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読書メモ58

『夷狄を待ちながら』J.M.クッツェー∥[著]土岐 恒二∥訳(集英社文庫)2003/12

老民政官が拷問で傷ついた夷狄の少女のからだを夜な夜な撫でまわすくだりの「何を読まされているんだろう……」って読み心地が、川端康成の『眠れる美女』と同じで、あーノーベル賞作家だからなぁ、と納得したワタシを赦してください。

とにもかくにもお話はおもしろかったです!
「帝国」と「原住民」と「夷狄(遊牧民族)」と。南アフリカの地誌が下敷きとのことですが、地球上のどこの地域にもあてはまりそうな関係性です。
「辺境」という舞台の閉そく感や行き場のなさ、加害者と被害者が入れ替わる暴力の容赦なさ。正義とかイデオロギーとか人間性の表層でしかないと感じる過酷なリアルさで、
ちょっとネタバレですが…………




最後、夷狄の襲来を目前に予感させながらの終焉が言葉がなくなるくらい良かったです。想像をかきたてられる、こういうラストが私は好きです。



『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』中公新書2722 秦 正樹∥著(中央公論新社)2022/10

陰謀論そのものや流布の過程とかではなく、現代日本においてどんな人が陰謀論を信じやすい傾向にあるのかを、ウェブアンケートを駆使して解析したデーターを元に論じていて、興味深い結果の数々になかなかおもしろかったし、ハッともなりました。

意外にも陰謀論的思考とツイッターの関連性は薄く、それよりも、要するに、ヤフコメ欄を賑わすような四十代以上の自分を普通の日本人だと思っている政治に関心が高く詳しい人ほど陰謀論を信じやすい傾向があるってことなんですね。
アイタタタタ、ですよね。本来、政治に関心があるって良いことなはずなのに。

〈より重要なポイントは、「誰が信じるか」よりも、「自分の正しさを支えてくれるから信じる」という陰謀論受容のメカニズムのほうにあると考えている。右派でも左派でも、特定の政党を支持する人でも、政治的洗練性の高い人でも、一定の政治的信念や「自分は政治に詳しい」という自己認識を持っているはずである。こうした信念や自己認識を持てば持つほど、自身の理解と同じ方向性の言説に飛びつきやすくなってしまうという性質を、我々はよく理解しておく必要がある。陰謀論が、自分の信念や認識の正しさを肯定してくれる「良き友人」となりうる点にこそ、大きな問題が潜んでいると言えるだろう。〉(p217より)

あとがきによると、著者は学生時代「ネトウヨ」だった「黒歴史」があるようで、当事者だった実感があってこそのアイタタな論説なのもあるのか、辛辣というよりも、身につまされてなるほどなーとなりました。気をつけねば。



『女性白書2022 コロナ禍を超え、ジェンダー平等社会の実現を』日本婦人団体連合会∥編(ほるぷ出版)2022/08

コロナ禍の入り口、学校が長期休校になった時期の大混乱を思い出しました。
私は在宅だったので対応できたけど、働くお母さんたちはタイヘンだったと思います。
このときの騒動があったから、子どもの事情で休みを取りやすくなったかなって感覚はありますが。現在もインフルエンザで学級閉鎖が多いですし……。

にしても、ニュースなどで見聞きしてはいましたが、こうしてデーターで見ると、いかに女性が不利益をこうむったかがあからさまで怒りがこみあげます。
「夫セーフティネット」の思い込み、月給10万円以下の大学非常勤講師の6割が女性、農業女性は「お手伝い」としかみなされない、中絶は合法ではあるけれど配偶者の同意が必要という困難、外国人女性労働者の妊娠への対応の冷淡さ、女性高齢者の年金の低さ。どれもこれも現状にぞっとします。

そんな中でも、「生理の貧困」の取り組み(女子トイレの個室にナプキン常備を実施した校長先生の「女子生徒に『すみません』と言いながら保健室に取りに行かせるようではダメなのですね」みたいなコメントにはじーんときました)から、更には性教育もオープンに、という活動には大いに賛成です。こういう取り組みが日本でもあたりまえになってほしいです、ぜひ。



『日本の知、どこへ どうすれば大学と科学研究の凋落を止められるか?』共同通信社「日本の知、どこへ」取材班∥著(日本評論社)2022/06

文科省なにやってんのじゃあ!と怒りがわくくらいの愚策の数々。海外の悪いとこだけ真似してどうすんの、いいとこ取りしなさいよ!って。
優秀な人材を適材適所で活躍させてあげることもできないってもどかしいばかりで、才能を無駄にするなんてほんと口惜しい。
欧米の大学院では博士課程の学生に月給まで出すのに、「投資」ってコトバを知らないのか。
かつては大規模な研究所を構えていた大企業も、長くとも五年で結果を出さなければ株主に文句を言われるから、長い目で見なければならない基礎研究をどこもやめてしまった。十年を目安に、失敗しても次、と考える米国企業と大違いです。
長い目で見てコツコツ地道に成果をあげていくのが日本人が本来得意とするところだろうに、いつからこんなに余裕のない短絡的な社会になってしまったのか。悔しさまで感じます。

そんな中で、在野で活路を見出す研究者たちや、大学全体として地域連携、とくに三重大学の「社長100人博士化計画」はいいなって思いました。
中小企業の社長さんは中卒高卒が多い、そもそも勉強が好きじゃなかったりやんちゃしちゃった結果だったりってイメージがあります、私のまわりを見る限り。
行動力が勉強に向かなかっただけなので、現場で必要性を痛感し向上心が学問に向けばものすごく有意義な結果が出るのだと思うのです。期待大です。



『日本にレイシズムがあることを知っていますか? 人種・民族・出自差別をなくすために私たちができること』原 由利子∥著(合同出版)2022/08

在日外国人、被差別部落の人びと、アイヌ民族、琉球・沖縄の人びとを攻撃する差別の実情。
なんでこんなヒドイことをするんだろうと、極端な行動を起こす人たちに怒りを感じるのだけど、そこにいたるまでの感情や言動を煽るかのような社会の在り方に目を向けなければ差別はなくならないのだとしみじみ実感。現にエライひとたちの差別発言はなくならないのだし。
一個人として、どこから、なにから始めればいいのか途方に暮れるのですけど、まずは子どもたちに、それはおかしなことなんだよ、と小さなことから教えられるよう、自分が認識を改めなければ、とつくづく感じる今日この頃です。

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