第2話:弱い者いじめ
確かお腹が空いてあちこちの山を摘まみ食いした結果、
ちなみに性別はメスだ。
「これは……ミニチュアサイズの天喰!?(か、可愛い……っ)」
驚愕に目を見開くシュガーへ、簡単に説明してあげる。
「四災獣を滅ぼすには、『特定の手順』を踏む必要があってね。今回はそれを無視して倒したから、一定時間の経過で復活――むぐっ!?」
解説中のボクの顔面に、ソラグマが飛び付いてきた。
「ゼノー! ずっと探してたんだよー! ちゃんと転生できてたんだねー!」
彼女はそう言って、小さな尻尾をピコピコと振る。
(これは……ヒグマというより、柴犬って感じだな)
既に好感度Maxの
「落ち着いてソラグマ、ボクは『ゼノ』じゃなくて『ボイド』だよ」
「えぇっ!?」
衝撃を受けたっぽい彼女は、ジッとこちらを見つめ……ホッと
「どう見てもゼノだよ、ちゃんと虚空因子もあるし」
「確かに虚空は使えるけど、キミの知っているゼノじゃな――」
「――記憶がなくても、目付きが悪くても、腹黒い感じがしても、ゼノはゼノ!」
ソラグマはそう言いながら、フワモコのほっぺを
どうやら虚空因子の有無で、『ゼノか
まぁ……本人がそれでいいのなら、別になんでもいいや。
「でも酷いよ、どうしてオノレを攻撃するの? 『ゼノー!』って思いっきり呼んだのに」
「あんな『超ド低音ボイス』じゃ、何を言ってるのかわかんないよ。それに何より、キミが先に襲ってきたんだからね? 『正当防衛』ってやつだ」
「う゛っ……ごめん」
「いいよ」
素直な子だ。
「ねぇソラグマ、一つ聞いてもいい?」
「うん」
「キミは人類を守護する四神獣だよね?」
「そうだよ」
「どうして人間を襲うようになったの?」
「それはもちろん――」
「もちろん?」
「……なんでだろう?」
ソラグマは不思議そうに小首を傾げた。
「昔、ゼノに人間を守るように言われて……。でも、人間を見ていると頭がぐるぐるーってなって……。あれぇ……?」
「今はどう? ボクとシュガーを見ても平気?」
「うん、なんともない」
「それはよかった(一度死亡したことで、『邪神の洗脳』が解けたみたいだね)」
ゼノの死後、四神獣は邪神に
(何故あらゆる
原初の時代には、『多くの謎』が残っている。
それもそのはず、
このゲームは年に一度、『超大型アップデート』が行われる。
そこで多くの個別ルートに追加ストーリーが実装され、原初の時代に起きた出来事が、少しずつ明らかになっていくんだけど……これがめちゃくちゃ面白い。
(ボクがやっていたのは、確か『Ver12.1』だったかな?)
超大作MMORPGロンゾルキアは、まだ『真の完結』を迎えていない。
(でも、この調子でメインルートを進めれば、この世界の真実を――『全ての謎』を解き明かせるかもしれない!)
ロンゾルキアをこよなく愛するボクにとって、これは本当に幸せなことだ。
もちろん『死亡フラグ』には、細心の注意を払わなきゃだけどね。
「ところでソラグマ、他の四神獣たちはどうしてるの?」
「うーん、よくわかんない。でも、みんな元気でやってると思うよ。なんとなく、そんな感じがするんだ」
「そうか」
残り三体の四神獣は、メインルートの流れに沿って、適切なタイミングで回収しよう。
本編から
(さて……とりあえずソラグマは、ボイドタウンで飼育しようかな)
第四章のクリアボーナス&大ボスコレクション&貴重なマスコット枠として、彼女はきちんと回収しておきたい。
まぁ虚空界は、四神獣の生まれ故郷みたいなものだから、きっと喜んでくれるだろう。
「ソラグマ、ボクの家族になってもらえる?」
「オノレとゼノは、千年前からずっとずぅっと家族だよ!」
「ふふっ、ありがとう。それじゃ、虚空界へ帰ろうか」
「うんっ!」
<虚空渡り>を使い、ボイドタウンへ飛ぶと、
「な、
ソラグマは大口を開けてフリーズした。
「虚空界が、ゼノの聖域が、オノレの故郷が……っ」
ボイドタウンの発展ぶりに驚いているみたいだ。
うんうん、とてもいい反応だね!
「どう、凄いでしょ?」
「凄いというか、凄過ぎるというか……。ゼノは昔から、とんでもないことばかりするね……っ」
そんな風に二人で談笑していると、前方から金髪の大男がやってきた。
「おぅボイド、こんなところで奇遇だな!」
「ん……? あぁ、ラグナか」
その瞬間、背後に控えていたシュガーが、切れ長の瞳を尖らせる。
「ラグナ……いったい何度言えばわかるんですか? 『ボイド』ではなく『ボイド様』と呼びなさい」
「あー、はいはい、わかったわかった」
「返事は一回」
「へいへい」
「あまり反抗的な態度を取っていると、ダイヤ様に言い付けますよ?」
「……悪かった、それだけは勘弁してくれ」
ラグナはすぐに白旗をあげた。
どうやら前に絞られたのが、よっぽど
「せっかくの機会だし、紹介しておこうかな。ボクたちの新しい家族――ソラグマだ」
「ほぅ、空飛ぶ
ラグナは興味深そうに距離を詰め、
「た、タヌキじゃない! オノレは偉大な白熊だっ!」
ソラグマは激怒し、白い体毛を
「おいおい、こいつ喋れんのか!?」
ラグナは感心したように目を丸くする。
「ふふっ、凄いでしょ? なんと言ってもこの子は、四災獣の一角
ボクが新しいコレクションを自慢すると、
「ぷっ、くくく……ぎゃっはははははははは! おいおいボイド、冗談はよしてくれや! この間抜けな白ダヌキが、天喰のわけねぇだろっ!」
ラグナは腹を抱えて大笑いし、
「……ムカッ」
ソラグマは小さな口を頑張って開いた。
次の瞬間、
「――<
「ぉ、おぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛……!?」
かなり手加減されているが、その威力は凄まじく、
「……う゛、ぁ……っ」
ラグナはなんの生産性もなく、ただ無意味に無価値に、瀕死の重傷を負った。
(いや、何やってんのさ……)
多少
彼女の保有する魔力は、ラグナを遥かに超えている。
ちなみに、周囲の建物は<虚空憑依>で守ったので、ボイドタウンの被害はゼロだ。
「前々から思っていたんだけど……キミってさ、絶妙に『不憫属性』を持ってるよね?」
ボクはため息まじりに回復魔法を使い、『金色のボロ雑巾』を補修してあげる。
「むっふー、オノレの方が強い!」
「く、くそったれぇ……っ(金髪のハーフエルフ・
『勝ち誇る白熊』と『挫折する
中々に面白い光景だけど……そろそろこの辺りで、仲裁に入るべきだろう。
「はいはい、うちは『仲良し家族』だから、
「はーい」
ソラグマは素直に頷き、
「よ、弱い者……いじめ……っ」
ラグナは屈辱に震えるのだった。
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