第10話:魔宴祭
聖暦1015年5月27日。
今日から五日間、レドリック魔法学校では、『
これはレドリックの学年行事で、『一年生最強』を決める
放課後十六時より地下演習場にて、一対一のトーナメント形式で
この
ただ……ボクにとっては大して旨みがないので、バッサリ
平たく言うと、サボるのだ。
(今更チマチマトーナメントをやってもね……)
いや、楽しいとは思うよ。
原作キャラと戦ったり、原作キャラの試合を観戦したり、ロンゾルキアのファンとして、参加したいという気持ちはある。
でも今は、他にやるべきことが――もっと優先度の高いタスクが山積みだ。
(
今回は特にそれもない。
だから、カットすることにした。
メリットとデメリットを
(まぁ、魔宴祭の結果もわかりきっているしね)
実質的な最高位は第四位のニア、次点で第五位のエリザとなる。
この状況下における優勝者は――エリザだ。
これは『鉄板』、まず動かない。
確かメインルートでは、準決勝でニアとエリザがぶつかり――エリザの勝利。
(単純に『魔法士としての実力』なら、ニアの方が格上なんだけど……
エリザは『魔法士殺し』の異名を取り、多くの魔法士が苦手とする、『超高速近接戦闘』がウリだ。
一方のニアは、典型的な重火力型の魔法士。
遠距離から固定砲台的な運用をすれば強いけど、接近戦には滅法弱いから、まぁ勝てないね。
そして決勝のカードはアレンVSエリザ、近接戦闘を得意とする者同士の戦いだ。
(メインルートでは、激闘の末に主人公が勝利。ここで発生した『フラグ』が、第二章の最終盤面に繋がってくる……)
しかしアレンは、『主人公モブ化計画』によって、大きな弱体化を受けている。
勇者の力に目覚めておらず、固有魔法は未だ最弱の<
さすがにこの有り様じゃ、エリザには絶対勝てない。
何せ彼女の固有<
(まぁエリザもエリザで、<
あの固有は、雑に使っても強い。
戦闘に特化した仕様で、下手な
ここでボクは――気付いてしまった。
(あれ……第二章って、簡単じゃね?)
だって、
本来のメインルートでは、
ここでエリザは主人公の強さを知り、第二章の最終盤面でアレンを頼り、二人で大ボスに立ち向かって――勝利する。
これが原作ロンゾルキア第二章の筋書きだ。
(でも……このルートのエリザは、アレンに勝ってしまう。それも極々あっさりと)
だから、二人の間に
エリザはこの先もずっと一人だ。
最後の最後まで一人で戦い続け――やがて破滅する。
(ふふっ、なんだ……簡単じゃないか!)
この盤面でボクが為すべきことは一つ。
(主人公にレベリングの時間を与えないよう、最速最短でメインルートを進めるッ!)
もはやアレンには、サブイベントにさえ触れさせない。
爆速で本編を推し進め、第二章を一気にクリアしてしまう。
(さらにそのままの勢いで、第三章・第四章・第五章と進めていけば――主人公は完全に『モブ化』する!)
ロンゾルキアは剣と魔法のRPG、メインルートが進行するに連れて、敵もどんどん強くなっていく。
レベリングに失敗したアレンは、もはや本筋に関われない、ただの足手まとい。
そうなってしまえば、完全に
(ふ、ふふふ、ふふふふふふふ……っ)
『世界の修正力』だかなんだか知らないけど……ちょっと遅かったね。
ボクはもう手にしてしまったんだよ。
圧倒的なリードを!
絶対的な優位性を!
ほんの僅かに気が緩んだところで、すぐさまギュッと引き締める。
(ふぅー……落ち着け、『怠惰』と『傲慢』だけは絶対に駄目だ。原作ホロウは、何度もこれで
たとえどれだけ有利な盤面を築いたとしても……いや、有利な盤面を築けた今だからこそ――『謙虚堅実』に行かなきゃね!
ボクは寄り道をすることなく屋敷へ
さて、ロンゾルキアの世界では、子どもは十五歳で大人という扱いになる。
酒も賭け事も夜遊びも全て解禁だ。
めでたく大人になったということで、ボクはこのところ、ハイゼンベルク家の『裏の仕事』を手伝うようになった。
当主になるための『
うちが
(ロンゾルキアの世界には、そこかしこに悪い奴等がいるからね。……いや、それは現実世界も一緒か)
とにかく、うちへの仕事は山のようにあるのだ。
(これで五件目? いや、六件目か? そろそろ『当たり』を引きたいな)
第二章を進めるには、ハイゼンベルク家の屋敷で、父から『とある仕事』を任されなくてはならない。
(ただ……これが『完全ランダム』なんだよね……)
原作ロンゾルキアには『
だから、とにかく数をこなすしかない。
(父から与えられた仕事は、これまで六連続で『ハズレ』……)
でも、今日は違う。
(おそらく……いや、確実に当たりを引く!)
そんな確信めいた予感があった。
その後、メイドのシスティさんに呼ばれ、父の執務室へ招かれたボクは――思わずグッと拳を握る。
(き、キタキタキタァー……ッ!)
父の背後にオルヴィさんが立っている、これは
今回の仕事は、ボクがずっと待ち望んでいた
口角が吊り上がるのを必死に抑えつつ、努めて平静な顔で父ダフネスの前に立つ。
「お呼びでしょうか、父上」
「――ホロウよ、お前も十五となり、最近は当家の仕事を手伝うようになった。偉大なる先祖たちも、その成長を喜んでいることだろう」
父の
こういうの、本当に大好き。
「今回の仕事は、
彼はそこで言葉を切り、たっぷりと溜めて――告げる。
「――『闇の大貴族ヴァラン辺境伯』を
「はっ、承知しました」
「ヴァラン
父の視線を受け、オルヴィンさんがこちらへ封筒を差し出す。
「――坊ちゃま、どうぞこちらを」
「うむ」
どうやらこの中にヴァラン卿の情報が入っているらしい。
せっかくだから、有難く使わせてもらうとしよう。
「
「失礼します」
っというわけで、ヴァラン辺境伯を始末することになった。
いやぁ、ついに来たね!
やっと引けたよ、大当たり!
ヴァラン辺境伯は、第二章における『大ボス』。
ボクは最優先事項として、本件に当たるつもりだ。
(父は締め切りとして、『三か月以内』と言ったけど……。そんなに時間を掛けちゃ絶対に駄目だ)
ボクは将来ハイゼンベルクの家督を継ぐ。
ここで問題になってくるのが、『いつ当主に就任するのか?』ということだ。
もちろん、早ければ早い方がいい。
(一日でも早く当主を継ぐためには、①父の評価を稼ぎ、②臣下の信頼を得る――この二点が重要だ)
①父の評価は言わずもがな。これはハイゼンベルク家の仕事を手伝うことで向上する。
②メイドたちの信頼は、この六年の間に頑張って稼いできたつもりだ。でも結局、人の心の中ってわからない。
みんなに認められるには、みんなを黙らせるには、『圧倒的な実績』が必要だ。
(だからこそ、この仕事は最短最速で、一日でも早くクリアする!)
周囲の期待を超える大きな成果を出し、
(しかし……ふふっ、楽しみだなぁ……!)
ボクが
ニアにも言ったけど、四大貴族当主の力は凄まじい。
取れる選択肢の幅が、切れる手札の数が、戦略の奥行が、無限大に広がる。
(そのときは、『公務』というちょっと面倒な縛りも生まれるけど……まぁフィオナさんを上手く使えばいい)
(序盤を――
この勢いに乗って、ヴァラン辺境伯をサクッと狩ってしまおう!
そしてその過程で、
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