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『ミネルヴァ』思いつき小噺

テレビでハロウィンの様子を見ていて降って来たネタです。d( ̄▽ ̄*)

 * * *

「ふーん、こんなことやってたんだ」

 私の向かいでほかほかと湯気の立つコーヒーを飲んでいた新川透が、テレビを見てふと呟いた。

 風も冷たくなってきた11月中旬の土曜日。ここは、新川透のマンション。
 つけっぱなしになっていたテレビでは『ハロウィン仮装コレクション』みたいな番組をやっていた。
 マイクを向けられた色々な格好をした人たちが、ハイテンションにインタビューに答えている。
 それを見て、新川透は声を発したのだ。すっごく珍しい。

 東京って、テレビのチャンネルが多くて少し驚いた。だから私はバラエティ番組や歌番組なんかもこっちに来てから見るようになったんだけど、新川透はあまり興味なさげなんだよね。
 私がテレビを見ている横で本を読んだりパソコンで何かやったりしながら、たまに私の話に相槌を打つぐらいで。
 だからこんな食い入るようにテレビを見るというのは、本当にレアだ。

「ハロウィン? 興味あるの?」
「いや、仮装が」
「えっ……」

 ウソ、本当にびっくり。変身願望があったなんて。
 でも確かにねぇ、普段から本性隠して当たり障りのない好青年を演じてるんだから、そりゃ現実逃避もしたくなるでしょう。うんうん。
 なんだー、意外に可愛いとこあるじゃん!

「仮装かあ。こういうお祭り騒ぎみたいになってるの、日本だけって話らしいけど本当? アメリカはどうだった?」
「この時期に行ったことはないからなぁ。でも仮装はするみたいだね、大人も。ノアが自社のパーティでダースベイダーになってた」
「ダースベイダー!? 大がかりだね!」
「顔も隠れるし居るだけでいいからラクだったらしい」
「へぇ~」

 何だか楽しそうだね。私も嫌いじゃないな、そういうのは。
 かつては私も、メイクで別人になる、なーんていう現実逃避をしていたしね。

「え、ひょっとして仮装してみたいの?」
「というよりは、せっかくそういうイベントがあるなら参加してみたいよね、来年あたり」
「参加するなら仮装は必須でしょう! ねぇ、どんな仮装をしたい?」

 やだやだ、面白い! 新川透がこんなことを言い出すなんて!
 新川透の仮装、なーんていう恐らく超激レアイベントに興味が湧いてきて、ぐいーんとテーブルの上に身を乗り出す。

 新川透は少し首を傾げると、
「何? 莉子も興味あるの?」
とややきょとんとした様子で呟いた。

「え、勿論だよ! 面白そうじゃん!」
「そう言ってくれると嬉しいな。何がいいと思う?」

 新川透がニコニコと少年のような……いや違うな、何かイタズラを考えているかのような笑みを浮かべている。
 新川透に似合いそうな仮装……となれば。

「やっぱり、魔王だよね!」

 グッと両手の拳を握りガッツポーズ。考える前に口から出た。
 いや、でもやっぱり、コレしかないでしょう!

「魔王?」
「地でイケるしね、魔王スマイル!」
「いや莉子、ちょっと分からない」
「だいじょーぶ、私の頭の中では絵が描けてる。黒いマントでー、頭に角があってー」
「ふんふん」
「美形なんだけど、冷たそうというか。カッコいいけど、怖いというか」
「へぇ」
「ラスボス感満載で。うーん、素顔でもいいけど顔の反面が異形とかの方がインパクトあるかなー?」

 わぁ、イメージがどんどん浮かんでくるわ。
 だてに普段から魔王バージョンに酷い目に遭ってないからね。……って、何の自慢にもならないけど。

 私がうんうん頷きながら語っていると、新川透は
「ふうん、なるほどね」
と満足げに頷いた。

「だいたいわかった。じゃあ来年は一緒に参加しようね」
「うん! ……うん?」

 元気よく頷いてから、ハタと我に返る。
 一緒に、参加……?

「えっと?」
「だから、ハロウィン。ちょうどね、莉子にしてもらいたい仮装があるんだよ」
「え、え、えー!? 私もやんの!?」
「そりゃそうでしょ」
「いや、だって……」
「俺一人で仮装してどうするの」

 そう言われればそうだけど、そこまで頭が回らんかった。

「参加に仮装は必須なんでしょ、莉子。言ったよね?」

 新川透がさっそく魔王スマイルで私に畳みかけてくる。

「え、あ、そうだけど……ん?」

 あれ、ちょっと待てよ? 何かどこかで間違えたかな?
 それより、これはハメられた!?

「ちょっと! ひょっとして私を誘導した!?」
「何も? 普通にハロウィンの仮装の話をしただけだよ」
「嘘だ!」
「何も嘘はついてない。最初から『イベントに参加したい』と言っている。それは当然、莉子も一緒にという意味も含まれてるに決まってるでしょ?」
「う……」
「何でそこでそう思えないのか、莉子の方が大問題」

 そう言われればそうだけどー。
 うー、こういうところが叱られポイントなのかぁ。

「そ、そうだけど……何か釈然としないー!」
「ま、1年あるし大丈夫、気持ちの整理はつけておいて。さーて、今からなら十分な準備ができるなー。俺に任せてね」
「何を?」
「莉子の衣装。ちょうど知り合いにそういうのに詳しい人間がいるから。あと顔が広いアイツも使えそうだし、ノアも……」

 何やらチャキチャキと考え始めた新川透に、思わず目を剥く。
 この人の企画なんて、恐ろしい予感しかしない!

「ちょっと! 私は新川透の魔王コスプレの話をしてたんだけど!」
「それもついでにやるよ」
「ついでじゃなくて、そっちがメインなの!」
「莉子はね。でも、俺は莉子がメイン。当然だよね」
「え、何をさせる気なの! 恥ずかしいのとかヤだからね!」

 思わず両腕で自分の身体を庇い身をよじらせると、新川透はふわりと温かい……いや、どこか甘ったるい雰囲気を醸し出しながら笑みを浮かべた。

「可愛いよー。絶対に可愛い。何しろ俺のプロデュース、俺の夢、俺の願望が詰まってる。全面的に保証するよ」
「何その圧力とその自信! 一番アテにならないー!」

 一年後のハロウィン、何が待ち受けているの……と、前のめり過ぎる新川透におののく私だった。

***

さーて、新川透が莉子にさせたいコスプレは何でしょうね? d( ̄▽ ̄*)
ということでこの辺で。お粗末さまでした。

おふざけ『ミネルヴァ』は置いておき、現在とても真面目に『FLOUT』を連載中です。
こちらもよろしくお願いいたします。

森陰五十鈴様(https://kakuyomu.jp/users/morisuzu)作
  『FLOUT』オーパーツ監理局事件記録 ~SideG:触れたい未知と狂った運命~
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