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原稿用紙五枚程のショートストーリーズ第3話「付き合いのいい奴」アップしました。

SS「付き合いのいい奴」アップしました。
本編を読んだ後、下記の裏話を読んで頂いたら幸いです。



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某公募、お題は「橋」だったので、橋をテーマに書いて見ました。
橋というのは、こちらから向こうへ、あちらからこちらへ、渡るか渡らないか、人に判断させる物でもあります。
アップしたのは講評を頂いてリライトした作品です。
リライト前の作品と講評を要約した物をアップします。
参考になれば幸いです。

リライト前
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タイトル「渡りたくない」
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「あの橋、渡りたくないなあ」
「はあ? お前何言ってるんだよ。渡らなきゃ下宿に帰れないじゃないか?」
「でも、渡りたくないんだよ。とにかく、俺は右側よりを下を向いて走って渡るからな」
 と親友の木川が訳の分からない事を言い出した。

 町には新型ウイルスの情報が溢れ、大学の三回生になる俺たちは休みに入ったとはいえ、下宿やアパートでの待機を余儀なくされていた。食料が尽きたので買い出しに出かけようと思ったが、久しぶりに飲みに行きたくなった。木川は付き合いのいい奴で誘うと必ずのって来た。お好み焼き屋で落ち合い、ビールと豚玉で腹を満たす。夜九時頃店が閉まったので、下宿で飲みなおそうと言う話になった。歩き始めてしばらくして、言い出したのだ。「橋を渡りたくない」と。
 橋は長さ十五、六メートル、幅五メートル程の小さな橋。車は通れない人専用の橋だ。駅よりにもっと大きな橋がかかっていて、車はそちらを通る。
「なあ、まさか出るとかいうんじゃないだろうな?」
「幽霊じゃないと思う。女だ。……変な女がいたんだ」
 木川はポツポツと話し始めた。
 二ヶ月程前だった。夜、駅の近くで買い物をして下宿に向かって歩いていた。橋の上に女がいるのが見えた。川面を覗き込んでいる。半袖のブラウス、薄い布地の長いスカートという出立で寒くないのかと思った。髪の長い女でどれくらい長いかというと橋の欄干の下の方にまで伸びていて毛先が見えなかった。長すぎて変な女だと思ったが、熱心に川面を覗き込んでいるので自分も覗いてみた。が、何も見えない。「何かあるんですか?」と気になって女に声をかけた。「落としてしまって」というので何を落としたのかと女の側に立ってグッと体を乗り出した瞬間、背中を押された。あっという間もなく橋の向こうに体が浮いていた。咄嗟に欄干をつかんで橋から落ちはしなかったが、買って来た食料はスーパーの袋ごと落としてしまった。なんとか自力で這い上がったものの、背中を押したであろう女は消えていた。
「おいそれ、殺人未遂じゃないか。警察には行ったのか?」
「証拠がないんだよ」
「はあ?」
「女がいた証拠、背中を押された証拠、何もないんだ。警察に言ったって、自分で落ちたんだろうって言われるのがオチさ」
 木川は誰にも言わず、それからしばらくは駅よりの橋を渡って下宿に帰った。一月もすると怖さも薄れて来たので、また、こちらの橋を渡るようになった。すると、また出た。
 今度は和服を着たお婆さんで、日本髪を結っている。今時日本髪? 随分古風なんだなと思った。木川は知らん顔して通り過ぎようとしたが、何を見ているのか気になった。相手は老婆だし、仮に押されても男の自分の方が力は強い、落ちはしないだろうと思った。好奇心に負けて川面を覗き込んだ途端、「落としたんです」としわがれた声と共に背中を押された。老婆とは思えない強い力で、欄干をしっかり握っていたから落ちはしなかったが、「何するんだ」と振り返ってもやはり誰もいなかった。以来、川面を覗き込んでいる人を見かけても、そちらを見ないで走って渡るようにしている。渡った後も後ろを振り返らない。振り返っても恐らく誰もいない。それを確かめたくなくて振り返らないのだという。
「お前、今度見かけたらスマホで写真撮って送ってこいよ。俺も見たいからさ」
「馬鹿なこと言うなよ。そんなことして写ってなかったらどうするんだ? 考えただけでも恐ろしいよ」
 俺は肩を竦めた。
 橋の上には誰もいなかった。俺は好奇心にかられて橋の下を見た。木川も川面を覗きこむ。
 ドン!
「うわあ!」
 木川が欄干を越えて落ちていった。
 水音はない。橋の下には銀河が流れていた。銀河の片隅、太陽系第三惑星に向かって落ちていく木川の魂が次第に輝きを増して行く。
「お前、こっちの世界に来るのは五十年早いんだよ。さっさと元の世界へ帰れ!」
 俺達は交通事故にあった。俺は死んだが、木川には寿命があった。元々付き合いのいい奴だったが、あの世にまで付き合ってくれるとは思わなかった。さっさと川を越えて生き返ろ。俺の分まで生きてくれ。充分生きたらこっちに来い。……ありがとうよ。

(了)

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講評の要約
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 「橋の下には銀河が流れていた。」という結末の文章は、きれいでうまいオチになっていると思います。しかし、作品全体ののストーリー展開では、そのオチが効果的な物になっていないために作品として評価されなかったということではないでしょうか。主人公も友人「木川」も生身の生きている人間ではなくて、すでに亡くなってしまった魂だというのならば、冒頭場面で描かれている、町には新型コロナウイルスの情報が溢れているなか、主人公たちがお好み焼き屋で豚玉を肴にビールを飲み、下宿に帰ってさらに飲み直そうという生活の描写と帳尻が合わないことになります。
(中略)
 ……現実に近いことを書いてしまうと短編小説にはならないということです。お書きになった作品で現実に近いことというと「町には新型ウイルスの情報が溢れ」とか、「大学の三回生になる俺たち」とか、「下宿やアパートでの待機」といったことになります。
(中略)
現実に近いこと=実在する街、地名のたぐいはできるだけ出来るかぎり書かないようにします。ショートショートに出て来る、例えば「橋」、「街」、「川」、「駅」、といったものは具体的なものとして描かれていないはずなのです。これを「両国橋」、(略)「東京駅」と書いてしまいますとショーショートにならないということなのです。
(中略)
……最大の理由は読み手によけいな予断や先入観をあたえないためだと思います。
 ○○○先生が「短編は現実を超えたところにある。」とおっしゃっているのは、短編小説=ショートショートは一種のファンタジー小説だと理解するべきなのです。「街」も「ひと」も「国」も「政治家」も「科学者」も「大金持ち」も具体的なものとして描かれていないからショートショートになっているということです。
(以上)
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今回の講評はとても参考になりました。
むしろ具体的に書いた事でオチとのギャップが面白いと思っていました。
ショートショートの書き方は勉強していたのですが、こんなふうに指摘されるまで気付きませんでした。
お金(講評代5000円)はかかりましたが、かけた甲斐があったなと思いました。

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