魔力ゼロ(誤診)の公爵家三男に転生したら、魔力が見えたので全力で鍛えてみた件

宙野たまき

プロローグ 目覚めたら赤ん坊だったけど、俺には“魔力”がある(確信)

気がついたら、目の前がぼやけていた。

声は聞こえるし、触れられてる感覚もある。

でも、身体はまるで言うことをきかない。声も出ない。


……これはもしや……転生ってやつじゃないか?


ラノベ歴二十数年、40代独身サラリーマンだった俺は、状況を瞬時に理解した。

これは――完全に異世界パターンだ。


---


それから一週間。

俺はただただ、赤ん坊の体で“内側”に意識を向け続けた。

何かがある。何かが、あるはずなんだ。


五感を閉ざし、ただ静かに、自分の中を見つめる。


そしてついに――見つけた。


淡い光を帯びた、どこか温かい流れが、深部に存在していた。


(……あった……魔力だ)


確信はあったが、実際に見つけたときは涙が出そうになった。


---


そこからさらに二週間。

ほんの少しだけ動かせるようになった指先と、鍛えられた集中力で、

俺は魔力の“使い方”について考え続けた。


だが、ここで問題がある。

ラノベではよくあることだ――魔力の使いすぎで死ぬ。


赤子の身体で魔法を撃つなんて、無謀以外のなにものでもない。


(……なら、放出しなければいいんじゃないか?)


思い出したのは、太極拳の“気”の考え方だった。


出すのではなく、体内を巡らせる。


血液のように、全身に魔力を循環させることができれば――

それは使うのではなく、育てるという方向性になるのではないか。


---


俺は毎日、魔力の流れに意識を集中した。

初めのうちは、思うように動かせなかった。

すぐに滞ったり、逆流しかけたり、どこかで詰まったりもした。


けれど、少しずつ慣れていく。

流れは自然になり、徐々に身体の隅々まで行き渡るようになった。


気がつけば――


魔力が、見えるようになっていた。


---


最初は自分の中を流れる魔力だけだった。

けれど、ある時ふと、体の外――皮膚の周囲に、薄くゆらぐ膜のようなものを見つけた。


(……これ、なんだ?)


明らかに自分の魔力ではある。

けれど、魔力を流しているだけのはずなのに、外に“滲んで”いるようにも見える。


(……残滓、か?)


流れの中で削ぎ落とされた、余分な魔力。

不要な成分、もしくは磨かれたことによって分離した何か。


そう仮定したとき、ひとつの疑問が浮かんだ。


(……なのに、俺の中の魔力、減ってる感じがしないな)


むしろ、流れは前より太く、なめらかになっている。

魔力そのものが――


少しずつ増えているのでは?


確証はない。けれど、その感覚は確かにあった。


俺は、赤ん坊の身体で、静かに目を閉じる。


ゆっくりと、けれど確実に、魔力は今日も流れ続けていた。

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