• 異世界ファンタジー
  • 現代ファンタジー

SS:傷跡

 逆三角形に並んだ図形があるとなんとなく人の顔のような気がしてくる、シミュラクラ現象と言うらしいが、風間さんはそれのせいで未だに悩んでいるらしい。

「始まりは子供の頃神社で遊んでいたことから始まるんです」

 始まりは彼が小学生の頃、神社で遊んでいた頃の話から始まる。彼の年齢からすると数十年前のことになるだろう。

「神社で遊んでいたんですが、運が悪かったのか本殿にサッカーボールをぶつけちゃったんです」

 別に誰かにバレたわけでもない、ただ一人で遊んでいたところ、たまたま壁にぶつけていたボールを受け止め損ねて背後の社にぶつけてしまったらしい。

 その場はそれだけで済んだのだが、彼はその神社に自転車で来ていた。当時はロードバイクなどと言うものはほぼ無く、ごく普通のママチャリだったそうだ。だからこそ、頑丈が取り柄の自転車が突然チェーンが外れてタイヤがロックしたのには驚いた。

 勢いをつけていたところでタイヤがロックしたので自転車から放り出されて脛をすりむいた。当時は子供が怪我をすることなど珍しくもなく、半泣きで帰宅した時も、傷を洗って軟膏を付けられて終わりだった。そんな治療とも呼べない治療でいいのかという声もありそうだが、なにしろ昔のことだ、抗生剤を塗ってきちんと傷を覆うような処置をする時代ではなかった。

 そのせいで彼の膝には傷跡が残ってしまった。現代の治療をすれば傷が残らなかったかと言えばそれはどうか分からないが、とにかく血が止まって傷が塞がったのだが、膝には少しばかり模様が残った。

「その傷跡なんですが、こんな感じなんですよ」

 彼はジャージの裾をめくり上げるとその傷跡を見せた。そこには大きなシワが三つ残っていた。大きめのシワが上の方に二つ、その下に曲がったシワが一つあった。

 本人曰く、顔に見えるそうだが、曲がったシワのせいでなんだか悪意のある笑みを浮かべているように見える。しかし気のせいで済むならそれだけのようにも見える。

「確かに少し顔のように見えるんですが……気のせいのような気も……」

 私の歯切れ悪い言葉に彼は首を振った。

「問題はこの傷跡なんですが、初めは三本の横線だったんです。こんな風に歪んでいたりしなかったんです。それが徐々に曲がってきて、笑っているような顔に見えるでしょう?」

 確かにそんな風に見ようと思えば見える。

「なにか実害があるのでしょうか?」

 彼は苦々しい顔で言う。

「私はバイクと車の免許を持っているんですが、どちらも乗れないんですよ。教習の時はなんともなかったんですけどね。免許を取って路上に出ると足が意識していない動きをするんです、迷惑な話ですよ。幸い壁や電柱にあててしまいバイクと車を一台ずつ廃車にしましたが、誰にも怪我をさせなかったのが幸いですね」

 どちらも直線の見通しの言い道路で、運転を誤るような場所ではない。車の時はブレーキを突然足が力一杯踏んで、バイクの時は足で操作する後輪ブレーキを不意に踏んで後輪がロックした。おかげで転んでしまったそうだ。幸い車でやらかしたのでプロテクターは厳重に付けており、怪我こそしなかったものの、それ以後バイクや車は運転しておらず、免許証はただの身分証としての役割しか果たしていないそうだ。

「あの時素直に神主さんでも呼んで謝っておけば良かったと思っています。ま、もう全て手遅れなんですがね」

 そう言って彼は自嘲気味に笑った。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する