第8話 凍道チャンネル「本能寺の変正親町天皇黒幕論④」
「じゃ、以上の仮説を持って最初のこれに戻ろうか」
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①事件を起こした動機には触れても、黒幕とされる人物や集団が、どのようにして光秀と接触したかの説明がない。
②実行時期の見通しと、機密漏洩防止策への説明がない。
③光秀が謀反に同意しても、重臣たちへの説得をどうしたのかの説明がない。
④黒幕たちが、事件の前も後も、光秀の謀反を具体的に支援してない事への説明がない。
⑤決定的なことは、裏付け史料がまったくないこと。
「まず①の事件を起こした動機や光秀との接触方法。光秀は長年朝廷との交渉役だったから余裕っていうか、これ前提が”光秀と密に連絡を取れる特定の公家がいない”みたいな話でさ。正親町天皇以下朝廷全体が動いてるならどうとでもなるよこんなのは。そもそも光秀が足利義昭に仕えていて信長に鞍替えしたのも、将軍を次に擁立する、つまり次期将軍になりそうな家を探してたんじゃないかな。朝倉義景は上洛できそうにないから見切って、信長は上洛したから。でもまあ信長は将軍家に興味なんてなかったわけだけど」
『十七箇条意見書スッ』『父上にも追放されたことないのに…ノッブ許すまじ』
「次に②、実行時期の見通しと機密漏洩防止策の説明について。まず実行時期は、秀吉が信長に援軍を求めた時点で見通しが立つ。当時、織田家臣団で兵が浮いてたのは明智くらいだからね。あとは正親町天皇が京に信長と信忠を呼び出すだけだ。次に機密漏洩防止策について朝廷とは、日本で最古の組織だよ。日本最強の諜報術くらいは持っていてしかるべきじゃないかな。御庭番衆とかさw。それは冗談にしても、天皇っていうのは祟りという面でみても最強なんだよね。だから、もし漏らしたら祟りにあうとか、この書面は読んだらすぐに燃やさないと祟りにあうとか、不幸の手紙みたいな命令でも正親町天皇の名で書いておけばみんな従うでしょ。崇徳天皇もそうだし、古くは長屋王の変で藤原四兄弟が一気に全滅して東大寺の大仏を建立したときとかも祟りだって話になった。要するに天皇の神威を元にした日本人の思想というのは、言うことを聞かないといけないし、逆らったり、しいたてまつったりすると恐ろしい祟りにあう、というものだ。これが日本人に根強いからさ、あれって自然に発生した病気とかに事後孔明で祟りとかいってもここまでにはならないから、それこそ先に予言するくらいしないとこんなに祟り思想は根付かない気もするけど……」
不意にカンがなにかを閃きそうになる。藤原四兄弟、予言、祟り。手元の思いつきメモ帳に単語だけメモしておく。いつもなにか引っかかった単語はこうしてメモする癖が子供の頃から続いている。今はスマホという便利なものがあるから、メモ帳は持ち歩かなくて良くなった
『祟りのだ』『呪うのだ』『お前は一体今まで何体のずんだを食べたのだ』
「っと、何の話だっけね」
『なんの話だっけね』『やっと戻るのだ』『今花山天皇の話してたのだ』
話が脱線してしまっていた。何かを思いつきそうになると脱線することが多いが、視聴者もなれっこだ。ほそぼそとやっているこのチャンネルに今も来てくれてる300人は、2年近くずっと来てくれている固定客が多い。
「③光秀が謀反に同意しても、重臣たちへの説得をどうしたのかの説明がない。これは簡単だね。いきなり謀反しろって光秀の命令だと家臣も従わないだろうが、これは勅令である!って言って、書状を見せれば済む。正親町天皇が黒幕なら、光秀の家臣団を従わせるのは容易い。浅井長政が信長を裏切ったあと、グダグダしてたのも、正親町天皇からいきなりやれって言われて裏切ったけど、信長が無事だった場合の計画が無かったからじゃないかなって。スパイはね、バレると慌てふためいてバカみたいな事するからね」
「④黒幕たちが、事件の前も後も、光秀の謀反を具体的に支援してない事への説明がない。これは、朝廷が黒幕だとすると、下剋上をした光秀よりも、信長の敵を討った秀吉のほうが絶対に収まりがいい。最初から光秀は主君信長を討つ汚れ役だった、とかどうかな。一応、光秀は本能寺の変のあと朝廷から征夷大将軍の内定を貰ったという説がある。吉田兼見の二冊目の日記だね。そして、朝廷から光秀は裏切られた……秀吉こそが朝廷の本命で光秀は都合よく利用された。山崎の戦いは秀吉の圧倒的な戦力で踏み潰したって感じだし、光秀は首塚があるくらいだから、案外天海になって逃げてるかもね。たとえば秀吉に騙されたとかなら恨み言を言えるだろうけど、まさか正親町天皇に騙されたなんて言ってもしょうがないだろうし」
『なんで秀吉に白羽の矢が?』
「うーん。そうだなあ、突拍子もない閃きで行くと、たとえば秀吉は親指が一指多かったと言われてるのと、秀吉は自身の出自を落胤、つまり正親町天皇の子だったと自称していた。当然、これは下層民出身の秀吉が法螺を吹いたと見るのが通説なんだが……仮にどちらも事実だったとすればどうだろうか?ちょっと考えてみよう」
『無理のだ』『さすがにそれはない』『ふむ、どうぞ続けてのだ』
黒板にメモを取る
・秀吉は一指多かった
・秀吉は正親町天皇の落胤だった
「もし当時の正親町天皇に一指多い子どもなんてものが生まれてしまったらどうだろうか?天皇とは『穢れのない神性』を権威としてきた。そんな天皇家から、ヒルコのような子どもが生まれたとあっては『穢れのない神性』が崩れてしまう。かといって、正親町天皇の子ではあるのだから、殺すわけにもいかない。そうなると、出産自体をなかったことにして母子を追放するしかないんじゃないかな。いやもちろん、可能性はすごく低いのはわかってるんだけど、中国大返しの情報の速さや、周りの対応は、秀吉が本能寺の変を知っていてあらかじめ準備していたんじゃないかとさえ思える。光秀を討ち、織田家の後釜をいただく美味しい役を朝廷に用意されたとすれば、案外本当に落胤の生まれなのかな、と」
『関白の座をいただけるなら……なんでもします』『ん?』『ん?』
「そうそう、秀吉が関白におさまったのもね。正親町天皇の子だったと仮定すれば、武家である将軍職ではなく、朝廷職である関白にこだわった理由も理解できる。また、そんなヒルコのような一指多く生まれた秀吉には、天下こそ与えたものの、けしてその血を残させてはいけなかったはずだ。秀吉が種無しだったのではないかっていうのは有名だよね」
『身長190の秀頼が生まれてもいいじゃないですかあああ』『夜のお祭りで仏様のご加護が……ネ』
「これも、秀吉が落胤でヒルコであったなら、血を残すことは許されず、たとえば種無しになる薬を飲むことで天下を貰えることになったとか。そんな薬ないか?通説だとなんだっけ?この時代で種無しになりそうな病気ってなんだっけ」
『何回種無し言うのだ』『おたふく』『ムンプス』
「ああそうそう、ムンプスウィルスね。おとなになってからなると、無精子症になるっていわれてるやつ。不幸にもこの病気になっちゃったのかもしれないし。あとは、子どもを全部こっそり暗殺されてたとか。でもあんだけ側室がいて、やりまくりで、子どもができないんだからやっぱり種無しだよなあ。おたふく風邪にさえかからなければ100人の秀吉チルドレンが家康なぞ……」
『戦いは数だぜ兄貴』『100人いても大阪城ごと燃やされそう』
ん?また気になったので「秀吉 おたふく」とメモしておく
「あとはそう、秀吉ってこの時代には珍しく男色じゃなかったんだよね。信長も家康も家臣を抱いてるし、それはこの時代には普通のことだったんだけど、秀吉だけは女一筋だった。男系皇統にこだわるからには男色は禁止されてそうだと思うけどどうかな。過去の法皇とかには男色の噂とかあったきがするけど。それに、秀次を関白にしておきながら、秀頼が生まれたら秀次に腹まで詰めさせて秀頼にあとを継がせようとしてる。まあでも、これは親なら普通なんだろうか?秀吉が自分は落胤であると信じていたら、自分の血こそを残さねばならないと思ったのも無理はないと思うが……まあ多分種無しなんですけどね」
『人の心とかないんか』『人心無』『ホモが嫌いな女子なんていません!』
次回予告
本能寺の変配信、そろそろおわるかな
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