第25話 蛮族王子、細かいことは気にしない




「くっ♡ わ、私の敗北だ♡ この身も心も♡ 全てエルト少年に捧げよう♡」


「オ、オレもお前の女になるから♡ 好きにしてくれよ♡」



 衣服が乱れ切った姿で敗北を宣言したのはメイラとルイシャだった。

 【ファイナルブレイブ】でも特に権力を持つ皇妃と聖母を堕とせたのは大きい。



「エルト君、お疲れ様でした♡」


「ご主人様、カッコよかったわ♡」


「そう褒めるな」



 フェリシアとネルカが俺をヨイショしてきて、気分がよくなる。


 皇妃と聖母を堕とした今、もう政治面でも武力面でも俺はネドラ帝国を自分の思い通りにできてしまうのではなかろうか。


 ……いや、何事も慢心はよくないよな。


 常に傲らず油断せず、慎重に行動することが長生きの秘訣だ。


 と、その時だった。


 不意に部屋のドアを誰かがコンコンと軽くノックしてきた。

 メイラとの行為中も誰かがノックしてきたし、同じ人物だろうか。


 服を着てドアを開けると、そこには三人の美女と一人の少年がいた。


 美女はノレア、ルナ、セラ。


 少年に関しては【ファイナルブレイブ】の主人公改めリオンだ。



「む。なぜ勇者がここに?」


「ドアから部屋の中を覗こうとしていたので止めたんです。エルト様の楽しい時間を邪魔してはならないと思いまして」



 ノレアが笑顔で言う。



「ぼ、僕は……」


「そう言えばアンタ、アタシたちとの約束破ったわよね?」


「あーあー。酷いよ、リオン君。これはお仕置きが必要だね?」



 そう言ってネルカとフェリシアが笑う。


 リオンは言い訳をする間もなく、そのまま二人に捕まってしまった。



「約束? 何のことだ?」


「あー、そりゃアレだろうな。リオンの奴、エルトの話を誰にもしないって約束してたんだよ」


「うむ。リオン少年は約束を破って私たちに貴殿の話をしてきたのだ」


「……なるほど」



 リオンが逃げ出した後、しばらく帝国が動かなかったのはネルカたちが暗躍していたからか。



「ふふ♡ よく似合ってるよ、リオン君♡」


「アンタにはお似合いね♡」



 どうやらお仕置きが終わったらしいフェリシアたちの方を見る。


 そこには服をひん剥かれたリオンがいた。


 ただ服をひん剥かれたのではなく、見慣れない腰装備を付けている。


 あ、あれは……。



「あ、ルナが作った貞操帯なのです!!」



 ルナが嬉々として指差した。


 リオンがフェリシアたちに装備させられたのは魔導具の貞操帯らしい。

 何故そんなものを作ったのか、細かいことは聞かないが……。


 同じ男としては気の毒だな。



「ど、どうしてこんなもの……」


「だってアンタ、アタシたちのこと覗き見してたんでしょ? 何をしようとしてたのか知らないけど」


「そうしておかないとナニをしでかすか分からないもんね?」


「っ」



 リオンの表情が見るからに曇る。


 前に会ったのは俺が逆襲してバンデッド城の牢屋に入れる前だったが、こうも暗い顔をする男だったろうか。



「あ、あの、メイラ様、ルイシャ様!!」


「う、うむ。助けてやりたいのは山々だが、私はもうエルト少年の女になってしまったからな……」


「つーか、ネルカたちとの約束破ったのはお前だろ。反省しとけ」



 リオンが救いを求めると、メイラとルイシャは冷たい反応を見せた。

 

 ああ、何故だろうか。


 奪ったヒロインたちが揃いも揃ってリオンを拒否する姿に蛮族魂が疼いてしまう。


 と、その時だった。


 何やら外が騒がしくなり、兵士たちの怒声が聞こえてきた。



「ん? 何の騒ぎだ?」


「あらあら、惚けておられるのですか?」



 何か異常事態でも起こったのかと思って首を傾げていると、事情を知っているらしいノレアが話し始めた。



「これはエルト様の野望、世界征服のための第一歩です」


「……は?」


「今日、ネドラ帝国の名は地図から消え、バンデッド大帝国となるのです♡」



 は? え、どういうことだ!?


 ノレアが何を言っているのか理解できず、内心で軽いパニックに陥る。


 そこで俺はハッとした。


 そう言えば、前にアンリとの会話で「世界征服でもしてみようかなー」みたいなことを話したことはある。


 でもあれは冗談で言ったのだ。本気ではない。


 しかし、この冗談を聞いたアンリがそうのは思わなかったのだろう。



「と、となるとこの騒ぎは……」


「そう、帝都にボクのホムンクルスたちが攻めてきたのさ」



 ホムンクルスの創造主、ユラが得意気に大きな胸を張って言った。


 俺は窓から外の様子を見る。


 要塞を守るためにルナに作らせた魔導具、魔法を撃ち出す魔法銃で武装したホムンクルスたちが帝国兵たちを蹂躙していた。


 まさに破竹の勢いである。



「ルナの作った魔法銃が大活躍なのです!!」


「そ、そうだな。よくやったぞ、ルナ」


「えへへ、エルト兄様に褒められたのです♡」



 さて、どうしたものか。


 ここで「あれは冗談で〜」みたいなことを言ったら完全に空気がしらけてしまうだろう。


 ……よし。


 なってしまったのは仕方ないし、むしろ国を奪うのもバンデッドの感覚で言えば最高の略奪行為だろう。


 俺は細かいことは気にしないことにした。



「じゃあ、世界征服を始めよう」



 俺はそれっぽい雰囲気を出して宣言する。


 すると、それを見たフェリシアたちが各々全力で俺をヨイショしてきた。



「世界征服……♡ エルト君の野望、全力で応援するよっ♡」


「流石だわ♡ ご主人様っ♡」


「あぁ♡ エルト様、素敵です♡」


「エルト兄様っ♡ ルナも頑張ってエルト兄様をお支えするのですっ♡」


「ホムンクルスたちも更に改良しないとね♡ 天才錬金術師であるボクに任せてくれ♡」


「エルト少年が世界征服なんて大それたことを考えていたなんて♡」


「男らしすぎて惚れ直しちまうぜ♡」



 ノリと勢いは大事だな。



『うーむ』


「……」


『なーんか主殿、適当に話を合わせた感じがするのじゃ』



 剣だけあってやたら鋭いメルトレインは、後で記憶が飛ぶまで抱いて口封じしておこう。


 俺は戦場に変わり果てた帝都へ飛び出した。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「ノリと勢いは大事。でもやってから後悔することもあるから、一旦踏み留まって考えることも大事」


エ「急にどうした……?」



「リオンをどこまで追い詰める気だ……」「正直、最高です」「この作者、賢者時間だろ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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