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『冷たい戦争の終わりに』完結

『冷たい戦争の終わりに』が無事に完結しました。終わりまで世界観と空気観を壊すことなく書ききれただろうかとだいぶ心配していましたが、今のところはご好評いただけたようで胸をなでおろしております。

というのも、この『冷たい戦争の終わりに』のネタが最初に書かれたのはなんと僕が大学生時代のお話で、記憶があやふやで確定はできませんがたしか異文化交流論だったかの枠の時でした。その時はスコルト王国の正式採用小銃はM16A1をブルバレル化、ハンドガードの材質と形状変更がなされたM16S1というものでした。その後、この極寒の寒冷地でM16の初期モデルはどうなのかとなっていき、これは短機関銃がUziであることからかの国と繋がりがあるという設定となってガリルの導入につながりました。
そうしてこの『冷たい戦争の終わりに』を書き始めてだいたい出来上がった頃には、たしかもう学生ではなかったのですが、このお話の終わらせ方を思いつくことができずにずーっとフォルダの奥底で眠らせていました。実を言えば、7話と8話の間には実に数年の年月が封入されているわけです。告白すると、僕はターヴィのあのシーンを書いたあたりで一度燃え尽きてこの戦争からさよならバイバイしたわけですね。なんという敵前逃亡。しかし僕は戻ってきて、第8話を書き始め、塹壕で震えて戦って、そうやって死ぬお話を書きました。登場人物たちの生みの親でもありながら、そうして考えると作者である僕というものは、どうしたって死神のような存在のような気がしてなりません。



感謝をしたいのは、これを書こうと思ったうえで今でも強烈に頭に残っている二つの本と作家についてです。



一つはマーセル・セローの『極北』です。村上春樹訳の単行本。僕はこれを書店で衝動買いしました。その名を体で表すかのような真っ白な単行本。その上側には山並みの影がみえ、そして頼りないほど小さなドットが一つ。そのドットが人間の影なのだと思ってしまうが、よく見るとそれはただ筆をちょこんとおいて書かれたような点にすぎないのです。手が吸い込まれるように伸びましたね。そして読みました。ポストアポカリプスで雪と寒さと人の温もり、そして暴力と欲望。それがおそらく原点の一つです。

もう一つはゲイリー・ポールセンの『少年は戦場へ旅立った』です。これは単行本にしては薄い本ですが、中身は濃密でどうしようもないほどに戦争しています。時代はアメリカ南北戦争、年齢を偽り15歳で軍に入ったチャーリー・ゴダードが各地の激戦を見て、感じ、体験し、そしてひたすらに生き続ける。これほどまで濃密で残酷で、目の前で少年が少年でなくなってしまう、少年のままではもはや居られない現実が少年を変えていく物語を、僕は古本屋の105円コーナーで見つけました。それがなんだか歴史の果てに忘れられた墓標の扱われ方のような感じもして、お得感もありとなんだかしんみりしたようなしなかったような気がします。

僕はこの二つの本とその作家、そして翻訳してくださった方々に感謝します。もちろん、僕の投稿した物語を読んでコメントしてくれたり、レビューをしてくださった方々にもいっぱいいっぱい感謝しています。それらがなければこのお話を完結させようという決意は生まれませんでした。本当にありがとうございました。

1件のコメント

  • 本当に素晴らしい話でしたが、執筆秘話も大変良かったです。
    死神、なるほど……

    生み、殺す。それは死神ではなく神なのでしょう。

    大変心に来ました。


    この二冊、そのうちの一冊をご紹介いただいてありがとうございます。
    本作は非常に心に残る忘れられない物語でした。

    僕の世界観にも多大な影響を残すと思います。
    これからもえるすさんの筆から描かれる世界を楽しみにしております。
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