• に登録
  • 現代ファンタジー
  • ホラー

近條愁羽の怖談ノート2(一部抜粋)

崖の上の座敷牢

 私たちの街を走る私鉄三津岡鉄道の明保野町駅から徒歩3分ぐらいのところに秋葉山という里山がある。標高で言うと100mほどの小さな山だ。明保野町の奥の方、明保野四丁目は秋葉山の南側に面し、石垣の斜面に戸建てが立ち並ぶ一角になる。そこは見晴らしも良く、駅まで数分なのに閑静で、ちょっとした高級住宅街という雰囲気だ。敷地の中にきちんと収まる車はどれもメルセデスやアウディといった高級車が並んでいる。そんな明保野四丁目のさらに奥、高い石垣の塀の上に、異様に突き出た「箱」のような部屋がある。
 その石垣の上に建つ家の一部だと思われるその箱のような部屋は、縦2m、横4mほどの直方体の部屋で、石垣の崖から1mほど空中に突き出しており、道側は全面ガラス窓になっている。一応その窓は開閉できるような構造になっているようだが、木の板でバッテンに塞がれており、いつでもカーテンが閉められ中の様子を覗くことはできない。確かにあの大きさの窓を開けたりしたら転落の危険があるだろう。
 近所の住民の中では、敷地の面積が足りずに突き出してしまった倉庫の一部だろう
とか、あれはガレージだとか色々言われているが、まことしやかに語られる噂としてあれは”座敷牢”なのだという。
 カーテンの隙間から覗く子どもを見たとか、女が閉じ込められているとかいう噂だ。あんなに目立つように崖の上にあるのに、木の板が打ち付けられ、汚れた黄色とオレンジのチグハグなカーテンの向こう側に何があるのか誰も知らない。
 その崖の上に建つ家は宅地造成される以前から住む住民で、あまり人付き合いを好まない老夫婦が住んでいるという。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する