書きましたが、この言葉が結構好きな私です。
人生のギフトとは、身に起こる様々な出来事だと私は思います。
先日の寒波で雪が降りまくった日本列島、私はふと、ある出来事を思い出しました。
少し以前の話です。
その日は久し振りの休日でした。貴重な冬の休日、ちなみにこの日の前日に雪が降りましたがすっかり溶けています。そこで、実は目論んでいたいた事があります。
「そうだ、温泉に行こう!」
山寄りの温泉地にはきっとまだ雪が残っているはず。平日休み、一人で絶景の露天風呂に入り、さらに贅沢にも大自然の雪を眺めながら、穏やかで優雅な休日を過ごそう。
私はわくわくと胸の高まりを覚え、夢を大きく膨らませ車を出したのです。
さて、冬の澄んだ青空の下、のんびりドライブしながら国道から田園風景の広がる県道へとハンドルを切りました。
「あれ? 少し曇って来たかな?」
急に暗い空模様となりました。ですが、この程度は天気予報の範疇です。温泉が私を待っています。冬の田園風景は、まだ一面に昨日の雪が残っており、美しい田舎道の情緒を、私に感じさせてくれていました。
と、その瞬間です。
突如、烈風が激しく吹き始め、雪が視界を塞ぐ勢いで激しく降り始めたのです。その勢いは瞬く間に増して行き、もはやブリザードの如く横殴りの雪がごうごうと荒れ狂い始めました。
「な、なんだこれ!」
凄まじい風切り音と共に車に叩きつけられる豪雪。何故に突然天候が荒れ狂い始めたのか、まるで理解出来ません。
ですが、私は冷静さを取り戻しました。何故なら温泉が私を待っています。
幸い気温的にも問題はありません。気まぐれで一時的な雪でしょう、積もるはずもありません。私は構わずに突き進みました。
「おっ、結構残っているな……」
さらに進んで低めの山間ワインディング。森林の日陰部分にあたる道路には、まだ昨日の雪が残っています。ですが、これも情緒の一環と、私は少し気をつけながら進みました。
先程からの横殴りの雪は相変わらず激しいですが、車の中はヒーターでほっかほか、おいしいホットコーヒーを飲みながら、私は冬景色を楽しみ、のんきにドライブを続けます。
「あれ? 何か変だな……」
対向車が激減しました。
進むほどに道には雪がかなり残っています。
なんだか気温がぐんと下がりました。
少しだけ、ほんの少しだけ私の胸中を不安がよぎります。
ですが、温泉が私を待っています。
暫く進み、少しだけ雪深い峠を越えて、温泉のある街に到着しました。ここからさらにリゾート風の絶景温泉施設がある山側の高所へと向かいます。付近を一望出来る素晴らしい露天風呂が待っています。
さて、さすがは急激に登る山間部、歯ごたえがあります。もはや平地と違い完全な雪道です。さらに先程からの雪はやむ気配もなく、意地わるく荒れ狂い視界を遮ります。
それでも、温泉が私を待っているのです。
「待ってろ、温泉! ふわははははは!」
勿論、空元気です。
ちょっと、いや、かなり心細くなって来ました。誰かと話したいなぁって思いました。
それでも初志貫徹。久しぶりの休日を、絶対に優雅に過ごすのです。もはや優雅とは圧倒的にかけ離れた状況ですが、認めたら負けです。行くと決めたら断固行くのです。
ごるごるごるごる。
嫌な音です。
一度少し溶けた雪がもう一度氷った雪道の上を、スタッドレスタイヤがこの様な音を奏でながら進みます。傾斜のある山道、気温も下がりマイナス突入。雪は容赦なくどんどん深くなって行きます。
そこでふと、私は思いました。
「道を間違えてないだろうか?」
そもそもおかしい。こんな過酷な道の先に有名な温泉があるのか?
大体、道幅狭くない?
というか、誰も通ってないんですけど!
一人ぼっちで山道を彷徨っている気がするんですが!
ネガティブな考えが私を襲います。
不安もどんどん膨らみます。
容赦なく叩きつけられる横殴りの雪は、私と世界を隔てる様で、自然の悪意を感じてしまう程です。
おいおい、どう考えてもおかしいだろ!
そうか、これはナビに騙されたんだ!
奴らはたまに変な最短距離を指定する!
何度、煮え湯を飲まされた事か!
というか雪がすごいを通り越してやばくない?
山道の視界は悪く、道幅は車1台分と狭く、どんどん雪は積もっていきます。
ごがごがごがごががあああ。
それでも諦めきれない私は、雪深い山道を除雪車の如くフロントバンパーで雪をかき分けながら、強引に進んで行きました。
もう。間違ってるだとか、間違ってないとか、そんな事はどうでもいい。
私は進む以外の選択肢を認めない。
やると決めたらやる、人生はそういうものだ。
既に私の第六感が、けたたましくも激しく警鐘を鳴らし続けていました。最早それは確信に近いのですが、それでも温泉が私を待っているのです。お、温泉が……。
ガガガガ、キィイイイ。
遂に、私は車を停めました。
ああ、外は荒れ狂う様も美しい雪の嵐。
積もった雪を押しのけてドアを開き、すっかり冷めたコーヒー片手に一面の銀世界を眺めました。
「だ、誰かいますかぁああああああああ!」
世界の片隅で不安を叫びました。
視界は悪く、全身に容赦なく叩きつけられる雪に優しさなどひと欠片もありません。
僅かな時間の間にも、寒風は体温を根こそぎ奪おうとします。
「お、温泉はどこだ……」
私の魂は思わず呟きました。
パ~パララ~パーパー。
頭の中ではニーノ・ロータ作曲、ゴッドファーザー「愛のテーマ」が虚しく流れていました。暴走族とは違います(笑)。
そっと車のバンパー部分を見れば、すっかり雪に襲われ、このまま進むと雪で覆われたラジエター部分に風が当たらず、最悪オーバーヒートの可能性すら見えてきます。
私は認めました。
私は負けました。
私は自らの敗北を知り、
温泉と言うささやかな夢を諦め、
ただの負け犬として、すみやかに下山を決意したのです。
この日、私は運命という存在に、悔しくも敗北を喫しました。
さて、取り敢えず悔しいから、雪深い景色と車を撮影し、「現在遭難中! ヘルプ ミー!」と友人達に送りつけました。その節はお騒がせしてしまい、誠に申し訳ございませんでした(笑)。
それから私は、狭い道で何度も切り返して、どうにかUターンをし、恐る恐る山を下りました。ちなみに相変わらず1台も対向車とはすれ違わず、少し道幅が広くなった場所に来た時に、巨大な自衛隊の除雪車の姿がありました。
「……ですよね」
夢破れ、私は温泉地を去りました。
教訓、初志貫徹も時と場合による(笑)。
さて、ここでお知らせです(^^)/
先日の予告しました近況ノート限定短編、鋭意執筆中(?)です。多分、2月上旬に発表致します。短編で終れるのかとても心配です(笑)。
ではでは、皆様、カクコン9、ラストスパート、頑張って下さいませ( ;∀;)