第12話:手刀の極意
ボクとティアラは、暗殺部門の使い――
「「「……」」」
三人の間に会話はない。
なんとも重苦しい空気だ。
そんな折、老爺は一瞬だけこちらに視線を向けた。
(……ホロウ・フォン・ハイゼンベルクは危険な男じゃ。圧倒的な武力に加えて、底知れぬ不気味さを感じる。このまま主人のもとへ、連れて行ってもよいのじゃろうか……?)
彼は小さく首を横へ振り、
(いや……儂はドラン様の道具、意思を持たず、ただ命令に従うのみ)
再び、音もなく足を進めた。
その後、無言のまま歩くことしばし、前方に小さな
「どうぞお入りください」
中には赤茶けた
長い廊下を進み、突き当りを右へ曲がり、地下への階段を降りた先――大きな鉄製の扉にぶち当たる。
「主人はこの中でございます」
老爺がゆっくりと扉を開け、
「ご苦労」
ボクはそう言いながら、威風堂々と中へ入って行く。
するとそこには、
床に敷き詰められた真紅の絨毯・天井に吊り下げられたシャンデリア・力強い大男の
随分と贅沢な空間の最奥、本革のソファに屈強な大男が座っていた。
「んぐんぐんぐ……ぷはぁ……っ」
豪快に酒瓶を
「おぃ゛ティアラ、てめぇ何ふざけたことしてんだ?」
彼こそが、ウロボロスの
身長は190センチ、
彫りの深い顔立ち・鷹のように鋭い眼・上半身に龍の刺青、かなり
筋骨隆々な体付きで、白いジャケットを肩に掛け、黒い作業ズボンを穿いている。
ドランは葉巻に火を点け、フーッと煙を吹き散らした。
「俺ぁ、言ったよな? 『ホロウ・フォン・ハイゼンベルクを殺して来い』ってよぉ。それがなぁんで、こいつと楽しそうに観光してんだ? ……ぶち殺すぞ?」
ティアラに向けて、刺々しい魔力が放たれた。
しかし、
「……」
彼女は眉一つ動かさない。
「ほぉ……ちっとは度胸が付いたじゃねぇか。昔はちょっと
「『もっと恐ろしい人』を知ったのよ。あなたのような小悪党じゃない、『本物』をね……」
ティアラは淡々とそう言った。
(
間違いない、ルビー先生のことだ。
(……いや、怒ったダイヤさんかもしれないな)
ボイドタウンの住人が、
「はっ、こりゃ傑作だ。あの生意気なティアラが、完全に牙を抜かれてやがる!」
「ふふっ、この程度で済んだあたしは、けっこう幸せ者なのよ? 『被害者』の中には、
きっとゾーヴァのことだ。
(あれは……うん、悲しい事件だったね……)
ボクは小さく頭を振り、思考を切り替える。
かつての仲間同士、積もる話もあるだろうけど、そろそろ仕事を始めようか。
「――ティアラ」
「はっ、<
彼女が固有魔法を展開し、世界の時がピタリと止まる。
この中で動けるのはボクとティアラ、
「はっ、甘ぇよ!」
そしてドランもまた、これに対応してみせた。
彼の持つ固有では、<
おそらく、時間停止に耐性のある装備品を身に付けているのだろう。
(多分、右手の指輪かな?)
ボクはそんなどうでもいいことを考えながら、クルリと
凄まじい音が鳴り響き、唯一の出入り口がひしゃげる。
(ふふっ、これでもう逃げられないね!)
ちょうど三秒が経過し、時は再び流れ出す。
「「「なっ!?」」」
モブ敵たちが驚愕に瞳を揺らす中、ドランは
「おぃホロウ……そりゃなんの真似だ?」
「逃げられては面倒なのでな、先に扉を潰させてもらった」
やっぱりこういうときは密室に限る。
万が一、ということもあるからね。
(たとえ相手がどれだけ弱くても、『油断』と『慢心』だけは絶対にしない!)
しっかりと場を作ったうえで、盤石に確実に仕事をこなすのだ。
(さて、そろそろ『お迎えの時間』だ)
ボクが
「ドラン、元幹部のよしみで忠告してあげる。今すぐ膝を突いて、ホロウ様に慈悲を
へぇ……けっこう優しいところあるじゃん。
暗殺者として「筋が通っているなぁ」とは思っていたけれど、まさかこんなに仲間思いな子だとは思わなかった。
彼女のヒロイン力が、今回のイベントでグーンと上がった気がする。
(それもこれも全て、ボクの作った『家族システム』の成果だね!)
もしもあのとき、ティアラをサクッと殺していたら、彼女の内面を知ることはできなかった。
(安易に命を奪うのではなく、ボイドタウンで
今後も折に触れて
ボクが満足気に頷く中、ドランは嘲笑を浮かべる。
「はっ、なぁに寝ぼけたこと言ってんだ? 極悪貴族だかなんだか知らねぇが、十五で継げる家なんざ、たかが知れてんだろ。所詮はガキのおままごと、『本物の殺し屋』ってもんを教えてやるよ!」
彼が右手を振るうと同時、壁際に控えていた三人の暗殺者が、ほとんど同時に襲い掛かってきた。
それぞれの手には短刀が握られ、首・心臓・足と急所をしっかり狙っている。
みんなモブっぽい顔だけど、ちゃんと
(ただ……遅過ぎる)
ボクは右腕をサッと振るい、
「ぁ゛!?」
「ぐっ!?」
「ぉ……ッ」
トントントンってリズムよく、モブ敵の首を打ち抜いた。
(おっ、今のは
綺麗に意識だけを刈り取れた――はず。
期待に胸を膨らませながら、ティアラに目を流す。
「どうだ?」
「……三人とも首の骨が折れております。さすがはホロウ様、見事なお手前ですね(やはり強い。いや、強過ぎる……っ。魔力強化なしでこの
彼女はそう言って、絶賛の言葉を並べた。
「そうか、
個人的には『イイ抜き感』だったんだけど、やっぱり手刀は奥が深い。
(でも、今のでコツは掴んだぞ!)
ドランを除いて、実験体は後七人もいる。
(ふふっ、いい機会だ。せっかくだしここで、『手刀の極意』を
ボクが邪悪な笑みを浮かべると同時、
「ぐっ、何やってんだ馬鹿野郎! さっさとホロウを血祭りにあげろ!」
ドランが怒声を張り上げ、暗殺者たちが一斉に飛び掛かってきた。
「くくっ、『飛んで火にいるなんとやら』だな」
その後、ボクは七人の首に手刀を打ち、そしてついに――
(うん、無理)
首をトンッとやって気絶させられるのは、
(手刀が弱過ぎたら効かないし、強過ぎたら即座に『首ポッキー』……)
相手を失神させる力加減なんて、とても現実的じゃない。
実際ボクの足元には、首のへし折れた十人の暗殺者が、泡を吹きながら
(『
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