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読書メモ62

『祖父の祈り』 (HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 1)マイクル・Z・リューイン(早川書房)


パンデミックに襲われ荒廃した社会の中を生きる一家族を描いたお話。
主人公の祖父が特殊な経歴があって縦横無尽の活躍を見せるわけでも悪をぶったぎるわけでもない。
ただただ家族を思い、知恵とユーモアと優しさとで懸命に生きていく。だからデストピアの日常を私たちの日常と重ね合わせて、こんなふうなときがきても、こんなふうにその人らしさを損なわずに生きることができるだろうかと考えちゃいます。
パンジー・ヴァリアントの存在が良いです。
娘やマンディの身に起こったことなどはらわた煮えくりかえる要素も多々あるけど、優しいタッチで和ませてくれます。
最近、海外の小説を読むようになって、昔に比べてすごく読みやすくてびっくりしてます。著者本人の上手さはもちろんだろうけど、訳者さんの苦労の賜物だろうなと感謝する今日この頃です。



『屋根裏の仏さま 』(新潮クレスト・ブックス)ジュリー オオツカ(新潮社)


主人公は戦前に海を渡った写真花嫁たち。「わたしたち」という一人称複数で集合のように扱いながら、「わたしたち」ひとりひとりの体験が怒涛のように綴られ積み重ねられていく物語。
淡々とひたすら淡々と。膨大な取材による事実であるからこその文体で、だからこそノンフィクションではできない象徴的な、共有された運命みたいな、そういった時代の表象、みたいな。
全体の物語であるのだけど、でもそこには確実に個人が存在している、忘れてはならない個人が。屋根裏に残されていた仏さまを実際に見てみたいって思いました。リアルに存在したそれを。



『あなたの自伝、お書きします』ミュリエル スパーク(河出書房新社)


なんかもう、最初っから主人公のことが気に入らず、というか登場人物の誰にも共感できず。そもそも掴みどころがなく。これ、真面目に読んだらダメなやつ、ひたすら面白がって読むやつだ、と理解してから面白くなりました。ストーリー自体、中盤以降に事件が起きてからぐぐっと盛り上がるのですけど。
最後まで読んでも私には真相がさっぱりわからなかったけど、過程が充分おもしろいので不満ではなかったです。
感想としては、小説家っていうのはしょーもない人たちなんだろうなーとしか。読んでる間は面白かったですけど。
登場人物の誰のことも好きになれなかったけど、フラーとドティの関係性は好きです。裏を返せば、こういう自己中心的な女性たちのこと、フィクションの中では嫌いじゃないってことなのかも。友だちじゃないですしね(笑)



『本にまつわる世界のことば』温 又柔,斎藤 真理子,中村 菜穂,藤井 光,藤野 可織,松田 青子,宮下 遼(創元社)


最初の章では世界各国の本にまつわることばと既存の作品とをつなぐショートストーリーが載っててそれがすごく良かったです。
またまた読みたい本リストが膨れ上がった……。こういう紹介本みたいなのって危険だってことは分かってるのに手に取っちゃいますよね……
イラストも素敵で見ごたえがありました。



『持続可能な魂の利用』松田 青子(中央公論新社)


↑の『本にまつわる世界のことば』で『テヘランでロリータを読む』のSSがセンスが良くて素敵で、どなたが書いたのだろう~と確認したら松田青子さん。
そういえば以前にHan Luさんに教えてもらっていた! と思い出し読み始め……久々に、寝る間を惜しんで一気読みしたくらい面白かったです!

「おじさん」から少女が見えなくなるという冒頭! すごいパラダイス! こういう世界になってくれたらどんなにか安心か……と最初から拍手喝采。
作品内でいわれる「おじさん」とは『オッサンの壁』でいうところの「オッサン」と同じで、中年男性=おじさんではなく、おじさんでない男性はいるし、おじさんになってしまってる女性もいる。悲しいかな、私の中にもおじさんはいる。
そんなおじさんたちに支配された世の中で起きていること、見て見ぬふりをされ泣き寝入りさせられ、うっすら疑問に感じてはいても声に出せないこと。リアルに共感できて膝を打つ思いで、自分もこぶしを振り上げたくなる爽快感がありました。
Han Luさんと以前お話したときにネットで著者のインタビュー記事を読んでロックな方だーと感じたんですけど、本当にロック。
そのインタビューで話してた著者が空港で感じたことがそのまま本篇冒頭のシーンなのです。いつもは私、作品を補足する作者の語りには触れないようにしてるんですが、今回は図らずもこうなってしまい、でもそれで著者が書きたかったことが明確に伝わってきて良かったとも。
荒唐無稽とか唐突なラストも、女性に損な役回りをおしつけるってのはよくあることで、だから私はそれほど荒唐無稽とも思わなかったし、フィクションが持つ思考実験という役割を遺憾なく発揮した作品、だから報告とレポートなのだと私は考えました。



『ワイルドフラワーの見えない一年』松田 青子(河出書房新社)


50篇の掌編短編集。私は短編て苦手で上手く読み取れなくてなんのこっちゃってなるからなのだけど。今作はどれも面白かったです。
文章自体がすごくいいのですね、すごく。松田さんて文章のリズムで雰囲気を出すのがすごく上手くて、英文学科出身で、翻訳もたくさん手掛けているからかな、なんて。
なにより発想力がすごい。羨ましい。
「ボンド」「英作文問題」「この場を借りて」には笑ったし、「男性ならではの感性」はゲラゲラ笑えてお腹が痛かったです。文章上手い人が全力でふざけるとヤバいです。
「女が死ぬ」はとってもロックで、個人的に、死別ものってどうして死ぬのは女の子ばかりなんだ?ってもやもやしていたので、そうそう、そうなんだよ! クソクソクソ!とまたまたこぶしを振り上げつつ、お話の予想外の展開にえええええ!ってなり、ラストは謎の爽快感が(笑)
どれもメチャクチャ風刺が利いてるのに嫌な気持ちにならず読後感がいいって、すごいセンスです。羨ましい。
「ヴィクトリアの秘密」「拝啓 ドクター・スペンサー・リード様」「フローラ」はほんわかと。
「少年という名前のメカ」と「あなたの好きな少女が嫌い」と「若い時代と悲しみ」などはこれまた膝を打つ思いで最初はぷっと吹き出しつつ、読後にはしんみりしたり。
「この国で一番清らかな女」はラブコメ??? これをネタに自分でやりたくなりましたww
表題作の「ワイルドフラワーの見えない一年」は、令和版「雨ニモマケズ」だなと。こういうふうに生きていきたい、けど。

文庫版ではタイトルが『女が死ぬ』で作者の解説がついてフェミニズムを前面に出してるみたいですね。私の好みではこちらのハードカバーの表紙が好きだし内容に合ってるとも思います、個人的に。



『日本のヤバい女の子 覚醒編 』
『日本のヤバい女の子 抵抗編 』はらだ 有彩(角川文庫)


伝説や昔話、古典の女の子たちを、現代的に敢えて読み直す。著者の感性があればこそだと思いました。
フツウだったら古典を読むときには成立した当時の時代背景や思想をインプットして読み解いてくわけですけど、そこを敢えての現代的……というかフェミニズム的にさらに一歩踏み込んだ解釈を試みていて、それがしっくりきたりもして、すげえです。
天岩戸のウズメのストリップの理由なんて、まさに……って目からウロコでしたよー。
古典の女の子たちと女子会してるような気持ちになれて(四コマまんががまた秀逸)面白かったす。

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