第17話 蛮族王子、問題に直面する




 リオンの家族を堕とした翌日。


 俺はノレアの公爵家としての伝手を使い、ネドラ帝国の皇帝に急ぎの会談がしたい旨を連絡した。


 ネルカを救出したことで俺のことを気に入ったのか、その日の午後には時間を作って話す場を設けてもらえることに。


 実にありがたい。


 せっかくのチャンスなので、存分に利用させてもらおうと思う。



「件の賊が出る森の近辺に砦を作りたい、か」



 皇帝が唸るように呟く。


 流石は大国をまとめる為政者とでも言うべきか、俺の相談内容を端的にまとめていた。


 俺はこくりと頷く。



「あの辺りは以前から賊が多く、少なくない商人や旅人が被害を受けているとお聞きしました」


「うむ。おそらくは国が把握していない被害者もいるであろうな」



 おお、鋭い。皇帝の言葉は正しい。


 バンデッドの人間が獲物を逃すことはごく稀で、大抵は皆殺しにする。


 獲物を仕留め損なうのは年に数回くらいか。


 それでも他国に比べて国内の治安がいいネドラ帝国では十分多いと言っていい被害だ。


 いやまあ、実際は数え切れないくらい凄まじい数の被害者がいるものの、それを把握する術は帝国にはない。


 だからこそ聖女改めフェリシアのような大物が襲われでもしない限り、国は動かない。


 そこに突け入る隙がある。



「これは俺の自己満足かもしれません。しかし、どうしてもやりたいのです。賊による被害を少しでも減らせるなら、やるべきだと俺は思うんです」



 熱意を込めた俺の言葉に皇帝は唸った。


 聖女を危険に晒し、勇者が返り討ちにする賊が出るような場所だ。


 皇帝としても無視はしたくないのだろう。



「そなたの考えは分かった。しかし、砦を作るのも安くない金がかかる。人手も必要になるだろう。採算が取れるか分からぬものに国は金を出してやれぬ」


「そこは私が解決しますわ、皇帝陛下」



 ノレアが手を挙げて意見を述べる。



「砦の建設に関わる費用も人員も、全て我が公爵家が出します。陛下にはただ許可をいただきたいのです」


「……ふむ。であれば、余としても止める理由がないな。好きにするとよい」


「ありがとうございます、皇帝陛下!!」



 俺は内心でニヤリと笑う。


 これで堂々とバンデッド王国がネドラ帝国とやり合う際に使える砦を建設することができる。


 あとは公爵家の金で資材を集め、人員はユラのホムンクルスで補い、俺の前世の知識を使ってルナに重機等の便利なものを再現させればいい。


 それだけで強固な砦が作れるだろう。


 いっそ巨大要塞でも作ってやろうかと考えていた、その時だった。


 皇帝がまさかの言葉を放つ。



「ふむ、いちいち余に許可を取っていては時間の浪費であろう。あの辺りの森付近一帯をそなたの領地として与える。好きに使うとよい」


「!? よ、よろしいのですか?」


「元々領主のいない皇室直轄地だ。迷惑を被る者もおらん」



 最高。最高だよ、皇帝陛下。


 これで何をするにしても「俺の領地なので」の一言で好き放題できる。


 俺は大喜びで要塞作りに乗り出した。


 しかし、そこで俺たちは思わぬトラブルに見舞われる羽目になる。








 数日後。



「金が足りない、だと?」


「も、申し訳ありません、エルト様ッ!!」



 ノレアが土下座で許しを乞うてきた。



「謝罪はいい。さっさと説明しろ」


「は、はい。どうやらエルト様の領地に要塞を作る話を聞いた商人たちが結託し、資材の値を吊り上げているようで……」


「……そういうことか」



 商人とは厄介なものだな。


 バンデッド王国なら殺して奪うところだが、ここはネドラ帝国。


 殺人はご法度である。


 どうやってこの問題を解決しようか、俺は必死に頭を捻った。


 しかし、あまりいい解決策は思い浮かばない。



「はいなのです!!」


「ルナ、何か名案でもあるのか?」


「エルト兄様が人々のためになることをしようとしているのに、商人たちが自分の利益のために邪魔をしていると噂を流すのです!!」


「……ふむ」



 ルナの言う通り、今のところはそれしか取れる手段がない。


 だが、その方法では時間がかかりすぎる。


 もうそろそろ占いやら何やらでリオンの死体を偽装したことがバレてもおかしくはない頃合いだしな。


 可能なら早急に問題を解決したい。


 と、そこで人化したメルトレインが心底面倒臭そうに呟いた。


 その一言が、この問題を解決に導く。



「莫大な金があれば、値上げされようがお構い無しに買えるんじゃろうなー」


「……そう、だな。その手があったか」



 俺は思わずメルトレインの言葉に頷いた。



「メルトレインの作戦で行こう。まずは大金を手に入れて、値段を気にせず購入すればいい」


「ですが、そのお金が公爵家には……」


「ああ、だからその金を二倍三倍、上手く行けば十数倍にすることができる方法を使う」



 ノレアたちはピンと来ない様子だったが、それも仕方ないのかもしれない。

 俺が取ろうとしている手段は褒められたものじゃないからな。


 しかし、今はとにかく金が要るのだ。



「ノレア、帝都の地下カジノへの招待状は手に入るか?」



 ネドラ帝国の帝都には地下カジノがある。


 先代の皇帝がギャンブルで国庫を傾かせたことがあるため、現在の皇帝は賭博を毛嫌いしており、一般的には認められていない。


 ところがどっこい、いつの世にも法を無視する輩は一定数いる。


 そして、俺には【ファイナルブレイブ】の知識がある。

 勝つことが決まっているギャンブルほど、稼げるものはないだろう。


 俺はニヤリと笑った。



「の、のぅ、主殿♡ よく分からんが、妾がいいこと言ったのじゃ?」


「ああ、お前の一言のお陰だな」


「で、ではご褒美を所望するのじゃ♡ 優しくいじめてほしいのじゃ♡」


「……仕方ない女だな、お前は」



 俺はその夜、メルトレインを優しく可愛がってやることにした。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「カジノと言えば?」


エ「え、急に何だ?」



「皇帝がやらかしてて草」「カジノで荒稼ぎするのか」「カジノといえば――バニー!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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