第2話 蛮族王子、修行する




 俺がエルト・バンデッドに転生して十年の月日が経った。



「お見事ですね、エルト様。まさか私の攻撃を全て捌くとは」


「あ、ああ、ありがとう」



 アンリが木剣を肩でトントンしながら感心したように言う。


 怖い。


 今は鍛錬の真っ最中、アンリによる攻撃をひたすら躱して隙を見てはカウンターを放つだけの修行だった。


 正直に言わせてほしい。


 このアンリという美少女は手加減というものを欠片も知らない。


 めちゃくちゃハードな鍛錬だった。



「今日はここまでにしましょう。今日はバンデッド国内に他国の者が侵入してきたそうですし、略奪日和ですから」


「あ、そ、そう。気を付けてね」


「はい。では行ってきます」



 ルンルンと鼻唄を歌いながら完全武装して出掛けて行くアンリ。


 彼女の行動はバンデッド王国での常識だ。


 同じバンデッド国民ですら略奪強奪何でもござれな感性をしている。

 他国の人間が国境を越えようものなら、お祭りのように騒いで襲撃しに行く。


 いや、そもそもバンデッド王国自体、どの国からも承認されていない自称国家だ。


 明確な国境など存在せず、とにかく縄張りに近づいた獲物は何だろうと襲いかかるやべー連中の集まりである。


 本当に蛮族すぎると思うの。



「……でもま、やっと一人になれたな」



 俺はすぐにバンデッド城を抜け出した。


 バンデッド城は城というより砦と表現した方が正しいだろう。

 強ければ何をしてもいい、を地で行く蛮族のくせにやたら文明は発展していると思う。


 まあ、当然っちゃ当然だ。


 バンデッド王国では大工職人を拐って色々とものを作らせているからな。


 なまじ堅牢さのある城なので、こっそり抜け出すのも一苦労である。

 ではわざわざ城を抜け出して俺はどこに行こうと言うのか。


 答えは秘密の修行場――バンデッド城付近にある小さな森だ。



「さて、今日も魔力を鍛えるぞー!!」



 魔力。


 それはこの世界の生き物を始め、石ころにすら宿っている力だ。


 この力を完璧に操作することで魔法が使えるようになったり、身体能力を強化したりすることができる。


 まあ、魔法は専門知識が必要なので使えないが。


 俺はこの世界に転生して早い段階から魔力という存在に目を付けていた。


 【ファイナルブレイブ】はエッチなシーンも然ることながら、王道的なコマンド戦闘システムもプレイヤーから評価されている。


 ただその簡単な操作性からか、単純にステータスの高いキャラが強い。


 【ファイナルブレイブ】には何十人ものヒロインがいて、その中から主人公を含めた四人を選んでパーティーを組むシステムだ。


 好みのヒロインのステータスが低くてパーティーに入れられず、好感度が上がらないこともしばしばあったしね。

 そのせいでエッチなシーンを逃がしてしまうことも何度かある。


 っと、話が逸れてしまった。


 要するに基礎的なステータスを高めることが強くなるために必要なのだ。


 そこで俺はこの過酷な森の中で限界まで筋トレしたり、魔力を鍛えまくって各ステータスを少しずつ伸ばしてきた。



「ふん!! ふん!! ふんぬぅ!!」



 筋トレしながら魔力を限界まで練り上げ、その魔力で肉体を強化する。


 身体に負荷をかけた状態で更に筋トレするのだ。


 全身の筋肉が悲鳴を上げるが、もうこの痛みにも慣れてしまった。


 気にせず鍛錬に集中する。



「ふぃー。俺もレベルアップできるなら、鍛錬もここまでしんどくないんだろうけどなー」



 ゲームの主人公、勇者やそのパーティーメンバーであるヒロインは敵を倒すことでレベルアップすることができる。


 しかし、それは女神の加護を受けた勇者とその仲間だからこそできること。


 やられ役の蛮族王子にそんな便利システムは適用されていないのだ。

 俺にできるのは地道な魔力の鍛錬と筋トレ、あとは剣術等の技術面での修行を頑張るくらいだろう。



「もうゲーム本編開始まで時間がないし、もっと強くなる方法を探さなくちゃ……」



 十年も努力してきたのだ。


 正直、今のままでも十分な気はするが、何事にも万が一ということはある。


 打てる手は打っておきたい。



「……あっ」



 その時、俺はふと思い至った。


 主人公ら勇者一行がバンデッド王国に立ち寄るのは魔王を倒す聖剣が眠っているからだ。



「その聖剣、俺が頂いちゃってもいいのでは?」



 何故この十年の間に一度もこの考えに至らなかったのか。


 聖剣は戦闘中に使うとステータスを二割増しにするバフ効果がある。

 上手く使いこなせば主人公らとの戦いを有利に進められるかもしれないはずだ。


 思い立ったが何とやら。


 聖剣が眠っているのは俺が鍛錬に利用しているこの森の奥地だ。


 俺はルンルン気分で走り出した。



「待ってろよ、聖剣!! 主人公には悪いが、俺が丁寧に使ってやるからな!!」



 と、そこまで言ってからハッとする。


 どうやら俺は自分でも無意識のうちに蛮族メンタルを宿していたらしい。


 聖剣は本来なら主人公の武器。


 やられ役の蛮族王子である俺が使っていい武器ではないのだから、謙虚な気持ちを忘れずに使わせてもらおう。


 そうして辿り着いたのは、古びた遺跡だった。



「お、おおー、ゲームで見たままだな……」



 遺跡の入り口は古代の魔法で封印されている。


 その封印を解くためには合言葉を叫ぶ必要があるのだが、この合言葉を知るために幾つかの面倒なクエストをこなさねばならないのだ。


 いやまあ、俺はゲームの知識としてその合言葉を知っている。



「女神様、超かわいい!! 超うつくしい!! よっ、宇宙最高の美女!!」



 言っておくが、ふざけているわけではない。


 この女神を称賛する言葉が遺跡の封印を解く合言葉なのだ。

 その証拠に遺跡の封印が解かれ、ゴゴゴという音を立てながら入り口が現れる。


 遺跡の中に入り、道なりに進むと一振りの聖剣が刺さった台座のある部屋に辿り着いた。


 俺は聖剣に手を掛け、勢いよく引き抜く。



「おお、これが聖剣か」


『おい、貴様!! 汚い手で妾に触れるでないわ!!』


「!?」



 聖剣を手に持った瞬間、頭の中に少女の声が響いてきた。



「え? え? 誰!?」


『妾は聖剣メルトレイン!! 女神様に作られし神具なのじゃ!! お主のような下等な人間が触れていいものではないのじゃ!!』



 俺は思わず困惑する。


 【ファイナルブレイブ】では聖剣が喋る展開はなかった。


 一体何がどうなってんだ!?


 事態を飲み込めずにいると、不意に聖剣が俺の手から離れて地面に突き刺さり、人の姿へと変化する。



「ただの人間の分際でこの妾に触れようとは言語道断!! 成敗してくれるのじゃ!!」



 人の姿へと変化した聖剣は、やたらとスタイル抜群の美女だった。


 まじでどうなってんの!?






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「聖剣が人化したらグラマラス美女一択よ(異論は認める)」


エ「異論は認めるのか……」


作者「人の数だけ性癖はある」



「アンリもしっかり蛮族で草」「まじで蛮族の国かよ笑」「迷言やな」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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