第4話:第五章の攻略方針

【※大切なお知らせ】

帝国担当の五獄ごごくマリンですが、セレスの娘リン・ケルビーと名前が似過ぎているため、『マリン』→『アクア』に変更します。

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 酔いのめたセレスさんと別れた後、ボクは自室に籠って、ひたすら虚空の修業に励んだ。


「よっ、ほっ、はっ」


 虚空を立方体→球体→三角錐と展開したり、虚空玉をいろいろな形に変えたり、極小サイズの黒い渦を黙々と増やし続けたり……我ながら、地味なことをやっている。


(だけど、こういう『基礎的なトレーニング』が一番伸びるんだよね!)


 具体的には、虚空の展開速度と座標の演算精度が向上する。


(最近はずっとドタバタしていたから、隙間時間を有効に使わなきゃ!)


 黙々と努力を続けることしばし――深夜零時を回った頃、廃教会の地下深くで、うつろの定時報告が始まる。

 ボクは自室で修業を続けたまま、<交信コール>を使った遠隔リモート参加。

 今日みたいに忙しい日は、こういう形を取ることが多い。


「――それではこれより、定時報告を始めます。ボイド様にお伝えしたいことがある者は、速やかにその場で起立なさい」


 ダイヤのりんとした声が響き、虚の諜報員たちが次々に報告を始める。


「帝国・皇国・霊国による『同盟会議』が進んでおります。この三国の結び付きは、うつろの世界進出において、極めて厄介かと」


「エルフの国にて不審な山火事が発生、『神樹セフィロト』が脅かされています」


「監視対象ゾルドラ家が、霊国の大貴族と接触しました。来たる『王選』に備えて、助力を願っている模様」


「帝国南部で亜人連合との戦いが激化。皇帝はこれを鎮めるため、『帝国騎士団長』の派遣を決定しました」


 今回はいつにも増して量が多いね。

 それに一つ一つの内容がとても濃い。

 おそらく原作の第一章~第四章が――ロンゾルキアの『序盤』が終わり、『中盤』へ移行したため、同時多発的にイベントが進み出したのだろう。


 ボクは0.1秒だけ沈黙し、最適解を弾き出す。


「帝国・皇国・霊国の集いは、そのまま流して構わん。こちらで手を打っておく。エルフの国は、絶対に守れ。必要とあれば、ウルフの知恵を借り、エメを動かしてもいい。ゾルドラ家は引き続き監視を継続、何かあれば報告しろ。それから――」


 やはりホロウブレイン×原作知識の組み合わせはチートだ。

 複数の話を同時に処理し、完璧な答えを即座に返せる。


「――以上だ」


「「「はっ!」」」


 定時報告、終わり。

 修業もこの辺りで打ち止めだ。


「さて、後は寝る前に『第五章の攻略方針』を決めておこうかな」


 明日から本格的に第五章が始まり、ロンゾルキアの舞台が王国から帝国へ移る。

 いつもみたく『完全クリア』を目指すなら、先に攻略方針を定めておくべきだろう。


(まずはなんと言っても、主人公対策だね)


 現状、アレンの覚醒段階は『三』。

零相殺ゼロ・カウンター>+<魔法反射マジック・カウンター>+<物理反射アタック・カウンター>、三種類の固有魔法を覚えた状態だ。


(これ以上の覚醒は、なんとか阻止したいところだけど……)


 第五章には一つ、厄介な『主人公の強化イベント』がある。

『魔女の秘跡ひせき』へおもむき、自分の起源を見つめるというモノだ。


(アレンはそこで、自分の内に眠る『初代勇者』と意識を重ね――勇者因子を一段階覚醒させる)


『既定の経験値』+『激しい情動』という条件を無視して、いとも容易くパワーアップするのだ。

 うーん、まさに『ご都合主義』。

 The主人公って感じの無茶苦茶なやり方だね。

 さすがにちょっと世間が許してくれませんよ。


(しかも性質たちの悪いことに、『魔女の秘跡』はメインルートの進行上、絶対に避けることができない『強制イベント』)


 いろいろと頭を捻って、迂回策うかいさくを考えたけど……正直ちょっと難しい。


 第五章では、主人公が一段階覚醒する。

 最初からそういう心づもりで臨むのが、精神衛生的によろしいだろう。


(『不幸中の幸い』というべきか、四段階目の覚醒は<全反射オール・カウンター>だしね)


 かつてラウル・フォルティスが切り札として使った固有で、<魔法反射>と<物理反射>を合体させたような魔法だ。

 ぶっちゃけ、そこまで脅威じゃない。

 第五章の主人公対策は、基本路線の『主人公モブ化計画を維持』すればいいだろう。


(次に考えるべきは、ボクの安全についてだ)


 第五章から、原作ロンゾルキアは『中盤』に入る。

 他の多くのゲームと同様、序盤→中盤に移行するこのタイミングで、敵の強さがグッと跳ね上がる。


 今後は虚空の守りを突破する敵も出てくるだろう。

 当然のように『死亡フラグ』も苛烈さを増していく。


 では、どうするか? 


(答えは簡単、ボクがもっと強くなればいい!)


 幸いこの体はまだ15歳、膂力りょりょくも魔力も日ごとにメキメキ伸びていく。「ここで修業せねばいつ修業する?」って感じの『ボーナスタイム』だ。


(魔法士の最盛期は30歳頃、それがこの世界における定説だから、最低でも後15年は伸び続ける!)


『鉄は熱いうちに打て』と言うし、今後も地道な修業を続けるとしよう。


(そして最後に――『第五章の最優先目標』を決めておこうかな)


 ボクはハイゼンベルク家を継ぎ、一つ上のステージへ昇った。

 四大貴族当主の地位と権力は絶大であり、これまでとは桁違いの自由度になっている。

 簡単に言えば、ボク一人であらゆる決定を下すことができるのだ。


(ただ……あれもこれもと欲張った挙句、本当に必要なモノを取り零しては、文字通りの『本末転倒』になる)


 だから、メインルートの攻略を進める前に『最優先目標』を決めておきたい。


(まず大前提として、第五章は今までと完全に毛色・・が違う)


 第一章~第四章は、『大翁おおおきな』ゾーヴァ・『闇の大貴族』ヴァラン・『獣災じゅうさい』ラグナ・『四災獣』天喰そらぐい、各章の大ボスを倒してクリアとなった。


 しかし今回は、彼女・・との戦闘ラストバトルは、『負けイベント』に設定されている。


(基本、あの化物には絶対勝てない)


 これまで順調に進めてきたところで、意気揚々と中盤に突入したところで、『超常の存在』に敗北し――挫折する。

 そういうストーリーラインになっているのだ。


(でも、謙虚堅実に努力を続けたボクなら、その不条理をひっくり返せる!)


『厄災』と呼ばれた虚空を振るい、圧倒的な実力差で捻じ伏せ、『大ボスコレクション』に加えてあげよう!


 ただ、この『負けイベントを覆す』というのは、あくまで『特別クリアボーナス』に過ぎない。勝っても負けても、第六章には進めるからね。


 第五章の最優先目標は、


「――『皇帝・・仲良く・・・なる・・こと・・


 やはりこれだろう。


 彼はとても優秀な男。

 帝国の置かれたポジションも、ボクにとって非常に都合がいい。

 皇帝と親密な関係を築き、じわりじわりと帝国をむしばんでいくのだ。


(いきなり帝国を墜とす案も考えたけど……それはいささか性急だろう)


 実行不可能とは言わない。

 いや、うつろを使えば、確実にできる。


(でも、強引な計画はどこかにほころびが生まれ、武力による実行支配は民衆の反発を招き、将来に大きな禍根かこんを残してしまう……)


 そして現状、

①主人公モブ化計画によって、大きく遅れたアレンのレベリング。

②謙虚堅実に努力を続け、絶大な武力を身に付けたボク。

③虚の結成+ボイドタウンの発展による『組織力』。

 ボクは『圧倒的な有利盤面』を築いており、不要なリスクを取る必要は一ミリもない。


(ここで欲をいて、一気に帝国を攻め落とすのは、『怠惰傲慢な行い』だ)


 たとえどれだけ有利な状況に立っていたとしても、『油断』と『慢心』だけは絶対にしちゃいけない。

 何せ原作ホロウは、いつもそれで破滅してきた。


(だからこそ、真綿まわたで首を絞めるが如く、ゆっくりと確実に帝国を侵略していく!)


 これこそが、『謙虚堅実な行い』だろう!


 そうして『第五章攻略の基本方針』を定めたボクは、帝国担当の五獄ごごくへ<交信コール>を飛ばす。


(――アクア、ちょっといいかな?)


(もちろんでございます! いつ何時でもお申し付けください!)


(ありがとう。それじゃ皇帝にメッセージを頼める? 『極秘会談の日取りを決めたい』ってね)


(はっ、承知しました!)


交信コール>切断。


(ふふっ、明日からまた忙しくなるぞ!)


 王国とは違う空気・文化・風習、イベントもたくさんあるだろう!


(そして何より、皇帝に会える!)


 彼は原作でも大人気のキャラ。

 きっと向こうは嫌がると思うけど、是非とも友人になって仲を深めたい。

 そうすれば、『面白いモノ』が見れるだろう。


「くくくっ、第五章も楽しみがいっぱいだね!」

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