みなさんお疲れ様です。
そろそろ、ぶり返しが終わるのではと期待しています。
病み上がりで、いまひとつ覇気がないですが、いつものことです。
自主企画『第一回 さいかわ卯月賞』の主催者である犀川よう様からの、「もし作品を読まれておられてましたら、『感想を書きたい作品』1作にご感想をいただけないでしょうか」と、お願いはご辞退させていただきつつ、できうる限りの感想を十一作品書きました。
幻の大技と天使の技を披露した真のカレイドスターが「やってやれない事はない! やらずにできたら超ラッキー! やるとなったらやるっきゃ、ない! ない! ない~!」と言っていたのを思い出します。
一度手を出したらしまいまでやるのが、いい大人の条件です。
いい大人でありたいので、続きを読んでみたいと思います。
今回の企画には、テーマ「春」が決められています。
春ときいて、多くの人はなにを連想するでしょう。桜や花見、入学や卒業、就職、入社。出会いや別れなどが浮かぶと思います。
とくに別れやさびしさは誰もが連想しやすく、巷には辛くかなしいことはゴロゴロしているので、ネガティブな内容は書きやすいです。そんな中、いかに読者を楽しませる作品にするかに苦慮されて、応募作品は書かれていると思います。
めいき~様の『東風』は、自分語りの独白の形で書かれています。
雪が溶けて春を待つ中、もうすぐ取り壊される公園に一人でいる老人が、いまは亡き妻と子の思い出を振り返ります。親子連れやじゃれ付く猫たちの春は暖かいものだといいなと願いながら、世界から一人取り残されていく侘しさが、よく描けています。
大木げん様の『ガラスの思い出』は、現代ドラマです。七年付き合っていた彼に振られ、ガラス工房開業を夢見つつ、夜はキャバ嬢として働いていると、上司と部下の客と出会い、部下である後輩君は失恋の痛手を引きずっていた。荒療治のリハビリを兼ねて二人は期間を設けて付き合うことに。二年後、後輩くんから結婚の報告をもらい、主人公も念願のガラス工房を開業し、結婚する運びとなって終わる。読後感がいいですね。いまの時代性を感じさせつつ、大人の恋愛模様を上手く描いている所が良いです。
豆ははこ様の『ただ、きみをみる。』は大学の花見で出会った主人公と若菜君との交流を描いています。若菜君の美しさと独特な魅力に引き込まれる主人公の視点から、桜の下での会話や感情の揺れ動きが繊細に描かれています。花見の風情の中、読者は内面描写と彼への感情の変化を、主人公を通して感じられます。きれいな言葉遣いと心地よいリズムで書かれた上手さがあります。
鳥尾巻様の『画鋲』は、奥深いテーマを扱いながら、読みやすい文体がよかったです。祖父の死後、夜に怯え、眠りと死の関連性を考える主人公。眠れなくなった子供の頃、夜の魔物から自身を守るために画鋲をばらまいたり、窓辺に並べたりして結界を張った。大人になった今、再び画鋲を使うことを考えるがよく書けています。画鋲というありふれたアイテムを用いて恐怖と退治する様子だったり、独特な表現が印象的で面白かったです。
京野 薫様の『春と雪』は、擬音の表現が面白いです。美しくも不気味。祖父の屋敷にある蔵の下に住む雪と沙織との交流が描いて読者をひきつけ、結末は衝撃的です。蔵へと引き込まれ、雪に窒息させられ、生き残れば永遠に一緒にいられると告げられるのです。春と桜は、色彩と生を描くのに用いているところが上手いと思いました。
結音(Yuine)様の『月下の桜』は、詩的で美しい書き方がされています。桜の花びらが白すぎると感じて穴を掘る男と出会い、桜のために穴を埋めると、美しい紅色に変わり安堵します。愛人に話し、彼にも穴を掘ってもらい、穴を埋めると桜は紅色をつけて喜んで見せてくれるも、愛人はもういない。桜の花びらの色と人の感情との繋がりを描き、読み手に愛と喪失、美の追求を考えさせてくれる作品です。
諏訪野滋様の『純情と桜』は、喪失と再生と自己確認を描いています。大学の入学式を終え、キャンパスを歩く彼女は、恋人との別れと喪失感に苦しんでいます。偶然にも恋人に似た女性と出会い、深い感情を呼び起こすも、チャンスを振り払い、想いが確信に変わったことを確認。桜並木を駆け抜け、未来へと向かう決意を固めていく姿に、内面の葛藤と成長を感じられます。桜の花びらが、物語全体に生命と情緒を与えているところがいいです。
紫波すい様の『【短編】春の葬送』は、喪失と希望を描いてます。主人公自身が好きなウェブ作家が突然作品を削除し、消えてしまった。自分にとって非常に重要だったので、作品がなくなったことに深い喪失感を感じ、その作家の「葬送」を行い、コインロッカー前で感謝と別れを告げます。最後に、いつか再び作品を書くことを願って終わっています。内面的な葛藤と成長を読み手に感じさせてくれます。一時的にものを預けるコインロッカーは、消えたウェブ作家や再び書くことを願う期待の象徴として選ばれたのかもしれません。
時輪めぐる様の『迷子の春』は、現代ファンタジーです。大学入試に落ちて落胆した主人公が、公園で春を司る女神、佐保姫に出会います。迷子の佐保姫は主人公の助けを借りて奈良に帰り、お礼として主人公の「桜」を咲かせます。繰り上げ合格ではなく予備校で彼女ができるという、どんでん返しを描きながら、人生が再び明るくなって終わりを見せてくれたところが面白かったです
ゆげ様の『飽和。』は、多様性への理解と受容の大切さを訴えた作品です。男の娘・女装をコンセプトにしたカフェで従業員として知り合い、仲良くなった友人エミの葬式に参列し、その死と自身のアイデンティティについて思いを巡らせる様が描かれています。彼(彼女)の死と家族の反応に対する複雑な感情も繊細に書かれており、読者に深い共感を呼び起こします。
未来屋環様の『散りばめられた星たちは、まるで』は、現代ドラマ。人の弱さと強さ、失敗から立ち直る大切さを感じさせるハートフルな物語です。勤続十年の主人公は、新人部下が機密情報を含んだ資料を別の得意先に送りつけるミスを犯す。複数の目でダブルチェックすることを怠った失敗と向き合いながら、チラシ配りする美容師の女性と出会い、彼女から学び、自己反省する過程が描かれています。チラシ配りと花びらが落ちる光景が重なるところから、チラシを受け取る行為から好転していくところが良かったです。傲慢な気もちがお客様に伝わってしまったと反省し、初心に戻って克服するためにチラシ配りをして立ち直ろうとする様は、大事だと感じるし、アスファルトに散りばめられた花びらが星のように見え、夜空を見る。「まるで、日々を懸命に生きる人々の光のようだった」と締めくくられるところも良かったです。
鈴ノ木 鈴ノ子様の『再び、芽吹く』は、人生の困難さを乗り越え、新たに切り開く様を描いています。東京でキャリアを積んで働いていた眞壁頼子が脳疾患により下半身不随となり、ゆっくりとしか話せなくなり退職。愛知県山間部にある実家に戻ります。幼馴染で大工の達也と再会。バリアフリーに改修工事をしにきては関係は深まっていく。達也に地元「花桃の里」というイベントの宣伝活動を手伝ってほしいと頼まれ、彼の車で毎日支所に通い、宣伝活動に取り組んだ結果、イベントは大成功。観光協会の常勤職員として採用される人生の再生と希望を美しく描いており、まるで再び芽吹く春のように読み手に感じさせてくれます。
@zawa-ryu様の『ふうふ見ず知らず』は、突然の同居生活を始める状況に直面する様を描いています。五條大夢と五條莉乃は、互いに見知らぬ存在でありながら、生活の困難を共有し、新たな生活をスタートさせる決断をします。彼らが新しい状況にどう適応し、成長していくのか期待させられるところに、スタートを切る春らしさを感じさせられます。
春から連想される、出会いや別れや桜から、それぞれの作家さん独自の着眼点やアレンジをしながら、ときに時代性を感じさせつつ、読み手を楽しめせるよう読中読後感に工夫が凝らされていて、読んだことのないような物語を展開させているところが素晴らしいです。
本当に、面白いですね。
またぶり返してきたので、根を詰めず、のんびり頑張ってみます。
ありがとうございました。